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紺青のユリ  作者: Josh Surface
第五章「パラティヌス生活」少女編 西暦19年 4歳
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第五章「パラティヌス生活」第七十一話

リウィッラ叔母様はアントニア様の部屋で横になって寝てる。顔には水を含んだ布を被せて。相当酔っ払って唸っている。


「ううう…頭が…回る。」

「全くなんて子だい?!妊娠中に葡萄酒かっ喰らって気を失うなんて。リウィッラ、あんたどうかしてるよ!」

「母さん…あんまりキンキン怒鳴らないでよ。頭に響くんだから…。」


叔母様は頭から布を取り、リッラやシッラに助けてもらいながら、体を起こした。


「これが怒鳴らずにいられますか?!もし転んでお腹の子供達に何かあったらどうするつもりだったの?!セイヤヌス様があんたを見つけて連れてきてくれたから良かったものの…。」

「それは、大丈夫よ…。」


リウィッラ叔母様から突如笑顔が消えていた。そう、まさか叔母様とセイヤヌスがあんな事を…。できれば夢であって欲しかった。私は叔母様とドルスッス叔父様は心から愛し合ってる夫婦だとずっと思っていたから。


「リウィッラ、大丈夫か?」

「あら、貴方。ええ、もう大丈夫。少し疲れてしまったみたい。」

「無理するなよ。お腹の子供達に何かあったら大変だからな。」

「そうよ、お母様。今は一番大変な時期なのですから。くれぐれも飲みすぎないでね。ここにお水置いておくから。」

「ありがとう、少し一人にしてくれない?」


アントニア様、ドルスッス叔父様はお互いに顔を見合わせ、少しため息をついて頷いた。けれど、リヴィアは心配そうに眺めてるが、叔母様はその眼差しを面倒臭そうに背けていた。


「お願いだから独りにしてちょうだい!私は少し休みたいの。もう!」


リウィッラ叔母様は明らかに苛立って、その剣幕は普段とは違っていた。しかしアントニア様はあまりのリウィッラ叔母様の身勝手な言動に、今にも破裂しそうに怒りを露わにしそうだったが、さっとドルスッス叔父様が感付いてアントニア様を外へ出し、みんなは腫れ物から逃げるように、部屋から出て行った。私もドルスッスお兄様に手を握られて出て行った。


「なんて!ワガママな娘なのかしら?!親の気も知らないで出て行けだなんて!あそこの部屋は私の部屋よ!」

「まぁまぁお義母さん、落ち着いてください。リウィッラは少し酔っ払ってるんですよ。」

「あの娘は本当に!恩知らずというか、自分勝手というか!」


すると、部屋の中から扉に向かって何か投げつけられた音がした。何の音であるかすぐ気がついたアントニア様は、閉められた扉の外からリウィッラ叔母様へわざと聞こえるように大声を張り上げて叫んだ。親子げんかのはじまり。


「あんたみたいな!馬鹿な娘はどんなに探したって見つからないわよ!孫娘達の方がよっぽど素直で良い娘じゃない!」

「うっさいなー!だいたいそうやっていつも決めつけてばっかりじゃない!クソババ!」

「クソババ?!何?!その言い方?!それが親に対する態度なの?!自分の部屋にも戻れないくせに、親の部屋に閉じこもって偉そうに叫ぶんじゃないわよ!」

「この性格はどっかのクソババ譲りだから諦めたら?!だいたい自分が産んだ子が妊娠中なのにいたわる気はないわけ?!」

「はぁ?!あんたがバックス様の真似して葡萄酒飲みすぎるからでしょ?!自業自得って言葉を知らないわけ?!」

「あーーー!うるさいったらうるさい!妊婦は酒飲んじゃいけないっての?!」

「そうは言ってないわよ!馬鹿みたいに飲むからって言ってるだけでしょうが?!」

「その馬鹿ってのが余計なんだよ!」

「なによ?!馬鹿な娘に馬鹿って言って何が悪いの?!」

「うるさい!うるさいったらうるさい!」


凄まじかった。

アントニア様が昨夜私に教えてくれたリウィッラ叔母様の男勝りで強情な性格が、本当だった事を身をもって知った。


「何事ですか?!アントニア。」

「あ!リウィア大母后様。」


まずい!

大母后様が心配なさってわざわざ様子を観にきてくれた。しかも、後ろにはティベリウス皇帝陛下まできてしまってる。


「お父様!?」

「どうしたんだ?ドルスッス。何を騒いでるんだ?」

「あ、いえ。その、リウィッラのやつが妊娠中なのに葡萄酒を飲み過ぎたらしく…。」


すると、大母后様がクイっと細い眉毛を上げて扉を見る。


「それで、アントニアの部屋に閉じこもってるわけなの?」

「はい…大母后様。」

「全く、情けない。妻の狂乱ぐらい自分で何とかできないのか?ドルスッス。」


しかし、そのティベリウス皇帝の言葉に反応したのは、大母后リウィア様だった。


「あんたも人の事言えないでしょ?」

「母さん、何もそんな事を今ここで言わなくたって…。」

「貴方が偉そうに自分の子供に説教してるからよ!ロードス島へ勝手に逃げたお前に、ほったらかしにされたまだ八歳のドルスッスを育てたのは、一体誰だと思ってるわけ?!」

「それは、お母様ですけど…。」

「私の育てたドルスッスに文句があるって事は、あたしに文句があるってことかい?」

「違いますけど…。」

「大体、最近のあんたのだらしない身体は何だい?!葡萄酒ばっかりかっ喰らって、毎日酒焼けした声になって!昔の『鋼の巨人』の異名は落ちぶれたものね!」

「…。」


今度はティベリウス皇帝陛下と大母后様が一触即発状態になりそうだった。と、いうよりも、ローマの女性の気の強さは何処の家族でも変わらないのかもしれない。ティベリウス皇帝陛下は、大母后様と喧嘩を避けるように、近くを通りかかったセイヤヌスを見つけて、その場から逃げていった。


「おお!セイヤヌス。」

「皇帝陛下、如何がなさいましたか?」

「ちょうど良かった。ドミティウスを見かけなかったか?」

「アヘノバルブス家のですか?」

「そうだ。うん?セイヤヌス、お前何だか葡萄酒臭いぞ?」

「申し訳ございません、皇帝陛下。先ほどつまづいてしまって。」


ティベリウス皇帝はセイヤヌスの肩を組んでその場から去ってしまった。荒いため息をつくリウィア大母后様は、我が子に呆れ返ってる様子。アントニア様も閉ざされた扉を険しい顔で眺めてる。


「アントニア。お互いに子育てには失敗したようね…。」

「本当ですわ、リウィア様…。実の子供より孫の方がお利口だなんて。」


何とも気まずい雰囲気になってしまった。


「そうだ!向こうでみんなで楽しみましょう。私の部屋にはたくさんの果物を用意させるから!」

「リウィア大母后様のお部屋でですね?!良い考えです事!みんないらっしゃい。」

「アグリッピナの好きな葡萄もあるわよ~。」


私達アントニア様の孫と、リウィア大母后様の孫息子であるドルスッス様は、ついていく他無かった。でも、私はあの閉ざされた扉が気になっている。あの中で、リウィッラ叔母様は、自分のなされた事に独り苦しんでいるのではないかと…。


続く

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