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紺青のユリ  作者: Josh Surface
第五章「パラティヌス生活」少女編 西暦19年 4歳
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第五章「パラティヌス生活」第六十話

アントニア様とご一緒にパラティヌスのドムスへ移った翌日、私は大母后様の教室でリヴィアに会った。


「おはよう。」

「おはようございます。」

「貴女が…アグリッピナね?」

「はい。リヴィア…さんですか?」

「そうよ。へぇ~、何だか貴女って、思ってたより随分と貧相な顔。」

「え?」


10才年上のリヴィアは、いきなりトゲを出してきた。考えて見れば、自分と近い年上の同性と会ってなかったので、その嫌味が生まれて初めて強烈だったのは今でも覚えている。


「あの有名なゲルマニクス叔父様の長女と聞いたから、どんな娘かと思ったら、大したことないじゃない。」

「…。」

「まだまだ子供ね。」


晩年の彼女と、初めての出逢いの頃を話したら、覚えてないと言ってたけど、でも、多分そうよ、とも言ってた。


「二人とも揃いましたか?」

「ああ!おはようございます、大母后様!本日も素敵なストラですね。」

「そう?ありがとうリヴィア。」

「おはようございます、大母后様。」

「おはよう、アグリッピナ。」


大母后様は微笑んでらしたが、内心私はあんまり気分が良くなかった。これからずっと、このリヴィアの嫌味に付き合わされるのかと思うと。でも、同時に私の勝気な性格に勇気を与えてくれたのも事実。


「この意味は分かるかしら?」

「"時を流れて、されど涙を捧げぬ"です。」

「リヴィア、さすがね。上手な発音でした。」

「大母后様!アグリッピナはまだまだ分かってないみたいです。」

「すみません…。」


彼女は毎回口元を上げて、勝ち誇った目線を送ってくる。どうしてあのリウィッラ叔母様とドルスッス叔父様から、こんな高慢ちきな娘が生まれたのか不思議だった。でも、水泳とか体力勝負とかでは一度も負けた事無かった。


「さっすが!アグリッピナ!更に速くなったわ!」

「ありがとうございます、大母后様。」

「ぷっは!」


決まってリヴィアが私より後にいるから、そんな時は決まって私もお返しする。顎をツーンと上げて、勝ち誇った笑顔で見下して。相当リヴィアは悔しくて悔しくて、何度も練習してきているようだけど、途中で諦めて嫌味攻撃に変えてきたのは驚いた。


「アグリッピナ。あんた水泳が少し位得意だからっていい気になってない?」

「別に。」

「何、その言い方?水泳ばっかりして、水の中に年上に対する尊敬の言葉を忘れてきたんじゃないの?」

「嫌味の言葉を、泳ぎと共に忘れてきただけです~。」

「あんた、元々頭ん中空っぽなのよ。あたしはこれでも次期皇帝継承者の長女よ。畏敬の念くらい持ったら?」

「そういったことは、強要する物ではなく、他人に自然と思わせるものだと、大母后様から教えてもらったはずでは?」

「まぁー!年下なくせに生意気。あたしに説教するつもり?!」


とにかく、会えば嫌味合戦。勝気な性格では誰にも負けない自負がある。けれど、ペチャクチャ喋るリヴィアの甲高い声がうるさくて堪らなかった…。そして大母后様の前ではコロリと態度を変える。でも、よく考えたら、二人とも同じ境遇で、両親共に出ていたから、寂しさを紛らわすには丁度ストレス発散のいい相手だったのかもしれない。


「うん、今日はアグリッピナ、貴女の方が良くできました。」

「え~?!どうしてですか?大母后様!」

「そうね、リヴィアのも悪くはないのだけれど、少し偏り過ぎる部分があるのよね。私情を挿まず多角的に物事を見つめるようになさい。」

「は~い。」

「コラ!リヴィア。返事は簡潔にしっかりと!」

「はい、すみませんでした。」


大母后様にとって、リヴィアは直接的な自分のひ孫になるのだから、時折、私には見せない大母后様の家族の顔が出るのも面白かった。


「アグリッピナを少しは見習いなさい。注意が散漫だから、こんな簡単な事もできないのよ。」

「べ~っだ!」


私が勝ち誇った笑顔でリヴィアを見下すと、今度は無言で孔雀の羽で大母后様から頭をはたかれる。厄介で勝気な女の子2人を、大母后様は毎日何も言わずに教育を施してくれた事には本当に感謝。


「ねぇ、アグリッピナ。あんたの桃と私の桃、取り替えない?」

「何で取り替えないといけないわけ?」

「あたしのは透き通った形のいい桃で、とっても美味しいんだから。」

「本当に?」

「本当だって。」


私が桃をリヴィアにあげると、もう絶対に返さない約束をさせられて、リヴィアの桃は目を閉じないと見えないと言われ、此処においとくから目を閉じて探しなって言われた。しばらくすると、遠くの方でリヴィアの笑い声が聞こえる。


「アグリッピナのバーーカ!」

「あ!嘘だったんだ!」


あたしはまんまと騙された。


続く

【ユリウス家】


<ユリア・アグリッピナ(15年-59年)>

主人公。後の暴君皇帝ネロの母。


<ゲルマニクス(紀元前15年-19年)年の差+30歳年上>

アグリッピナの父


<ウィプサニア(紀元前14年-33年)年の差+29歳年上>

アグリッピナの母 


<長男ネロ(6年-31年)年の差+9歳年上>

アグリッピナから見て、一番上の兄


<次男ドルスス(7年-33年)年の差+8歳年上>

アグリッピナから見て、二番目の兄


<三男ガイウス=カリグラ(12年-41年)年の差+3歳年上>

アグリッピナから見て、三番目の兄


<次女ドルシッラ(16年-38年)年の差-1歳年下>

アグリッピナから見て、一番目の妹


<三女リウィッラ(18年-42年)年の差-3歳年下>

アグリッピナから見て、二番目の妹


【アントニウス家系 父方】


<アントニア(紀元前36年-37年)年の差+51歳年上>

アグリッピナから見て、父方の祖母


<リウィッラ・ユリア(紀元前13年-31年)年の差+28歳年上>

アグリッピナから見て、父方の叔母


<クラウディウス(紀元前10年-54年)年の差+25歳年上>

アグリッピナから見て、父方の叔父


【アントニウス家系の解放奴隷、使用人および奴隷】


<ナルキッスス(1年-54年)年の差+14歳年上>

父方の祖母アントニア及びクラウディウスの解放奴隷


<パッラス(1年-63年)年の差+14歳年上>

父方の祖母アントニア及びクラウディウスの解放奴隷


<フェリックス(12年-62年)年の差+3歳年上>

父方の祖母アントニア及びクラウディウスの解放奴隷


<アクィリア(17年-19年)年の差-2歳年下>

父方の祖母アントニアの解放奴隷


<シッラ(紀元前15年-60年)年の差+30歳年上>

父方の祖母アントニアの解放奴隷


<リッラ(紀元前15年-59年)年の差+30歳年上>

父方の祖母アントニアの解放奴隷


<クッルス(紀元前15年-59年)年の差+30歳年上>

父ゲルマニクスの親友


<セリウス(紀元前15年-60年)年の差+30歳年上>

父ゲルマニクスの親友


<セルテス(紀元前12年-63年)年の差+27歳年上>

父方の祖母アントニアの解放奴隷


<ぺロ(17年-30年)年の差-2歳年下>

父方の祖母アントニアの飼い犬


【クラウディウス氏族】


<リウィア大母后(紀元前58年-29年)年の差+73歳年上>

アグリッピナから見て、父方祖父の母親。初代皇帝アウグストゥスの後妻


<ティベリウス皇帝(紀元前42年-37年)年の差+57歳年上>

アグリッピナから見て、父方祖父の兄弟。初代皇帝アウグストゥスの養子、リウィア大母后の長男


<ドルスッス(紀元前14年-23年)年の差+29歳年上>

アグリッピナから見て、父方祖父の兄弟の息子。二代目皇帝ティベリウスの長男


<リヴィア(5-43年)年の差+10歳年上>

アグリッピナから見て、父ゲルマニクスの妹の娘。ドルスッスの長女


【ティベリウス皇帝 関係】


<セイヤヌス(紀元前20年–31年)年の差+35歳年上>

二代目皇帝ティベリウスの右腕。親衛隊長官


<ピソ(紀元前44年-20年)年の差+59歳年上>

二代目皇帝ティベリウスの親友。シリア属州の総督。


【後のアグリッピナに関わる人物】


<ウェスタ神官長オキア(紀元前68年-29年)年の差+83歳年上>

ウェスタの巫女の長


<セネカ(紀元前1年-65年)年の差+16歳年上>

アグリッピナの盟友


<ブッルス(1年 - 62年)年の差+15歳年上>

アグリッピナの悪友


<アニケトゥス(1年 - 69年)年の差+15歳年上>

後のアグリッピナ刺殺犯

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