表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
紺青のユリ  作者: Josh Surface
第四章「大母后と祖母」少女編 西暦18年 3歳
49/300

第四章「大母后と祖母」第四十九話

怒られたのはパッラスだけではなかった。サリウスもクッルスも、そして私も。原因はやっぱり私の木登り。街中の人が注目してしまったから。


「もう!あんた達は何やってるの!?」


さすがに怒髪天のアントニア様は、インスラへ寄り道するのを暫く禁止した。さすがにサリウスやクッルスも、お咎めを受けて猛省してる。


「アグリッピナ様、しっかしあんなに木登りが上手だなんて、僕驚いたよ。」

「でしょ?フェリックス。兄妹の中でもガイウスお兄様よりも誰よりも上手いんだから!」

「あ!僕知ってる。ガイウスお兄様って、カリグラ様って言われてるお兄様でしょ?カリグラ様よりも木登りが上手なの?」

「そう!」

「すっごいな~。」

「へへーん。」


ゴン!

痛い!誰?あ!アントニア様。


「こら!アグリッピナ。へへーんじゃありません。木登りなんか危ないから、自慢げになるんじゃありません。」


後ろからやってくるのがアントニア様。本当にこの人は地獄耳。その後はキツくこってり絞られる。どうやらアントニア様は、お母様からくれぐれも私に木登りだけはさせないでくれと言われていたみたい。その話を大母后様のリウィア様へ話をすると、アントニア様の事を鼻で笑っていた。


「アハハハハハ!アントニアだって、昔は木登りばっかりしてたんだから人の事言えないのに。」

「本当ですか?!」

「あら、聞いてないの?それじゃ教えてあげる。あの子は昔っから不思議な子で、本気で空を鳥のように飛べるって思ってて、空飛べない事を理解するまで相当時間掛かったんだから。まだまだ、木登りで競い合ってるアグリッピナの方が現実的でマシよ。」


さすが、アントニア様。

ウツボに首飾りをさせていただけある…。


「フフフ…。それに、日々の鍛錬を毎日欠かさず行っていたんだから、そのぐらいの高さじゃ全然物足りなかったんじゃないかしら?」

「はい、もっと高い所まで登ってみたいと思いました。」

「いい子ねぇ。そのうち嫌でも高い所に登れる日が来るから大丈夫よ。」


大母后リウィア様の予言は本当に的中した。それが木登りで無い事は確かなのだが…。所で、大母后リウィア様はいつもピッツィノ葡萄酒を愛飲されていた。後に側近から聞いた事によると、どんな時にでも欠かさず飲んでいたんだとかで、美容だけではなく健康にもいい葡萄酒。ゲルマニクスお父様、リウィッラ叔母様、クラウディウス叔父様も、そしてティベリウス皇帝陛下やその長男であるドルスッス叔父様も、幼いころから風邪を引くたびにハーブかピッツィノ葡萄酒を飲まされてたらしい。


「リウィア様。その葡萄酒、とても美味しそうですね。」

「フフフ…。相変わらず何でも興味があるのね、飲んでみる?」

「はい!」


その葡萄酒は、アドリア湾岸へ流れゆくティマウス河水源近くの、岩山の上で栽培された新鮮で栄養分たっぷりの葡萄から採られており、時には医療目的にも利用されているとのこと。


「ゔっ…。大人の味デスね。」

「仕方ないわよ、貴女はまだまだ子供なのだから。でも、大きくなったら、できるだけ飲むようになさい。」

「はい!」

「今日はいつもの桃ではなく、そのピッツィノの葡萄を持って行きなさい。奴隷のおチビちゃんもきっと喜ぶでしょう。」


多くの人は大母后リウィア様は抜け目の無い、威圧的で冷たいお方だと語る。しかし、それは国家の母の外観を語っているに過ぎず、私の幼い頃から見てきた大母后リウィア様は、寛大な心とユーモアもしっかり持ち合わせ、それでいてどんな時にでも努力を怠らない素敵な女性である。そして今でもアウグストゥス様を心よりしっかりと愛されていらっしゃるお方。


「アングッピナ様。今日もおとぅかれーさまでした!」

「アラまぁ!よく言えましたんね~、アクィリアちゃん、はい、今日は葡萄を貰ってきたんだよ。」

「うわーっ!すごい。」

「北の方から取れた、とっても美味しいぶどうよ。」

「おいちい!!」


アクィリアは、私にとって初めて自分の身の回りの世話をしてくれる奴隷のはずだったのだが…。妹のドルシッラそっくりなその愛らしい姿に、私は身分や隔たり無く接してしまった。そして、ようやくアクィリアが私の名前を辛うじて言えるようになった頃、あの悲しい事件が私達に訪れてくる。この事件をキッカケにアントニア様はこのドムスを離れ、元々住んでらしたパラティヌスのドムスへお戻りにもなるのだ。


「アグリッピナ。ちょっと悪いんだけど、クラウディウスの所へお使いしてくれないかしら?」

「クラウディウス叔父様の所へですね?」

「ええ。全くあの子は足が悪いから、なかなかこっちへ来るのも大変でしょう?パッラス、フェリックス。貴方達も一緒にアグリッピナへ着いていきなさい。サリウス、みんなをお願い。私は今日はお客様が来るから忙しくて、アグリッピナ、よろしくね。」

「はい!」


私は一人残されたアクィリアにしっかりとお留守番するように事付けをしなかった。本当にあの時、なぜアクィリアも連れて行かなかったのか、私は大人になっても今でもずっと後悔している。


続く

【ユリウス家】


<ユリア・アグリッピナ(15年-59年)>

主人公。後の暴君皇帝ネロの母。


<ゲルマニクス(紀元前15年-19年)年の差+30歳年上>

アグリッピナの父


<ウィプサニア(紀元前14年-33年)年の差+29歳年上>

アグリッピナの母 


<長男ネロ(6年-31年)年の差+9歳年上>

アグリッピナから見て、一番上の兄


<次男ドルスス(7年-33年)年の差+8歳年上>

アグリッピナから見て、二番目の兄


<三男ガイウス=カリグラ(12年-41年)年の差+3歳年上>

アグリッピナから見て、三番目の兄


<次女ドルシッラ(16年-38年)年の差-1歳年下>

アグリッピナから見て、一番目の妹


<三女リウィッラ(18年-42年)年の差-3歳年下>

アグリッピナから見て、二番目の妹


【アントニウス家系 父方】


<アントニア(紀元前36年-37年)年の差+51歳年上>

アグリッピナから見て、父方の祖母


<リウィッラ・ユリア(紀元前13年-31年)年の差+28歳年上>

アグリッピナから見て、父方の叔母


<クラウディウス(紀元前10年-54年)年の差+25歳年上>

アグリッピナから見て、父方の叔父


【アントニウス家系の解放奴隷、使用人および奴隷】


<ナルキッスス(1年-54年)年の差+14歳年上>

父方の祖母アントニア及びクラウディウスの解放奴隷


<パッラス(1年-63年)年の差+14歳年上>

父方の祖母アントニア及びクラウディウスの解放奴隷


<フェリックス(12年-62年)年の差+3歳年上>

父方の祖母アントニア及びクラウディウスの解放奴隷


<アクィリア(17年-19年)年の差-2歳年下>

父方の祖母アントニアの解放奴隷


<シッラ(紀元前15年-60年)年の差+30歳年上>

父方の祖母アントニアの解放奴隷


<リッラ(紀元前15年-59年)年の差+30歳年上>

父方の祖母アントニアの解放奴隷


<クッルス(紀元前15年-59年)年の差+30歳年上>

父ゲルマニクスの親友


<セリウス(紀元前15年-60年)年の差+30歳年上>

父ゲルマニクスの親友


<セルテス(紀元前12年-63年)年の差+27歳年上>

父方の祖母アントニアの解放奴隷


<ぺロ(17年-30年)年の差-2歳年下>

父方の祖母アントニアの飼い犬


【クラウディウス氏族】


<リウィア大母后(紀元前58年-29年)年の差+73歳年上>

アグリッピナから見て、父方祖父の母親。初代皇帝アウグストゥスの後妻


<ティベリウス皇帝(紀元前42年-37年)年の差+57歳年上>

アグリッピナから見て、父方祖父の兄弟。初代皇帝アウグストゥスの養子、リウィア大母后の長男


<ドルスッス(紀元前14年-23年)年の差+29歳年上>

アグリッピナから見て、父方祖父の兄弟の息子。二代目皇帝ティベリウスの長男


<リヴィア(5-43年)年の差+10歳年上>

アグリッピナから見て、父ゲルマニクスの妹の娘。ドルスッスの長女


【ティベリウス皇帝 関係】


<セイヤヌス(紀元前20年–31年)年の差+35歳年上>

二代目皇帝ティベリウスの右腕。親衛隊長官


<ピソ(紀元前44年-20年)年の差+59歳年上>

二代目皇帝ティベリウスの親友。シリア属州の総督。


【後のアグリッピナに関わる人物】


<ウェスタ神官長オキア(紀元前68年-29年)年の差+83歳年上>

ウェスタの巫女の長


<セネカ(紀元前1年-65年)年の差+16歳年上>

アグリッピナの盟友


<ブッルス(1年 - 62年)年の差+15歳年上>

アグリッピナの悪友


<アニケトゥス(1年 - 69年)年の差+15歳年上>

後のアグリッピナ刺殺犯

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ