言葉
「戦いとは常に熱く燃え滾るように相手を殺すの。 久しいわ久しい…こんな気持ちになるなんて私もまだまだ生きてるって証拠ね」
だから、とリリィは続ける。
「とりあえずあの子達は邪魔ね、インバルス!」
そう言うと彼女の背中の空間が割れ、それが出てくる。
「アァアアアァアアアアアァアァァァァ!」
それは黒い何かで、黒い人型の数十メートルはある何か。 頭から足の指の先まで螺旋の線を描いたその巨大なものはそのらせん状の線に見えていた目を全て開き咆哮する。
そしてアルたちとリリィを後者側の生徒たちと遮るように覆われる巨大なドーム状の半透明な漆黒の膜。
「本格的エクストラバトルの開始…みたいだな、気ぃー引き締めろよ…」
返答はない。 だがそれでいい、もうすでにそれは始まっているのだから。
『攻めは左と後ろからアサシンで翻弄、牽制に俺が中距離を保ち効果範囲はずれないぎりぎりで後衛組み、任せたぞ』
そう、意識を伝えると、各自戦闘を開始する。
「いくよ、エクシード」
「おうよ」
そう声をかけ発動する。
「我が身は駆け抜ける一陣の闇」「我が身は駆け抜ける一陣の闇」
「攻を捨て我は闇と成る」 「守を捨て我は闇と成る」
デュアル発動。【ユニゾンスキル:攻守一体】
隠れ桜が守りを捨て、エクシードが攻めを捨てる。
「へぇ……戻って、インバルス」
リリィの言葉に後ろの巨人が反応し霧のように薄れ消えていく。
「余裕の表れか?」
「いいえ、あなた達は私の手で殺すと決めたの。 私じゃない何かに殺されるのはあなたたちも嫌でしょ?」
「撃て。 ちっ」
「あら? それが返答かしら」
発動した魔弾はいとも容易くリリィのその小さな手で防がれる。
「死ぬのはお断りだ」
「あらあら………と言う事はあなたたちもかしら?」
リリィはその身に漆黒を纏いその姿を後ろへと後退させる。
そしてその場に現れたのは隠れ桜とエクシードの姿。
「たりめえだろ」
「…」
『ダル、一発でかいのかます準備しといてくれ。 使うときはあいつらが引いたとき、合図は出す。 セイリは回復魔法の用意を』
『おうよ』
『了解』
意思を伝え目の前の戦闘に目をやる。
隠れ桜とエクシードの連携による怒涛の攻め。 もともと速度(DEX)への極振りの隠れ桜は速度の一点突破の回避型および先制キャラでソロはきついのだがそれを補っているのがエクシードの存在とユニゾンスキルによる補助である。
エクシードはオールラウンダーのアサシン、いやシャドーに位置するアサシンの上位職。 レベルは隠れ桜の倍近い587、だがそれでも付いていけれているのは隠れ桜の極振りのおかげでも合った。 その職業に合ったステータスポイントを振ることはそのポイントの能力地も上がることはもちろんだがそれに比例し攻撃力も上がるのだ。 しかし攻撃力は大幅に上がるというのにこのステータス振りはゲーム内でも600近くまでは多いのだ、その理由が装備である。
装備にはその装備を装備するための必要能力値があり、DEXの一点振りをしていると、その装備に必要なDEX以外のSTRやAGIが足りず装備が狭まれると言う問題が起きるからだ。
最終的に600レベに入ると装備差もあり普通振りのキャラの能力値が勝つが200~600までの間では極振りが異様な強さを誇るのだ。
そうしてレベルを十分に上げたところで捨て振りを少しずつ極振りから戻していくのだ。 そうして完成系に近付くのが670代後半である。
極振りも普通ならば、300~500の間でDEX以外のステータスも少しずつ振るのだが、そう普通ならば。 ところが隠れ桜は普通ではなかった、300半ばと言えどDEX以外のステータスは初期段階で振られている数値しか振っていないのだった。 それが隠れ桜のこちらに着てからの異常な強さの理由であった。
右から攻めるように左に流れ右から左、上、斜め右下、左、フェイントを織り交ぜ右から下。 リリィを中心に縦横無尽に織り成す連撃の数々。
隠れ桜は自分の刀を使い、エクシードはその己が持つ拳で敵を討とうとする。 が、その猛攻を受けているリリィは余裕の表情はないが無表情でその猛攻を受け流し防ぐ。
(こりゃあ…きちいもんがあるのか…)
最初に彼女らの猛攻により様子見を決めていたアルはその状況を見て苦い顔をするだけする。
攻めきれないのだ。 これだけの攻撃手数を行おうと、攻めきれず防がれている。 このまま攻めにいっても流れは掴めず敗北は目に見えてしまう。 だが…、
(それでいい)
それでよかったのだ。 本来の目的は時間稼ぎ。 自分に合わない敵と戦っているのだ、仕方ないことだ。 ただ重要なのはいかに殺されずに時間を稼ぐかだった。
「きゃあ!」
「!」
リリィの反撃を受けた隠れ桜が片腕から血を流し数歩離れた位置に離れる。 それを見て考えていた思考を止め指示を飛ばす。
『いったん引け!』
急ぎ意思を飛ばし、予想を立てて考えていた行動を取る。
「割るべき空は此処!」
発動。【アクティブスキル:キャッスル・ゲ-ト】
此処とあっちを繋ぎ、隠れ桜とエクシードの二人を回収する。
「あら逃げるのかしら?」
「くっ…」
にらめつける様にッリィを睨んだ隠れ桜を回収し、叫ぶ。
「ダル!」
「まかせろ!」
アルの言葉に反応したダルはその手に持つ巨大なハンマーを後ろに引きその身を低く構え爆発するようにその場から突出しリリィに肉薄する。
「あらあなたが相手してくれるのかしら? 残念だけどあなたは後の予定なのだけれど」
「そーかい、でもちょっと相手してもらうぜぇ!」
そう言い、そのハンマーで相手を押し潰さんとするように叩きつけるが。
「あら? こんなか弱い攻撃で相手をするというのかしら?」
いとも容易くその小さな手に止められてしまう。
「触ったな?」
「?」
その言葉にリリィは疑問符を浮かべるが、ダルはそれを見てにやりとする。
「吹き飛べ…爆砕!」
発動。【アクティブスキル:爆砕撃】
「ガッ…!?」
瞬間。
走るのは衝撃と爆音。
リリィが触れていたそのハンマーの断面から発動したスキルがそのリリィの小さな小柄を吹き飛ばし結界に叩きつけ土煙が舞う。
爆砕撃、そのスキルは発動した術者の武器に触れているものに防御力を無視した貫通ダメージ…無慈悲な一撃を与える一撃必殺のスキルだった。 その例に漏れずエクストラボスであるリリィですら防御力を貫通する一撃にその身に強大な一撃を受けてしまった。
「ナイスだ、ダル」
「おうよ」
そう言って定位置に戻ると武器を構えなおす。
「ありがとう、セイン」
「これが私の役目だからな」
シーフ組みも体勢を立て直した。
そして最初の陣形に戻り土煙が消えるのを待つ……が、
「いない…?」
土煙があけたがそこに目標となるものはいなかった。
『各自注意っを…』
そう意思を飛ばした時だった。
『此処から……離れろっ!』
「っかは!?」
『お願いだ…勝ってく……』
ダルの意思と声にならない声がアルたちに届いたのは同時だった。
そして見てしまう。
「あら? 意外と脆いのね」
すでにこの世界から命をなくしたダルの姿を。
そして知る。 先ほどの言葉がダルの最後の言葉だったと言うことを。
_to be continued.