彼女は言った「フィナーレはあなた」
ぐろいかも、どの程度がぐろいのかわからんのだがの
「各自他人を守る気でこの場を切り抜けるぞ! 今までの経験技術を無駄にするな! この中には3度4度と経験したものもいるだろう! 初めてのものもいるかもしれん…だが! 生きるぞ!」
そう言われ警戒態勢に入り約1時間経過。
警戒態勢により校舎を後ろにするように陣営を組み市民を守るための陣営。 市民は
校舎にいるのではなく校舎の裏の城壁側付近に非難しておりいざと言うことを考えて技術だけでも逃がすようになっている。
そしてさらに30分が経過し、本部の方と扉辺りが騒がしくなったときにそれが起きた。
陣営の中心に次元が裂けそこから少女が出てきたのだ。 一人で。
不意な登場により生徒たちに不安がよぎるが陣営を崩さないようにそれを中心に空間ができるように円を作りつつ後退する。
そんななか何事もなかったように優雅に裂け目から降り立ち開いていた日傘を静かに閉じあたりを見る。 そして目が合う。
「今回は外れを引いたかしらね………あら? あなた…」
そう言って目の前に降り立つ金髪のゴスロリの服装をし手には漆黒の日傘、その背に持つ漆黒の羽。 それを表す意味は魔物。 そして人型を持つと言うことは上位種族。
「……不思議な形をしてるのね。 いや…それは必然の形かしら? その形を保つためのだから似ている…いえ、瓜二つ、ドッペルゲンガーのようなものね」
勝手にしゃべりはじめる魔の少女の言葉に誰も返すことはない、警戒態勢のため、いや。 ただ単にその少女の存在に圧倒されているため。
「だ、誰に言っているだ…」
誰が言ったのだろう、その言葉に少女はきょとんとしたようにし傘をそれに向ける。
「そこの狐の少年によ、エルフの少女さん?」
「んなっ」
目が合ったからといってよりによって俺かよと内心ごちる少年はめんどくさそうな目で少女を見返す。
「その目よその目……私は知っているわよ。 めんどくさそうにしながらも思考をめぐらせ、この世界の傍観者足らんとしているその目……」
「生憎だがおたくとは今日が初邂逅なんだがな」
「その態度も…自分は何も怖くないと虚勢を張るような恐れるものはないというその態度……本当にそっくりだわ」
何を言ってやがる。 その考えはアルだけではなくこの場にいる過半数に疑惑がわく。 残りのものは恐怖に。
そしてその恐怖と緊張に押しつぶされた者が動き出す。
「っりゃあああああ!」
「やめろっ!」
―ぐしゃっ―
誰が叫んだのかも分からない。 誰が止めたのかもわからない。
ただいま目の前にあるのは、
「下品ね…」
圧死した人の形であったものが首から上だけの原型を留め、少女の足元に晒されているだけ。
ことは一瞬。 突っ込んだ生徒が止めた教員を振り切りその自慢の拳を持って少女を倒そうとした、だが返り討ちにされた。 近付いた瞬間に少女の頭上近くから出てきたその身の3倍はあろうかと言う漆黒の柱に、頭だけを避けられそれ以下を潰された。
「うぐっ」
誰かが吐いたかは分からない。 だがそれが波のように広がり瞬く間に異臭が広がる。
「まったくあなたたちも下品ね」
そう言って少女はしゃがみ落ちていた頭を拾い手の上に立たせるようにそれを眺める。
「でもこれは中々にいいわね。 あんまりにも簡単に死んでくれるからこんなに綺麗になっちゃじゃない」
そう言って少女はその補足綺麗な指を目に這わせその隙間を探り奥へと進行していく。 進行はえてして二本三本とその指の数を増やし顔からは血の涙が上からも下からも流れ出す始末になる。
そしてその指がその目をくり貫き愛しそうに撫でる姿を見てアルは思い至る。
「黒い漆黒の柱に、目玉………。 あんた、もしかして…」
「あら? 気づいてくれたかしら? うふふ…男性からのアプローチは嬉しいものよ? 特にあなたとなれば」
「近付く気なんてねえよ…そんなことはどうでもいい。 なんでここにいる? なんでこんなところにいるんだ…、愛眼公の愛娘…」
その言葉の瞬間に更なる動揺が走る。
「瞳クエのえ、エクストラボスとかかてるわけねえじゃんか! あんな化け物、600越えじゃねえと勝てるわけねえじゃんか!」
「っ! ……ちっ」
エクストラボス、それは各フィールドにいるエリアボス、又はクエストボスの後に極まれに出現するボスの総称。 このボス討伐には拒否権があるために必ずしも戦う必要がないが、そのためかその強さはクエストのレベルにもよるが、500レベクエのエクストラボスでさえ600レベ以上のフルメンバーでかかっても善戦できない程の強さであるゆえに一部からは腕試しとされる最上級ボスに存在するボスのたちのことであり、このゲームのボスたちにはすべてシナリオにそった出来事やオリジナルストーリーがあり、今目の前に対峙している愛眼公の愛娘は558レベクエスト【彼女の瞳を捜せⅦ】で出現するクエストボス、愛眼公を討伐した後に現れる少女だ。
そして公式設定によれば…。
「ねぇ、狐さん? これ開放いてくれないかしら?」
「そうしたらお前はあいつ殺すだろ」
「もちろんよ? 私を化け物呼ばわりした人間は生かしていないの。 今も昔も」
「っひ…」
その言葉を聞いて先ほどの発言をした少年は獣人の脚を生かして陣営から逃走を謀ろうとしたがそれも半ばで終了となる。
少年が走り陣営を抜けたところで少年は亡き者となる。
案の定漆黒の柱に潰され形亡き者となった。 陣営の中で被害を出さないだけましかと思う思考にアルは苛立ちそれを目の前にいる少女にぶつける。
「本当はこの手で殺したかったのだけれど……あなたのせいよ? 彼が無残な形で死ぬこともなかったのに」
「うるせえよ」
「あら……? 私としたことが少し失敗したようね」
その言葉と同時に走る光と魔法線。 それが向かうのは少女を除いた全員、学院生教師にかかる永続バフ。
発動。【アクティブスキル:グランドシェル】【アクティブスキル:グランドエール】【アクティブスキル:グランドリークヒール】
発動したのはバフ系統最大の呪文、守を大幅に、攻を大幅に、持続回復効果を術者が存在し続ける限り効果を与えるバフ。
教員4位の位を持つ者は後衛のエキスパート。 いわゆる白職と言うものであった。
攻撃スキルはほぼ持たずにPT支援に徹底すると言う職業。
だからこそここの守りに大きく割り振られここを守護する。
「あなたはここにいて気づいていたのかしら? 後ろから発動する魔法に」
「…気づくわけねだろ、あんた相手にいっぱいいっぱいだ」
「そう……でもちょっと尺ね、あなた一人にここまでされるって言うのも、だから」
その言葉の先は漆黒の柱が意味を表す。 ちょっと死んでくれないかしら? と。
「ちっ! 己がそれは敵を穿つ!」
発動。【アクティブスキル:重力爆印】
スキルはアルの構えた手から発動され目の前に現れた4つの柱をその一つずつに職業紋章の形の傷跡を残し打ち砕く。
それがキーとなり陣営は大きく動き出す。 バフを受けた加護により少女の周りにいた生徒と教員は後ろを開け校舎のほうへと飛行補助スキルをかけ駆け上がっていく。 その時点で魔法組みと接近組みがわかれ、魔法、盾組みは校舎の屋上へ、接近職組みは校舎裏へと支援に向かう。 多人数は得策ではないとふみ。
アルたちを含んだ7人のオールラウンダーのチームで時間稼ぎという作戦になったようだ。 正直な話を言えば時間稼ぎですら壊滅的な状況、相手があるに興味を持ったと言うことでこれが決定した。
そんな思案を知ってかしらずかアルは正直なとこやる気満々、相手もやる気満々、アルのチームのかたがたご愁傷様という状況になっていた。
「…………」
アルのスキルを見た少女は何かを考えるように動きを止める。 それをチャンスに陣営は大きく変った。
「…あら? あなたたち以外は様子見を決め込むらしいわよ? あなたたちは逃げなくていいのかしら?」
「逃げるなんて選択肢ねーってことぐらい分かってるよ。 それにあんたも逃がす気とかねーくせによくそんなセリフ吐けるな」
「それもそうね」
と愉快そうに笑う少女にアルは内心の焦りがやばいことになる。
「わりいな…みんな。 どうも俺のせいであんたらまで巻き込んだようだ。 生きて帰ったら思いっきり殴ってくれていいぜ」
「その約束忘れんなよ」
「死なせなんてしないけどね」
「死にたくねーけど、ここはちょっといいとこ見せないとね」
そんなアルたちを見てさら愉快そうな少女。
「やるなら俺だけでも名乗っておこう、重力使いのアルだ。 さぁ、一発かまして帰ってもらうぜ? 幼い少女」
「あら、ご丁寧にどうも。 私の名前はリリィ、リリィ・ブラッドアイズ。 少しは楽しませて頂戴ね? 黒狐」
そしてアルのスキルにより開戦は本格的に幕をあげる。
「疎を穿て!」
発動。【アクティブスキル:重線爆印】
腕を間の前でクロスさせるように振りぬいた上でから発動する灰色の線状の貫通スキル。
「いきなりね」
リリィはそう言うと傘を構え、二本が当たると同時に傘を開き受け流すように後ろへと軌道を変えさせる。
「どんな傘だおい」
「すばらしい傘よ」
アルたちに勝ち目はない、だがやることだけはやる。
「ならそのすばらしい傘はどうにかしねえとなぁ」
「ですね」
その声の発生点はリリィの後ろ、アルのスキルが着弾した煙幕の中、左右から二人のシーフが影を這うように先ほどの間にリリィに近付いていた。
「なっ」
「ぶっ壊れろ」「壊れろ」
発動。【アクティブスキル:スチールブレイク】
発動と共に二人のシーフの両腕が光り出す。
走って近付いていた二人は驚くリリィの横にたどり着くと左にいる隠れ桜は右足を、右にいる男シーフ、エクシードは左足を踏み込み、それを基点に体を捻りその回転力を使い隠れ桜は右手で、エクシードは左手で各々の目の前に現れた柱を叩き折る、そしてそのままもう一回転しその余った片手で傘をは挟み込み叩き折るように殴る。
-ガギン-
鈍い音共に漆黒の日傘がしなる様にリリィの手から弾けとびアルの目の前に転がる。 そしてシーフ二人はアルの後方、他の仲間がいるところまで下がる。
それまでの行動は流れるように綺麗に起き見るものを魅了するほどの技術だった。
「これは……なるほど…ね」
対峙したリリィですら驚愕する技術にリリィは大方の予想をつける。
「おい、もうばれたぞ」
「ばれるのはえええ」
「後手に回るのか」
「めんど」
「そーいうなって」
「でも流石だなー」
「えー守ってくださいよ~?」
とチーム内は警戒態勢な割にゲーム感覚だった。
しかしこれはある意味では悪いことではない。 今自分はVCしながらVRゲームをやっているんだ。 そう思うようにやると言うのも最悪の一手だったからだ。 死ぬとは思いたくない、ならば死なないころの自分を描きそれに合わせ体を動かす。
言うは易く行うは難し。 しかしここはその言葉があった世界ではない。 それが可能にしたのは、
「そこの白い帽子をかぶった少女か、その隣の黒いローブを着た男かしら」
「さて…、俺かもしれんぜ?」
「…あなたは防御魔法が苦手なようだし、その線は薄い。 ならば後は消去法、黒いローブの男は先ほどシーフに加護をかけていたからたぶんヒーラーあたりかしら、なら残るのは白い帽子の少女」
「うぐっ」
「あなたがこのチームの生命線となる。 人物ね…。 ふむ…魔道士あたりかしら」
「もう職業までばれちゃったじゃないですか!」
「なんでそんなに声上げるんだよ…」
もろ言っちゃってるよこの子と、その白い帽子をかぶった少女、Lalasaを横目で見つつ隙を付かれない様にため息。
Lalasaは魔道具を専門として使う職業の魔道士、通称緑職である。 その彼女の役割は魔道具を駆使した意思伝達によるグループの円滑なる戦闘補佐である。 彼女の魔道具を何かしらの形で見につけているアルたち6人は頭の中での単純な命令をお互いから聞き取ることができ、そのおかげもありシーフ二人は見事な連携を見せたのだった。 それに加え魔道士の魔道具の効果は不思議な効果なものが多く、ゲーム感覚でやれているのもLalasaのおかげ。
だからこそこの子が要。 戦闘能力はあるがそこまで高くはないためチームの砦として狂戦士と聖魔術師の間におきそこを基点としていた。
「じゃあ、私はその子を潰してから、私の傘を飛ばしたシーフの二人、それから残りの3人を潰してから、最後にアル。 あなたがフィナーレを飾るのよ」
ごくり…と生唾を飲む音が聞こえる。
空気が変った。 強者の風格。 嘗めていたものを捨て徹底的に戦うという意思表記。
「それでわ、始めましょうか……殺戮を」
「守り通す…!」
_to be continued.