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紺青のユリ  作者: Josh Surface
第七章「狂母」乙女編 西暦20~21年 5~6歳
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第七章「狂母」第九十六話

「ユリア、少し落ち着いたか?」

「うん…。ごめんなさい、ドルススお兄様。取り乱して泣いちゃって。」

「ううん、あれで良かったかもしれないな。お前は本当に強い女の子だよ。恥も外聞もなく、自分の感情を曝け出して、ちゃんと相手に訴えかけることが出来るんだから。」


そう言うと、ドルススお兄様は微笑みながら、羨ましそうな顔をしながら私のおでこをツーンと押した。


「僕は次男だろ?だから中々上手く伝えられないんだよ。どうしても、ネロ兄さんに気を遣ってしまってさ。」

「そうなんですね…。」

「世間は『次男は楽だ。』なんて茶化すけど、そうでもないぜ。」

「今じゃドルススお兄様も、次男として鼻水流すのも楽じゃないですからね。」

「あははは!こんにゃろ~。本当にユリアは棘の出し方も上手くなったな~。」

「ガイウス兄さんほどでは無いです~。」


それでも、ドルススお兄様が人と人の架け橋になろうとする、優しい心を持ち合わせた人だって事を知ってる。


「ガイウスだって癲癇持ちながら、『カリグラ』という役割をローマ軍団の中でちゃんと演じ切ってるんだから、そこはあいつなりの家族思いでもあるんだぞ。分かってやりな。」

「うん!ドルススお兄様に言われたからそうする~。」

「お前、それじゃさっきドルシッラに偉そうに言った事と矛盾してないか?!」

「それはそれ、これはこれですもん。」

「あ~あ。これだもんな、ユリア・アグリッピナ様は~。後で、ドルシッラに謝っておけよ。」

「は~い。」

「お前、昔のお兄ちゃんみたいに伸ばしってと、お母様にゲンコツ喰らうぞ~。」

「あー!ドルススお兄様も今やった~!」

「あははは!」

「エッへ。あははは!」


二人でお腹から笑ったら、少し気分が晴れた気がした。この頃の私は、本当にドルススお兄様と仲が良く、色々な話をしていた。お兄様がいなかったら、私は心の何処かで感じてる重圧に押しつぶされてたかもしれない。


「ドルシッラ?」

「お姉ちゃん?」

「さっきは…言い過ぎて…ごめん。」

「いいよ、大丈夫!」


ドルシッラ。本当に吸い込まれるような綺麗な笑顔。はぁ…。この子のキラキラ輝いてる笑顔を見ると、何故か不思議と抱き締めたくなる。


「お姉ちゃん?どうしたの急に?」

「なんでもない。暫くこうさせて。」

「もう…。ユリアお姉ちゃんったら。」


私は暫くドルシッラを腕の中で抱き締めてた。妹は生意気にも私の背中をポンポン軽く叩いて落ち着かせてくれる。全く、ドルシッラったら…。


「全く、お姉ちゃんは甘えん坊なんだから。」

「なーに~?ドルシッラ、あんた私が一人でローマに残る時、何をお姉ちゃんに何をあげたか覚えてるの?」

「え?」

「自分はぶどうの実だけ食べて、皮の中に種だけ入れてくれたんだから。」

「えーー?!ウソ?!」

「本当だって。しかも地面に落とした、きったないぶどうも手のひらに乗せて。」

「やだーー!信じらんない。あたしそんな事してたの?!全然覚えてないよ。」


無理もないか…。

一年位前とはいえ、まだまだ幼かったからね。


「ねぇ、お姉ちゃん。」

「何?」

「何か悩みでもあるの?最近全然元気ないし…。」

「悩みか…。あると言えば、あるかもしれないけど。お父様が亡くなられた後だから。」

「うん…。そうだよね。でもさ、姉妹なんだから、たまには妹に頼ってもいいんじゃない?」

「生意気な事言って。」

「でも…。お母様とは、最近、目も合わせないでしょ?」


やっぱり妹ドルシッラは、妹なりに姉の私を心配してくれているみたい。


「うん…。」

「お母様だって、ああやって気丈な振る舞いをされているけど、お姉ちゃんの事を心の何処かで心配しているはずだよ。」

「そうかな…?」

「そうだよ。お姉ちゃんはお姉ちゃんらしくあればいいんじゃん?」

「あたし…らしく?」

「お母様だって、少し位お姉ちゃんのオッチョコチョイなところ見れば、きっとお腹から笑ってくれるって。」

「あんた?お姉ちゃんがオッチョコチョイって、どういう事よ?」

「ネロお兄様から聞いたよ~。"おかしなセネカ"に出会って、真似ばっかりしてたんでしょ?」

「あーーーー!そんな話まで聞いてるの?!」

「しかも、哲学者の事を"哲役者"って言ってたんでしょ?」

「だーーーーー!誰からそんな事聞いたのよ?」

「ネロお兄様。」

「ゔ…。ネロお兄様ったら。」

「あははは!」

「あははは!」


ドルシッラともお腹いっぱい笑った。考えてみたら、最近はローマがずっと喪に服してる三ヶ月間、お腹から笑える事がなかったから余計に良かった。私達は何だかんだいって家族の絆がある。でも、この時既に、次の悲劇の幕開けが始まってる事は知らなかった。


続く


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