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紺青のユリ  作者: Josh Surface
第四章「大母后と祖母」少女編 西暦18年 3歳
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第四章「大母后と祖母」第五十三話

「お前達二人が素直にドミティウス様に従っていれば、うちの旦那様もアグリッピナ様も、あんな風に批難の対象にされる事はなかったんだぞ!」

「何だと?ナルキッスス!身勝手な事を言うんじゃねぇ!」

「身勝手だと?お前達の方が身勝手じゃないか!俺達ギリシャ人が重宝されるからって、調子に乗ってるんじゃねーよ。」

「元はといえば、お前がクラウディウス様に迷惑をかけて、更にはアグリッピナ様にも迷惑をかけたんじゃないか!」

「けっ!好きに言ってるがイイ。しかしドミティウス様は絶対にお前達の顔は忘れないからな。」


ナルキッススとパッラスは同じ年齢同士でいがみ合っていた。横では心配そうにフェリックスが眺めている。


「ナルキッススとやら、もうその辺でイイだろう。」

「クッ…。はい、クッルスさん。」

「ドミティウス様は確かに身分の高いお方だ。だが、己の欲望の為に他人の物を奪うのは、些か度が過ぎていると言えよう。」


当時、アウグストゥス様が亡くなって五年が経ち、一切の娯楽を禁じたティベリウス様の厳しい引き締め政策の中、微妙な均等で平和が維持されている帝国において、人々の野生的な本能が、少しずつ芽を出していたのは確かであった。


「ではアグリッピナ、この品を母上に。」

「はい、お届けします。」

「大丈夫だとは思うが、くれぐれも気を付けなさい。」

「叔父様、ありがとう。」

「本当に大きくなった。今は一人で寂しい時もあるだろけど、そんな時には色々な書物を読むといい。世界が知らずに変わって行く事に気が付くだろうからね。」

「はい、今度読んでみます。」


私達五人は叔父様のインスラからゆっくりと帰っていった。パッラスとフェリックスは大切に品物を持ってくれている。ようやく気分がだいぶ落ち着いてきた二人だが、私は帰る道中に変な胸騒ぎがした。そしてそれは、慌てているシッラとリッラの二人の大きな声で、見事に的中してしまったのだ。


「あー、アグリッピナ様!!!」

「アワワワ!たたた大変です!!」


胸騒ぎは身体中をゾワゾワとさせていた。


「ど、どうしたのですか?」

「アワワワ、アクィリアちゃんがいなくなったのです!」

「ええ?!」


パッラスもフェリックスも茫然自失となった。あいにくアントニア様はお出かけ中との事。


「ど、どうしましょう?!」

「セルテスや他の者達は誰も見てないのですか?!」

「あー、私達がアントニア様から料理の事付を受けて作ってる間は、ペロと仲良く遊んでいたようなのですが…。」

「セルテスは?!」

「いいえ誰も見かけてないです。」

「そんな!」


パッラスとフェリックスは自分達奴隷の寝室に駆け足で戻り、アクィリアを大声で名前で呼んでみたが、出てくる気配はなかった。


「セルテスが見かけてないとすれば、まず外に勝手に出られる訳がないでしょう。」

「アントニア様が出かけた時にひょろっと外に出た可能性は?!」

「それはあり得ません、クッルスさん。私はしっかりとドミティウス様がいらっしゃるまでの間は、誰もこの門から出入りするものはいませんでしたので。」


一同は呆然となった。


「セルテス。まさかドミティウス様とは、アエノバルブス家のドミティウス様か?」


サリウスは静かに注意深く確認している。


「はい。アエノバルブス家のドミティウス様でございました。恐ろしい剣幕でお怒りのご様子でした。」

「畜生!!!あの豚野郎!」


パッラスは怒り狂って叫び出した。

しかしクッルスはそんな彼を両肩に手を添えて落ち着くようになだめると、サリウスはまだ決めつけるなと冷静に対処していた。


「アグリッピナ様、どうかご安心を。私とパッラスで探しに行ってまいります。クッルスとフェリックスがここに残りますので、宜しいですか?」


セルテスやシッラやリッラは、一体何が起きているのか分かっていなかった。サリウスは後ほど説明すると言葉を残し、パッラスには感情的になるなと頻りに言い聞かせて外へ連れて行った。


「アグリッピナ様、一階の寝室でお待ちください。」


私はフェリックスと一緒に待つ事になった。

フェリックスはずっと私を心配そうに見つめている。駄目だ、さっきからの胸騒ぎが本格的に悪い方向にしか向いていない。感情的になって慌てている自分が抑えきれなくなってきてる。そんな時に、大母后リウィア様の言葉が浮かんできた。


"どうしても、感情的になりそうだった時には、目を細め、奥歯を噛み締め、自分が大理石の彫刻になった気分で、決して表情に表さないように務めなさい。"


「きっと大丈夫だって。」

「アグリッピナ様、本当に?」

「ええ、フェリックス。アクィリアはきっと何処かで迷子になっているのかもしれない。」


私は必死に自分を大理石の彫刻になれるよう務めていた。でも、数時間後、彫刻になったはずの私は、あっという間に感情に流されて砕けてしまった。


続く

【ユリウス家】


<ユリア・アグリッピナ(15年-59年)>

主人公。後の暴君皇帝ネロの母。


<ゲルマニクス(紀元前15年-19年)年の差+30歳年上>

アグリッピナの父


<ウィプサニア(紀元前14年-33年)年の差+29歳年上>

アグリッピナの母 


<長男ネロ(6年-31年)年の差+9歳年上>

アグリッピナから見て、一番上の兄


<次男ドルスス(7年-33年)年の差+8歳年上>

アグリッピナから見て、二番目の兄


<三男ガイウス=カリグラ(12年-41年)年の差+3歳年上>

アグリッピナから見て、三番目の兄


<次女ドルシッラ(16年-38年)年の差-1歳年下>

アグリッピナから見て、一番目の妹


<三女リウィッラ(18年-42年)年の差-3歳年下>

アグリッピナから見て、二番目の妹


【アントニウス家系 父方】


<アントニア(紀元前36年-37年)年の差+51歳年上>

アグリッピナから見て、父方の祖母


<リウィッラ・ユリア(紀元前13年-31年)年の差+28歳年上>

アグリッピナから見て、父方の叔母


<クラウディウス(紀元前10年-54年)年の差+25歳年上>

アグリッピナから見て、父方の叔父


【アントニウス家系の解放奴隷、使用人および奴隷】


<ナルキッスス(1年-54年)年の差+14歳年上>

父方の祖母アントニア及びクラウディウスの解放奴隷


<パッラス(1年-63年)年の差+14歳年上>

父方の祖母アントニア及びクラウディウスの解放奴隷


<フェリックス(12年-62年)年の差+3歳年上>

父方の祖母アントニア及びクラウディウスの解放奴隷


<アクィリア(17年-19年)年の差-2歳年下>

父方の祖母アントニアの解放奴隷


<シッラ(紀元前15年-60年)年の差+30歳年上>

父方の祖母アントニアの解放奴隷


<リッラ(紀元前15年-59年)年の差+30歳年上>

父方の祖母アントニアの解放奴隷


<クッルス(紀元前15年-59年)年の差+30歳年上>

父ゲルマニクスの親友


<セリウス(紀元前15年-60年)年の差+30歳年上>

父ゲルマニクスの親友


<セルテス(紀元前12年-63年)年の差+27歳年上>

父方の祖母アントニアの解放奴隷


<ぺロ(17年-30年)年の差-2歳年下>

父方の祖母アントニアの飼い犬


【クラウディウス氏族】


<リウィア大母后(紀元前58年-29年)年の差+73歳年上>

アグリッピナから見て、父方祖父の母親。初代皇帝アウグストゥスの後妻


<ティベリウス皇帝(紀元前42年-37年)年の差+57歳年上>

アグリッピナから見て、父方祖父の兄弟。初代皇帝アウグストゥスの養子、リウィア大母后の長男


<ドルスッス(紀元前14年-23年)年の差+29歳年上>

アグリッピナから見て、父方祖父の兄弟の息子。二代目皇帝ティベリウスの長男


<リヴィア(5-43年)年の差+10歳年上>

アグリッピナから見て、父ゲルマニクスの妹の娘。ドルスッスの長女


【ティベリウス皇帝 関係】


<セイヤヌス(紀元前20年–31年)年の差+35歳年上>

二代目皇帝ティベリウスの右腕。親衛隊長官


<ピソ(紀元前44年-20年)年の差+59歳年上>

二代目皇帝ティベリウスの親友。シリア属州の総督。


【後のアグリッピナに関わる人物】


<ウェスタ神官長オキア(紀元前68年-29年)年の差+83歳年上>

ウェスタの巫女の長


<セネカ(紀元前1年-65年)年の差+16歳年上>

アグリッピナの盟友


<ブッルス(1年 - 62年)年の差+15歳年上>

アグリッピナの悪友


<アニケトゥス(1年 - 69年)年の差+15歳年上>

後のアグリッピナ刺殺犯

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