各々の戦い方
「ふ! っは! せりゃあ!」
「……」
右から流れるように左に引いたかと思うと手を返し切り上げへ魔剣士は流れるように綺麗に美しく型をなぞる様にその剣を魅せる。
「あなたっ! 防御! スキルを! 使わないのですね!」
「それは、お前も、一緒だな、魔法を使わない」
つまり、お互いの考え付くことは一緒だった。
「あなたもですか」
「お前もか」
すばやく振り上げ落とした剣をその棒の腹で受け、均衡状態を保ちつつアルとルサルカは声を合わす。
そして試合が経過してしばらくたった今試合の流れが変わりだす。
もちろんお互いが考えていることは同じだった。
それは、
「攻め方を変えさせてもらいます」
「守り方を変えさせてもらおう」
そのことに尽きた。
そして流れは一変する。
「せぁ!」
「っく…これは………なるほど、魔剣士のわりに軽装備だと思ったらそう言うことか…」
ルサルカの攻撃を今まで流してきたアルにルサルカの攻撃が腹に決まり軽く後ずさりながらそう言う。
「まさか格闘技とはな…」
片足で立ち脚を振りぬいているルサルカを見てそう呟いた。
「よく言いますね」
アルに追撃を加えさせることができずアルが言う言葉を言わせることができるほどゆっくりと正常位置に戻ったルサルカは苦虫を潰したようにそう言った。
「魔法使いの癖にその判断速度と発動速度…まさに規格外ですね。 まさかそこまで私と一緒とは何か運命を感じますね?」
簡単な話だった、アルは攻撃を受けると判断した瞬間、反撃魔法を発動したにすぎなかった。 それも常人では発動できないほどの速度で。
「【カウンタースキル:ディ・スロウ】だ。 自身が攻撃を受けたら与えた相手に速度低下バフを数秒付けると言ったもので…まぁその効果は身をもって味わっただろう? まぁ、これを発動した3秒間は他のスキルは使えない逃走用といったものさ」
そう言って肩をすくめるアルだがルサルカはいい顔をしない。
それもそのはず、つまるところアルが攻撃を受けるとこちらの動きが封じられ、アルがその間にスキルを使えずとも距離を空けれる…つまり距離のアドバンゲージ絶対的に後攻になったアルにあると言うべきものだった。
「それがFUのスキルですか…厄介ですね…、今の効果から予測するに他のスキルも移動は重力…重さなどに関係スキルと言うことですかね?」
「…そこまで思いついてんなら黙っててもあまり意味がねえな…、まぁそんなもんさ。 ゲーム内でのこの職は重力使いとも呼ばれたもんだ」
「なるほど…」
「ならそろそろ、相性は悪いが俺らしい戦い方をするとしましょうか」
「……行きます!」
その言葉と共に試合は再開される。
「鏡よ、唱えて現れろ!」
発動。【アクティブスキル:ディロウ・ミラー】【ディメンション・ゲート】
言葉と共に現れるのは半円球の不気味な鏡のオブジェクト、その鏡が迫ってくるルサルカの進路の邪魔をしさらにバフ効果を与える。
「邪魔な…!」
「しかしそれだけじゃ終わらんぜ?」
その言葉の意味はすぐに現れる、四方形の巨大なステージの全体を埋めるかのような巨大な黒色の魔方陣が地面に展開する。
「力よ触れ!」
2節の発動キーがあらわすのは中級スキルの印。
「魔よ集え!」
それに警戒するルサルカは上級位の防御スキルを張り耐性を低くし盾を上に構える。
発動。【アクティブスキル:ディンズ・メテオ】
発動。【アクティブスキル:ブレイブアイアン】
空間を裂き現れたのは巨大な隕石が一つ、ゆっくりと現れると同時に全て出終わると空気を裂きルサルカを潰そうとする。
爆音。
土煙が舞い相手の姿が見えずともアルはその手を緩めない、戦う相手はつねに格上。 ならばそれ相応の覚悟と意地で戦わなければならない。
「慈悲よ!」
発動。【アクティブスキル:ブレイブヒール】
煙幕の中から聞こえる節、それはrooooが戦った騎士と同じスキルであり回復系統の補助スキル。
それに内心舌打ちしながら3節のスキルに入りにかかる。
「闇よ…時限を裂き、咲き乱れろ!」
発動。【アクティブスキル:グラビティエア】
上空の空間を裂いて出てくるのは3メートルほどの球体。 その球体からは幾重にもなるレーザーが断続して放出しており範囲を言うならその球体の倍をもあるのではないかという黒球がゆっくりとルサルカに向けて頭上から落ちてくる。
「次元にっ!」
「なっ! こんな大技を連続で!?」
「押し潰されろ!」
「くっ…魔よ集え! 守よ!」
発動。【アクティブスキル:ブレイブアイアン】【ブロッキング】
「ぜりゃああ!」
「んな」
防御スキルを纏い捨て身の突進でその重力の壁を越え突き抜けてきたルサルカに接近を許してしまう。
「やばっ」
「神谷流…一閃!」
そして懐に入ったルサルカによる技術による鋭い横凪。
「壁!」
「そんなもの!」
発動すら中断させるするどい一撃がアルの横腹にヒットする。 それに伴い体が横に数メートル吹っ飛ぶ。
「があっ!?」
「まだですよ」
しかしルサルカはそれにもピッタリとくっつきスキルを放つ。
「ブレイズ!」
発動。【アクティブスキル:ブレイズ】
「ぐあっ」
発動と共に振り抜いた剣からは青色の魔力を伴った斬激が飛ばされアルの横っ腹に叩き付けられる。
すさまじい音と共に地面に衝突するアルは煙のなかに消える。 同時に出現していた鏡と魔方陣は消え、ルサルカは勝利を確信し、後ろを向く。
「私の勝ちです、魔法使いさん」
そして巻き上がる声援。
しかしそこで一人の少女と目が合う。 首元に巻いたマフラーが特徴の忍者装束の少女と。 そして少女が口にかかったマフラーを下げ口が動く。
「…?」
まだ終わりじゃないですよばーろー。 そう言った。
「まさか!?」
後ろを振り向くと腕に力をこめて立ち上がろうとしている魔法使いの姿。
「そんな…いまのは確実に致死量のダメージのはず…」
そして立ち上がりきった魔法使いは言う。
「あぶねぇあぶねぇ…まじで鏡のバフあって助かったわ。 魔剣士にあんな動きされて対応できるかってのくそっ」
「まさか…あの鏡のバフは…」
「ん? ああそうさご想像のとおりダメージカットのバフってわけだ。 まぁ効果切れる前でよかったわ切れてたらそっこダウンしてたわ」
「くっ…」
お互い未知数すぎた相手に対し対策を取れてなかったのは両方とも同じだった。
「なぁルサルカさんよ、あんたもし自分より強い敵と戦った時どうすんの?」
「…なんですか、いきなり」
「いやただ、此処で試合したのも何かの縁だしな聞いておこうと思ってな」
「…私は、私の全力を持って戦うだけです、それで負けても勝っても文句はありません」
「なるほど…ね」
そこまで聞き鼻で笑う。
「っは、負けて文句がないとは甘いなあ、おい」
「そう言うあなたはどうなんですか」
「俺か? 俺はな…」
―どんな時でも俺は俺の戦い方をする。 そして勝利をその手に。
その言葉を聞いたか否かの瞬間だった、目の前に漆黒の魔方陣が現れ、それと同じものが魔法使いの目の前にあったのを理解するのも。
「なっ!?」
「チェックメイトだ」
いつのまにか現れたアルによって首にその棒を押さえつけられ、利き手を封じられる。
「悪いな、今回は勝ちをもらう」
「なる…ほど…、これは私の負けですね…」
そしてあがる勝者宣告。
「勝者は! Ⅲ組所属、アル!」
ルサルカを離し、隠れ桜を探し見つけると親指を立てる。
―勝ったぞ。
お疲れ様。―
隠れ桜からは何もなかったがそう言っている様に感じたのだった。
_to be continued.