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紺青のユリ  作者: Josh Surface
第七章「狂母」乙女編 西暦20~21年 5~6歳
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第七章「狂母」第九十四話

私達家族は、パラティヌス丘アントニア様のドムスで暮らしている。未だにアントニア様はティベリウス宮殿からお戻りにならない感じだったので、お母様がアントニア様の代わりにドムスの長を務めているが、それが更に好感度を上げていたよう。


一方、相変わらずローマ世間では二つの意見で割れていた。


"一つ、皇族国葬辞退による現政権への不信感から、ピソを父ゲルマニクス暗殺の犯人として糾弾するべし。"


"一つ、感情的にピソを直接的に糾弾する事は、国家反逆罪になりかねない。事実を調査して確証を得てからピソを糾弾するべし。"


だが、どちらも一貫しているのは、少なくとも現政権に対する不信感の表れとピソ糾弾。私達家族も名目上の体裁では、お母様のご意向に従ってはいるけれども、本音は二つに分かれていた。


長兄ネロお兄様

お母様の意向と次期家長としての体裁のためがあってか、赤ら様には対立できないご様子。ただ、リウィア大母后様には、あんまり好感触はお持ちで無い。


次男ドルススお兄様

体裁ではお母様に従ってはいるけれども、クラウディウス叔父様と同じ意見。ピソを糾弾するのは時期早々と考えてる。


三男カリグラ兄さん

完全にお母様と同じ意見。ピソ及びにお父様の命を奪った者に復讐を願ってる。同時にお母様が狂い始めている事も知っていたらしい。


長女ユリア・アグリッピナ

クラウディウス叔父様とドルススお兄様と同じ意見。真相を調査する必要はあると思う。それと、何よりもリウィア大母后様に直接お伺いするべきだと思う。


次女ドルシッラ

カリグラ兄さんと同じ意見。笑顔ばかり振りまいているけど、子供としては殺された父親の仇を打つのは当たり前と、カリグラ兄さんに教え込まれてる。


三女リウィッラ

良くわかってない様子。でも、あたしが抱っこしようとすると嫌がるから、多分妹のドルシッラや、お母様と同じ意見。


ペロ…?

大母后リウィア様にすぐ気が付くから、それほど悪い印象は持っていないみたい。ドルシッラが近付くと吠えるから、私と同じ意見だと思う。


この頃のお母様はまさに飛ぶ鳥を落とす勢いの始まりを体現されていた。世論の全てがお母様に味方しているのは明らかで、ティベリウス皇帝陛下に不満を持つ元老院達も、自分たちの思惑を隠しながら、お母様へ訪問してきた。


「ドルススお兄様、今いらしたのは有名な元老院の方。私、アントニア様が開かれた祝宴で見かけました。」

「すごいな…。あ!あの人見た事あるよ。確か…。」

「軍神アグリッパ様の支援をされていた貴族の方ですわ。」

「えええ?アグリッパ様の?!ユリア、お前何で知ってるんだよ?」

「私一人でローマに残ってた頃にお会いしました。あ、おじさま!ユリア・アグリッピナです。」

「おおお!アグリッピナちゃん。この度は大変だったね。」

「うちの亡き父のために、わざわざ母ウィプサニアの為にお越し頂き、ありがとうございます。」

「いやいや、こちらこそ。お母さんのウィプサニアの意見にはわしも賛成してるから、安心しておくれ。」

「はい、おじさま。」


私はそのままドルススお兄様の元へ戻った。


「お前、気後れとかっていう言葉知らないだろ?」

「何ですか、それ?」

「ユリア…。僕はある意味、お前の性格を尊敬するよ。」

「フフフ…ありがとうございます。ドルスス・ユリウス・カエサルお兄様も、ご来賓の方々に、ご愛想を振りまかれたら如何ですか?」

「フフフ…。ありがとうユリア・アグリッピナ。貴殿のご忠告に感謝する。」


お母様を交えたピソ起訴に対する会合は、現実的にどのような手段を取られるのかが、お母様を支援する共和制支持者の元老院や氏族の方々と日々話されてる。


「英雄ゲルマニクスが亡くなった次の週には、ピソは何事も無くシリアへ戻っているのだ!これはもはやゲルマニクス暗殺に関与しており、確信的と言っても過言はなかろう!」

「いやいや、感情的になるのは些か印象が悪い。彼には一応属州の総督という名義があるのだ。離れていた時期に、殺された確証を手にしなければな。」

「ちょっと待って下され。総督の名義があるのならば、何故ピソが一旦ローマへ帰還する必要があるのだ?問題はそこにあるのではなかろうか。直接的にピソを起訴するには余りにも根拠と確証が現時点では少な過ぎる。」

「では、あんたはやはり調査する必要はあると申されるのか?」

「そうは言っとらん。調査をする必要も無く、誰の目から見ても彼を起訴に追い込む別の手立てがあると言ってるのだ。」

「何?!」

「皇族派は我らが感情的にピソを起訴すると思い込んでいる。それを逆手に取って、彼らを取り囲むのが一番だと思わんかね。」


一同の共和制支持者の貴族や氏族達はうなづいた。そしてある貴族のご老人がお母様へある示唆をされた。


「ウィプサニア殿、如何だろうか?この際、直接的にピソの暗殺を起訴するのでは無く、法律に詳しい我々に任せては?」

「ピソは起訴されて当然であると、私も、亡き夫ゲルマニクスの意向も同じです。彼が何も罰せられず、生き残るような最悪の結果さえ免れれば、夫が最期に遺した真意を後世に残せるというものです。」


つまりお母様は起訴イコール求刑はピソの死刑という事だ。ご老人はお母様の立派な応え方に感心して微笑んでいる。


「では…。」

「あー、ちょっと待ってくだされ。」


だが、1人の中年の貴族が立ち上がり、お母様へ一つの確認をされる。


「これは確認なのだが、ウィプサニア殿。ゲルマニクス殿が遺された最後の言葉は、何か文書に残されているのだろうか?」

「え?」

「我々ローマ人は、故人の意思を尊重せねばなるまい。何か遺書などがウェスタの巫女へ保管を任せてると思うのだが…。」

「今更確認するまでも無い事だろう。」

「いやいや、相手は大母后リウィア様がいるのだぞ。油断大敵だ。初代皇帝アウグストゥス様がアントニウス様とクレオパトラと強引に開戦できたのは、宣戦布告の決議案を提出された時、元老院よりその根拠を求められ、ウェスタの巫女に預けたアントニウス様の遺書を当時のリウィア様が持ち出されて根拠にした事が起因なのだ。同じ轍を踏まないためにも、今回の起訴がゲルマニクス殿の遺書に反する事が無いよう、念の為にウィプサニア殿に確認されたいのだ。」


お母様は、暫く何も答えられなかった。


続く


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