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紺青のユリ  作者: Josh Surface
第四章「大母后と祖母」少女編 西暦18年 3歳
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第四章「大母后と祖母」第五十二話

「やめてください!」

「うん?」


獣の様に鼻息を荒くしたドミティウスが、こちらに気が付いた。


「そのもの達は私の為に雇われた奴隷です。ドミティウス様のお目にかかるような価値のあるものではございません。」

「お前は…誰だ?」

「彼女はユリア・アグリッピナ。兄のゲルマニクスと、アグリッパ様の血を受け継いでるウィプサニアの長女です。」


クラウディウス叔父様はわざわざそのような言い回しをしてくれた。だが、このドミティウスには通じなかった。


「な~んだ。あのクソ生意気なゲルマニクスの長女か?俺の親友がほとほと奴の頑固さに困っていてよ、全く可哀想ったらありゃしないんだ。ピソって言うんだけど、お前さんなら知ってるよな?」


まさか!

ピソって。お父様と断絶緊張状態にある、あのシリア属州の総督ピソ?!


「良い所に会ったのかもしれんな。ゲルマニクスに恥をかかされっぱなしのピソの慰めの代わりに、その奴隷達は俺がもらっていく。」


世の中には自分の理屈が全て正しく、ケダモノの様な魂しかないのに、やたらと頭が切れる人種がいる。このドミティウスと、いずれ私の一番目の旦那になるドミティウスの息子がそうだった。こうなると手の施しようがない。例え血脈があろうとも、彼らは自分の飢えた心を満足させるまでは、あらゆる理屈を重ねて牙をむき出している。


「サリウス!」


私は自分の恐怖を切り裂く様に叫んだ。その声にドミティウスも気付いてこっちに向かってくる。だが、それよりも先に現れたのが几帳面なサリウスだった。


「お前は何者だ?!この私が誰であるか知っての事か?」

「恐れながら、私達は国家の母である"アウグスタ"様に使えていたものでございます。」

「だからどうしたと言うのだ?!貴様、このワシに身分をちらつかせるつもりか?!」

「いいえ、とんでもございません。」

「イイか!ワシは按察官のアエディリス、法務官であるプラエトル、そして3年前には執政官であるコンスルの官職に就任したのだぞ!二匹の奴隷を持っていくぐらい、お前の様な輩に何かを言われる筋合いはない!」

「確かにドミティウス様の仰る通りでございます。」


もう、さすがのサリウスも窮地に追い込まれた様に見えた。


「だが、しかし…。今回は、大母后様より"アグリッピナ様に関わるあらゆる妨害は…実力でこれを排除しろ"と命を受けております。」

「なに?」


するとクッルスがノッシノッシと入って来た。やっぱり私の事が心配で着いて来てくれたんだ!


「ドミティウス様。言っている意味がお分かりでしょうか?"あらゆる『妨害』は、『実力』でこれを排除しろ"という事です…。」


さすがクッルスの巨大な身体は、ドミティウスのだらしない身体を軽々凌駕し、静かに睨みを効かせてる。そして最後にクラウディウス叔父様も、機転を効かせてある提案をした。


「ドミティウス様…。如何でしょうか?先月と先々月にお貸しした3千セステルティウスの返済を無しにする条件で、本日はこの場をお納めいただけませんでしょうか?」


しかしドミティウスは何も答えない。借りた事などしらを切るつもりなのだろうか。


「では、仕方がありません。この事は白日の元に…。」

「まぁ待て!」


ドミティウスはそれは困るといったような表情でクラウディウスに懇願し始めた。


「分かった、分かった。今日はその分だけで良い。そのかわり、本当に返済しなくて良いのだな?」

「はい。」

「へっへっへっへ。クラウディウス…。お前は随分キトクな奴だなぁ~。いっへっへ。イイだろう。おい、ウスノロ!お前が馬車に運ぶんだ!」

「え?!」


ナルキッススは動揺していたが、クラウディウスは首を横に振り、クッルスに対処するよう命じた。


「あっしがお持ちますよ、ドミティウス様…。」


クッルスの険しい眼差しと身体は、奴隷達三人の壁となった。


「ったく…。 腑抜けた野郎共だ!このローマが!過去何度も腐った奴隷共の手によって、弱体化された事を忘れたわけではあるまいな!!?イイか?!奴隷は奴隷だ!物言わぬ道具だ!戦利品にも、飼いならす事も我慢ならぬ存在だ!お前らのやってる事は立派な反逆罪だ!忘れるな!」


私は幼く無垢な自分だった。

欲望を抑えきれない人間の皮を被った獣が押さえつけられた時、弾き出された欲望は、新たな命を奪い犠牲者を生む事を、まだ何も知らなかった。


続く

【ユリウス家】


<ユリア・アグリッピナ(15年-59年)>

主人公。後の暴君皇帝ネロの母。


<ゲルマニクス(紀元前15年-19年)年の差+30歳年上>

アグリッピナの父


<ウィプサニア(紀元前14年-33年)年の差+29歳年上>

アグリッピナの母 


<長男ネロ(6年-31年)年の差+9歳年上>

アグリッピナから見て、一番上の兄


<次男ドルスス(7年-33年)年の差+8歳年上>

アグリッピナから見て、二番目の兄


<三男ガイウス=カリグラ(12年-41年)年の差+3歳年上>

アグリッピナから見て、三番目の兄


<次女ドルシッラ(16年-38年)年の差-1歳年下>

アグリッピナから見て、一番目の妹


<三女リウィッラ(18年-42年)年の差-3歳年下>

アグリッピナから見て、二番目の妹


【アントニウス家系 父方】


<アントニア(紀元前36年-37年)年の差+51歳年上>

アグリッピナから見て、父方の祖母


<リウィッラ・ユリア(紀元前13年-31年)年の差+28歳年上>

アグリッピナから見て、父方の叔母


<クラウディウス(紀元前10年-54年)年の差+25歳年上>

アグリッピナから見て、父方の叔父


【アントニウス家系の解放奴隷、使用人および奴隷】


<ナルキッスス(1年-54年)年の差+14歳年上>

父方の祖母アントニア及びクラウディウスの解放奴隷


<パッラス(1年-63年)年の差+14歳年上>

父方の祖母アントニア及びクラウディウスの解放奴隷


<フェリックス(12年-62年)年の差+3歳年上>

父方の祖母アントニア及びクラウディウスの解放奴隷


<アクィリア(17年-19年)年の差-2歳年下>

父方の祖母アントニアの解放奴隷


<シッラ(紀元前15年-60年)年の差+30歳年上>

父方の祖母アントニアの解放奴隷


<リッラ(紀元前15年-59年)年の差+30歳年上>

父方の祖母アントニアの解放奴隷


<クッルス(紀元前15年-59年)年の差+30歳年上>

父ゲルマニクスの親友


<セリウス(紀元前15年-60年)年の差+30歳年上>

父ゲルマニクスの親友


<セルテス(紀元前12年-63年)年の差+27歳年上>

父方の祖母アントニアの解放奴隷


<ぺロ(17年-30年)年の差-2歳年下>

父方の祖母アントニアの飼い犬


【クラウディウス氏族】


<リウィア大母后(紀元前58年-29年)年の差+73歳年上>

アグリッピナから見て、父方祖父の母親。初代皇帝アウグストゥスの後妻


<ティベリウス皇帝(紀元前42年-37年)年の差+57歳年上>

アグリッピナから見て、父方祖父の兄弟。初代皇帝アウグストゥスの養子、リウィア大母后の長男


<ドルスッス(紀元前14年-23年)年の差+29歳年上>

アグリッピナから見て、父方祖父の兄弟の息子。二代目皇帝ティベリウスの長男


<リヴィア(5-43年)年の差+10歳年上>

アグリッピナから見て、父ゲルマニクスの妹の娘。ドルスッスの長女


【ティベリウス皇帝 関係】


<セイヤヌス(紀元前20年–31年)年の差+35歳年上>

二代目皇帝ティベリウスの右腕。親衛隊長官


<ピソ(紀元前44年-20年)年の差+59歳年上>

二代目皇帝ティベリウスの親友。シリア属州の総督。


【後のアグリッピナに関わる人物】


<ウェスタ神官長オキア(紀元前68年-29年)年の差+83歳年上>

ウェスタの巫女の長


<セネカ(紀元前1年-65年)年の差+16歳年上>

アグリッピナの盟友


<ブッルス(1年 - 62年)年の差+15歳年上>

アグリッピナの悪友


<アニケトゥス(1年 - 69年)年の差+15歳年上>

後のアグリッピナ刺殺犯

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