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紺青のユリ  作者: Josh Surface
第四章「大母后と祖母」少女編 西暦18年 3歳
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第四章「大母后と祖母」第五十話

騎士階級であるエクィテスのクラウディウス叔父様。身体に障害をお持ちのため、政治的な事からは離れてらっしゃるが、生真面目で勤勉でとても優しかった。


「こんにちわ、アグリッピナ。」

「こんにちわ、クラウディウス叔父様。」

「こないだよりは随分と大きくなったね?」

「ありがとうございます。」

「大母后リウィア様の所で、色々教わってるそうだね?」

「はい。」


アントニア様とクラウディウス叔父様が一緒に住まれてなかったので、家族から疎ましい存在であったと色々な人が噂にしていたが、実際のクラウディウス叔父様は、ご自分で自ら引き下がる人であり、いざという時には家族の為に無理をされる勇敢な方であった。


「アグリッピナ、これは奴隷で私の召使も兼ねてるナルキッスス。」


ナルキッススは何も言わず一礼し、私もアントニア様のパッラスとフェリックスを紹介した。彼らも何も言わずに一礼した。叔父様が住まれている所はアントニア様のようにドムスなのだが、自分の研究の書物を保管する場所として空きになったインスラを利用している。


「今日は母上も忙しいみたいで、色々大変なのでしょう。」

「はい、その為にお使いに来ました。」

「本当にお利口だな、アグリッピナは。」


グッと優しく微笑んで、私の頭を優しく撫でてくれた。私は微笑みながら、アントニア様に渡された書簡を叔父様へ渡す。


「ふむふむ、なるほどな。そっかそっか、しかしそれにはあれが必要になるのだが…。」

「叔父様?」

「うん?いやね、母上が用意して欲しい物が、今はここに無いのだが、多分もう少ししたら届くだろう。それまで、ここで待っててくれないかい?」

「分かりました。」


叔父様はジッと書物を読みながら色々と書きものをされて、私は叔父様が収集されている書物を眺めて静かに待っていた。そんな私を気遣って、フェリックスは時折私に話しかけて冗談を言ってくれた。するとナルキッススは険しい顔で、パッラスとフェリックスを諌めてきた。


「おい!主人と立場を入れ替えるサートゥルナーリア祭でも無いのに、奴隷がそんな対等な会話をしていいと思ってるのか?」

「なんだと?お前も奴隷じゃないか。偉そうに指図するな。」

「ケッ!その訛りはアルカディアだろう?同じギリシャ人奴隷のくせに、プライドだけ高いな?!」

「なんだと?!」


その声に気が付いたクラウディウス叔父様は、こっちを向きながらパッラスとナルキッススを止める。


「まぁまぁ、やめなさい。ナルキッスス、奴隷をどのように扱うかは、それぞれ主人の自由意志だ。」

「しかしクラウディウス様、恐れながら身分をわきまえない奴隷は、奴隷としての価値が無いに等しいと思われます。一度奴隷となった場合には、如何なる場合でも身分をわきまえて行動し、言動することを順守するのが決まりかと…。」

「別に決まっている訳ではないのだよ。君は前にいたアエノバルブス家でそのように教わったのかもしれないが、私はもっと君達奴隷には寛容的であるべきだと思っている。ナルキッスス、君だってもっと頑張れば解放奴隷として扱いたいもんだな。」

「え?私を解放奴隷としてですか?!」

「ああ。昨日戦った敵は、今日の友となるのが、本来、人間として互いに共存共栄できるあるべき姿ではなかろうか?」


ここでも、やっぱりアントニア様の教えがしっかりと守られている。奴隷を物言わぬ道具などとは一切考えていない。特にクラウディウス叔父様は、ご自身が身体に障害を持っているからこそ劣等感に対して人一倍寛容なのかもしれない。


「しかし、パッラスとか言ったね?君のギリシャ訛りは美しいな。少し地元の言葉を喋ってくれないかな?」


パッラスは突然ギリシャ語を話し出した。叔父様も何とかついて行くのが精一杯なほど。私はパッラスが単なる奴隷で無い事は分かっていたけど、やっぱり言葉を喋るとまるで違ってるように見えてくる。言葉の響きとは、自然とその人の品の良さまで表すようだ。でも、またラテン語に戻ると、生意気な態度になるのがパッラス。


「それにしても… ドミティウス様は相変わらず遅い方だ。」


叔父様の言葉に肩をビクつかせたのは、誰よりもその名前におびえたナルキッススだ。


「ク、クラウディウス様?ドミティウス様って…?!」

「そうさ、今こちらに向かってらっしゃるのは、ナルキッスス。君の元主人だったアエノバルブス家のドミティウス様だよ。」


そう、私はこのときに、将来の政敵となるナルキッススと三番目の旦那になるクラウディウス叔父様と一緒に、将来私が初めて結婚した一番目の旦那のお父様と出会っていたのだ。


続く

【ユリウス家】


<ユリア・アグリッピナ(15年-59年)>

主人公。後の暴君皇帝ネロの母。


<ゲルマニクス(紀元前15年-19年)年の差+30歳年上>

アグリッピナの父


<ウィプサニア(紀元前14年-33年)年の差+29歳年上>

アグリッピナの母 


<長男ネロ(6年-31年)年の差+9歳年上>

アグリッピナから見て、一番上の兄


<次男ドルスス(7年-33年)年の差+8歳年上>

アグリッピナから見て、二番目の兄


<三男ガイウス=カリグラ(12年-41年)年の差+3歳年上>

アグリッピナから見て、三番目の兄


<次女ドルシッラ(16年-38年)年の差-1歳年下>

アグリッピナから見て、一番目の妹


<三女リウィッラ(18年-42年)年の差-3歳年下>

アグリッピナから見て、二番目の妹


【アントニウス家系 父方】


<アントニア(紀元前36年-37年)年の差+51歳年上>

アグリッピナから見て、父方の祖母


<リウィッラ・ユリア(紀元前13年-31年)年の差+28歳年上>

アグリッピナから見て、父方の叔母


<クラウディウス(紀元前10年-54年)年の差+25歳年上>

アグリッピナから見て、父方の叔父


【アントニウス家系の解放奴隷、使用人および奴隷】


<ナルキッスス(1年-54年)年の差+14歳年上>

父方の祖母アントニア及びクラウディウスの解放奴隷


<パッラス(1年-63年)年の差+14歳年上>

父方の祖母アントニア及びクラウディウスの解放奴隷


<フェリックス(12年-62年)年の差+3歳年上>

父方の祖母アントニア及びクラウディウスの解放奴隷


<アクィリア(17年-19年)年の差-2歳年下>

父方の祖母アントニアの解放奴隷


<シッラ(紀元前15年-60年)年の差+30歳年上>

父方の祖母アントニアの解放奴隷


<リッラ(紀元前15年-59年)年の差+30歳年上>

父方の祖母アントニアの解放奴隷


<クッルス(紀元前15年-59年)年の差+30歳年上>

父ゲルマニクスの親友


<セリウス(紀元前15年-60年)年の差+30歳年上>

父ゲルマニクスの親友


<セルテス(紀元前12年-63年)年の差+27歳年上>

父方の祖母アントニアの解放奴隷


<ぺロ(17年-30年)年の差-2歳年下>

父方の祖母アントニアの飼い犬


【クラウディウス氏族】


<リウィア大母后(紀元前58年-29年)年の差+73歳年上>

アグリッピナから見て、父方祖父の母親。初代皇帝アウグストゥスの後妻


<ティベリウス皇帝(紀元前42年-37年)年の差+57歳年上>

アグリッピナから見て、父方祖父の兄弟。初代皇帝アウグストゥスの養子、リウィア大母后の長男


<ドルスッス(紀元前14年-23年)年の差+29歳年上>

アグリッピナから見て、父方祖父の兄弟の息子。二代目皇帝ティベリウスの長男


<リヴィア(5-43年)年の差+10歳年上>

アグリッピナから見て、父ゲルマニクスの妹の娘。ドルスッスの長女


【ティベリウス皇帝 関係】


<セイヤヌス(紀元前20年–31年)年の差+35歳年上>

二代目皇帝ティベリウスの右腕。親衛隊長官


<ピソ(紀元前44年-20年)年の差+59歳年上>

二代目皇帝ティベリウスの親友。シリア属州の総督。


【後のアグリッピナに関わる人物】


<ウェスタ神官長オキア(紀元前68年-29年)年の差+83歳年上>

ウェスタの巫女の長


<セネカ(紀元前1年-65年)年の差+16歳年上>

アグリッピナの盟友


<ブッルス(1年 - 62年)年の差+15歳年上>

アグリッピナの悪友


<アニケトゥス(1年 - 69年)年の差+15歳年上>

後のアグリッピナ刺殺犯

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