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紺青のユリ  作者: Josh Surface
第六章「亡父」少女編 西暦19年 4歳
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第六章「亡父」第八十一話

少し訛りがある、礼儀正しい純朴な青年。


これがブッルスに対する私の第一印象。あらゆる相手も威嚇するような目つきや、幼子さえも怖がらせる左腕の大きな三つの傷跡すら、この時にはもちろん無かった。因みに、この時ブッルスの横にいたもう一人の青年は…誰だったかな?とにかく当たり障りの無い男の子だった。


「実は、僕たちは迷子になってしまったのです。公共浴場へ行けとの命令だったのですが…。」

「はい、自分らは命令で。」

「命令?自分ら?貴方達は軍人なのですか?」

「ええ、僕はアニケトゥス 。こいつはブッルス。僕らは共にガリア・ナルボネンシス属州のウァシオ・ウォコンティオルム出身なんでさ。」

「はい…自分もです。」

「そうね、少しこことは違う訛りがあるものね。」

「訛り?失礼な。僕たちはこれでも騎士階級のエクィテスに属してるんだけど。おチビちゃんの君に、偉そうに言われたくないな。」


彼は私の位には気付かない様子。でも、ブッルスは全く違った。察しがいいのが彼の性分。


「おい、アニケトゥス。無礼な振る舞いはやめろ。」

「え?」

「ここに在られるお方は、高貴なる血脈を受け継ぐ皇族の方だ。」


すると、ブッルスはアニケトゥスの頭を頭をグイグイと地面へ押し付け、深々と挨拶をした。


「一体誰なんだよ?ブッルス。」

「知らないが、とにかく言葉遣いがとても綺麗なお方なんだ。」


すると、ネロお兄様とドルススお兄様がやってきた。


「おーい、ユリア。何してるんだ?」

「ドルススお兄様、何だか勝手にこの人達が頭下げてきて。」

「ユリア、ここは坂道だから、頭をあげてもらいなさい。」

「はい、ネロお兄様。」

「頭をおあげください。」


すると、二人はゆっくりと頭をあげた。ネロお兄様は優しく尋ねた。


「君達は、騎士階級のエクィテスなんだろう?なぜそこまで深々と礼節を重んじるんだい。」

「自分の親戚の叔父さんから話しを聞いておりました。パラティヌス丘付近で護衛をつけて歩いている者がいたとしたら、それは殆どが皇族出身だと。」

「そうなのか?!ブッルス。」

「ああ、アニケトゥス。お前も、叔父さんのお話を聞かなかったか?」


そうそう、もう一人はアニケトゥスだった。彼は後に、我が息子の一番最初の家庭教師になるのだが、"ある不祥事"を起こして、私自身が解雇をした。その後に、代わりにブッルスが家庭教師を引き受けてくれた。この二人は、同じ頃に会ってたんだっけ。


「その者の判断は正しい。」


護衛についてくれてるクッルスは、大きな体からあたりに響く声を発した。


「貴方達の目の前に在られるのは、神君カエサル様、大母后リウィア様、軍神アグリッパ様、アントニウス様、そして初代皇帝アウグストゥス様の血脈を受け継ぐ、ご長男ネロ・ユリウス・カエサル様、ご次男ドルスス・ユリウス・カエサル様、そしてご長女のユリア・アグリッピナ様である。」

「ええええ?!」

「やはり!自分が感じた通りでございます。という事は、三人のお父様は、あの軍人として名高いゲルマニクス・ユリウス・カエサル様!」

「うわわわわああああ!」


アニケトゥスは、あまりにもびっくりして、口から泡を吹いて倒れた。


「この度のゲルマニクスお父様のご偉業、恐縮ながら、心より深く敬服しております。」

「ありがとう、そう言って頂けると、長女としても鼻が高いですわ。」


私は偉そうにブッルスへ顎を上げた。しかし、すぐに後ろからドルススお兄様から、調子に乗るなと頭を叩かれた。


「どうだろう?僕たちはこれからお父様の倉庫へ行くのだけど、君達も来るかい?」


二人は顔を見合わせて、ブッルスだけが首を横に降る。


「とても光栄な事ですが、自分らは命令されている身なのでありまして。」

「ええ?!行かないのかよ?ブッルス。せっかくの機会だぜ。」

「大変心苦しいのですが、本日は…。」

「おい、ブッルス!折角だからゲルマニクス様の倉庫に連れてってもらおうぜ!」

「黙れ、アニケトゥス!田舎者って馬鹿にされるだろ?!」


思わず吐いた自分の言葉に、終始赤面して恐縮するブッルス。


「分かったわ、また次回に案内してあげるブッルスさん。」

「あ、ははは…。ありがたき幸せに…。」

「ところで、公共浴場へはちゃんと行けるのかしら?」

「え?」

「このまま迷ったままだと、そっちの方が田舎者として恥ずかしいわよ。」

「そうだよ、ブッルス。お前知らないんだろ?」

「確かに…。」

「教えて欲しい?」

「あ、いや…。」

「いいの?」


私は純朴なブッルスをからかうのが何気に楽しかった。


「あ、つまり。」

「どうなの?」

「かたじけないです。」

「なら、教えてあげる。」

「ありがとうございます。」

「この先に、ユーピテル司祭神であるフラメン・ディアリス神官様の家が右手に見えるから、その向かい側のルペルカルの泉と洞窟を左に曲がるの。すると、イチジクの木ルミナルの間に道があるから、そこからこっちへ戻るように入って行くと、土地の守護精霊ゲニウス・ロキの祭壇が見えてくるわ。祭壇には蛇模様の基壇があるから分かるはずよ。その先に公共浴場があるわ。」

「ありがとうございます!!」

「因みに、私はそんなところには、行った事すらないけどね。」

「へ?」


後年に、悪友と言えるくらい親しくなって、彼の後ろ盾になるキッカケが大衆食堂であるタヴェルナでの大酒馬鹿飲比べ。多分、幼い頃から大母后リウィア様のお気に入りである葡萄酒をこっそり薄めないで飲んでて、成長してから殆ど酔わなくなっていたため、何度ブッルスが私に勝負を挑んできても、私に敵う事は無く、泥酔して殆ど負けてた。まぁ、その話しは後ほど。とにかく、酒飲みで私に負けたブッルスと悪友になってから、腹を割って彼に私の第一印象を聞いた事があった。


"なんて生意気な皇族の小娘…。"


だったそうな。それを聞かされた時は、怒りを飛び越して大笑いしてしまった。人の第一印象なんて、よっぽどでない限り、同じように感じる事なんかあり得ないのでしょうね。


続く

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