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紺青のユリ  作者: Josh Surface
第六章「亡父」少女編 西暦19年 4歳
90/300

第六章「亡父」第九十話

「ケッ、ドルスス兄さんかよ。」

「そんな風評に惑わされてはダメだ。それこそ、僕達家族を危険に晒すぞ。」

「風評?危険?兄さんは何を言ってるんだよ。」

「分からないのか?ピソ様は現皇帝ティベリウス様の旧友だぞ。下手に疑えば、国家反逆罪で捕まってしまうさ。」


ドルススお兄様は冷静だった。やっぱり計算の得意なだけあって、バランスを見ているんだと思う。


「確かにガイウス、お前の言う通り僕らもメソメソはしていられない。だからこそ、確証も無いことを、さもある様に言いふらすのは、良く無いことだ!」

「何言ってるんだ!僕はずっと兄さん達がいない間も、お父様のそばにいたんだぞ!そして見ていたんだ!」

「それはネロ兄さんや、僕だって同じだ。確かにお父様とピソ様は険悪なムードだったよ。けれど、だからと言ってピソ様が毒殺したとか、ピソ様の奥様が呪い殺したとかになるのは、余りにも馬鹿げているんだよ。」

「馬鹿げてるだって?!僕が見た事が、何で馬鹿げてる事になるんだよ?!」

「ガイウス、さっきユリアが言ったように、お前は実際にその目で見たわけじゃないだろう?見た気になってるだけなんじゃないのか?」


カリグラ兄さんは悔しそうに歯ぎしりしている。冷静だったドルススお兄様がカリグラ兄さんの盲点をしっかりついているからだ。


「ピソ様、ピソ様って…。そんな事で母さんが喜ぶとでも、思ってるのかよ?!」

「?!」

「お父様が亡くなった事は事実なんだぞ!あんな病気や怪我一つ無い元気だったお父様が、急に体調崩して亡くなるなんて、呪いや毒殺以外に何があるって言うんだよ!!?」


やっぱりカリグラ兄さんの推測だった。実際に自分が見たわけでも、その場にいたわけでも無かったんだ。


「ドルスス兄さんやユリアが、お父様が病で亡くなったと言い張っても、お父様を慕うこの世界では、誰も信じる奴なんかいやしないさ。僕はずっとアンティオキアからここまでの道のりの中で、ずっと聞いてきたんだ。」

「何をだ?」

「"勇者ゲルマニクスはピソに殺された。ピソは許してはならぬ!"ってね…。」


ようやく、あのお父様を弔う黒煙に、何故、私が異様な違和感と恐怖を感じたのかが分かった。お父様の魂を弔う意味だけでなく、ピソによる暗殺を信じる者達の、怨念を込めた呪いや祈りが込められていたからだ。衣服だけでなく、何か燃やしてはいけない物まで燃やしていたから、吐き気がするような異臭が漂っていたんだ。


「今日だって、いや、ずっと毎日さ。お母様のお顔とお父様の骨壷を一目崇めたいと申し出る者達ばかりさ。中にはこの世の終わりを救ってくれるのは、お母様しかないと信じている老婆までいたんだ。」

「…。」

「考えが甘いのはドルスス兄さん、あんたの方さ!お父様がいなくなったこれから、今までの様に生活できると思ったら大間違いだぜ!」


私は何だか怖くなって、ドルススお兄様へ近づいた。けれど、お兄様は優しく笑顔で大丈夫と答えてくれた。


「ガイウス、お前はユリア達の兄だろ?それこそ、さっきのお前の言い草じゃないが、お前と一番近い妹を怖がらせて楽しいか?」

「何だと!?」


私はドルススお兄様にしがみついた。


「いつだって何処だってどんな時だっているんだよ。自分で知りもしないくせに、高い場所から、さも知ってるふりをして、嫌な雰囲気ばかりをばら撒くような奴が。典型的なのはお前だな?ガイウス。」

「いくら兄さんでも、言っていい事と悪い事があるんだぞ!」

「事実を言ったまでじゃないか。」

「僕はゲルマニカ軍団の勝利祈願の将軍なんだぞ!」

「将軍はお父様だ。成人式もあげてないお前が軍人なんかになれるわけないだろ?みんなから『カリグラ様』なんて煽てられて、調子に乗ってるんじゃないっつーの!」


だが、カリグラ兄さんの言っていた事は正しかった。と言うよりも、お母様は確かにピソとその奥方を犯人としたてあげる為に、クラウディウス叔父様、そしてドルスッス叔父様を説得されていたのだ。その大声は、隣の部屋から出てきた。


「待ってください、ドルスッス様!」

「いや、離してください!クラウディウスさん。この話を、黙って胸の内に秘めたまま、父やセイヤヌスやピソに会えと言われるのか?!」

「まだ、確証も無いことを、しっかりと調査した上で解決すべき事ではなかろうか?」

「クラウディウスさん。あんたは悔しくないのか?!あんたの兄さんであるゲルマニクスがピソの手によって殺されたんだ。」

「しかし、まだ分からないじゃないか。」

「いいや絶対そうです!今回の事は病死にしては不明な点が多すぎる!まるでアレキサンダー大王が亡くなられた時と同じようだ。」

「ドルスッス様…。アレキサンダー大王の死だって、暗殺ではなく、何かの病で倒れた可能性だってあるのですぞ。」

「クラウディウスさん、僕に何を言っても今は無駄です。貴方には命に掛けても守りたい友がいないから、私の心中に水を差す事ばかり述べられる。失礼する!」


その後を、お母様は静かに訪れた。突然クラウディウス叔父様へ抱きついて泣き出し、どうか理解して欲しいと懇願している。どうやら私達の家族や親戚は、真二つに分かれようとしていた。


続く


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