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紺青のユリ  作者: Josh Surface
第四章「大母后と祖母」少女編 西暦18年 3歳
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第四章「大母后と祖母」第四十六話

「おにーたん…。」

「兄さん。」


パッラスはサリウスとクッルスに両肩を掴まれ、膝を床へつけさせられた。


「フェリックス、アクィリアの事は頼んだぞ。」

「どういう事だよ!?兄さん!」

「俺は、ギリシャのアルカディア王の末裔として、誇り高く死を選ぶんだ。」

「お、おにーたん?!」


サリウスは、この後に及んでまだローマに愚弄を続けるパッラスに呆れていた。クッルスは、腫れ上がったタンコブを抑えながら、その眼差しは真剣そのもの。


「パッラスとやら…。別にお前の命までも奪うつもりはないぞ。」

「いや、いずれこんな日が来るのは分かってた。あんた達の街を愚弄した分も入ってる。どうせなら、一気にやってくれ。俺たちの故郷アルカディアがローマに落とされた時からの覚悟だ!」

「とても勇敢で、高貴な覚悟だ。だが、アントニア様がお前に与えたせめてもの慈悲だ。感謝しろよ。」

「アントニア様…か。」


ちょうど書物を眺めながら、アントニア様が二階から降りてきている。パッラスの弟と妹はセルテスにしっかり抑えられ、事の重大さに叫んでいる。弟は自分が身代わりになるといい、妹はおにーたん、おにーたんと泣き叫び続けてる。


「お前達!静かにしろ!」


二人はパッラスの張り裂ける声に身体をビクつかせた。クッルスはサリウスの合図で短刀を取り出し、パッラスの右肩上に短刀の先を乗せる。


「フェリックス…。アクィリアには、クルクル馬車…やってあげるんだぞ。」


クルクル馬車…?

この前見た右腕に妹を乗せる遊び。あの優しい眼差し。クッルスは短刀をググっと握り返し、左手で肩を抑える。


「いくぞ…。」

「アルカディアの名にかけて!この命を捧げる!」


自分の意思なのか、それとももっと違う何かだったのか?血脈といえば安易に聞こえるかもしれない。


「待ちなさい!」


体全体が魂で揺さぶられ、私は気が付くとサリウスとクッルスへ制止するよう叫んでいた。自然と出てきた言葉に、ただ辺りにいる全ての人間は驚いている。


「ア、アグリッピナ…様?」

「大母后様から頂いた"アウグスタの桃"は、このパッラスとやらへ、私、自らが与えたのです。その事に関しては、彼には罪は問われる必要はありません!」

「しかし、アグリッピナ様?」


私は彼らを無視をして、書物を持っているアントニア様へ彼らの代わりに膝まづいて懇願した。


「アントニア様…。どうか、このパッラスに御慈悲をお与えできませんでしょうか?」

「アグリッピナ、それはどういう事です?」


アントニア様は書物を眺めたまま、この時から初めて、私を愛称ではなく大人としての名前でしっかりと呼んでくれた。


「故郷では誇り高き者たちだったのであるならば、彼らの血でアントニア様のドムスを穢す事で罰するよりも、彼らの流した汗で、アントニア様へ奉仕する事で罰したほうが、彼らの為にもなり、また、アントニア様の為にもなると考えるからです。」


サリウスもクッルスも、幼い私の言葉使いにビックリし、シッラもリッラも、小鳥が頭に乗っかっても気がつかないほど呆然としている。ただ、一人を除いて。


「アッハハハハ!」


突然アントニア様は大声を出して笑い転げてしまった。私は何だかよくわからないまま。


「ごめんなさいね、アグリッピナ。あまりにも言い回し方が大母后リウィア様そっくりだったから、笑っちゃった。」

「大母后リウィア…様に?」


ようやく書物から目を離したアントニア様は微笑んでいた。


「やっと見つかった!!」

「へ?」

「ごめんなさいね、サリウスとクッルス。騙すつもりは無かったんだけど、時間稼ぎをして欲しかったの。二人とも、パッラスを離しなさい。」


サリウスとクッルスはアントニア様の命に従って、取り押さえられていたパッラスを離す。だが、一番びっくりしているのは、二人に離されたパッラス自身だった。


「パッラス、貴方は元々私の所へ来るはずだったのよ。」

「え?!」

「ほら、ここの書簡にしっかりと貴方の事が書かれているの。アルカディアの末裔と聞いてピーンときたのよ。確かうちで雇うはずの奴隷が二ヶ月前に逃げたのを。その貴方が私の家から盗みに入ってたなんて、なんてお笑いなのかしら。」


パッラスもフェリックスも、そしてアクィリアも事の重大さに気づいていない。


「まぁ、私としては本当に王族の末裔であるかの覚悟も見たかったので、ギリギリまで待つつもりだったけれど。まさか、桃を"貰った"アグリッピナに貴方が助けられるとはね。」

「…。」

「どう?パッラス。その救われた命を大切にして、アグリッピナちゃんが言ったように、この家で働くつもりはない?」


私は嬉しくなって、アントニア様へ笑顔を見せた。


「もちろん、貴方達三人一緒よ!」


続く


【ユリウス家】


<ユリア・アグリッピナ(15年-59年)>

主人公。後の暴君皇帝ネロの母。


<ゲルマニクス(紀元前15年-19年)年の差+30歳年上>

アグリッピナの父


<ウィプサニア(紀元前14年-33年)年の差+29歳年上>

アグリッピナの母 


<長男ネロ(6年-31年)年の差+9歳年上>

アグリッピナから見て、一番上の兄


<次男ドルスス(7年-33年)年の差+8歳年上>

アグリッピナから見て、二番目の兄


<三男ガイウス=カリグラ(12年-41年)年の差+3歳年上>

アグリッピナから見て、三番目の兄


<次女ドルシッラ(16年-38年)年の差-1歳年下>

アグリッピナから見て、一番目の妹


<三女リウィッラ(18年-42年)年の差-3歳年下>

アグリッピナから見て、二番目の妹


【アントニウス家系 父方】


<アントニア(紀元前36年-37年)年の差+51歳年上>

アグリッピナから見て、父方の祖母


<リウィッラ・ユリア(紀元前13年-31年)年の差+28歳年上>

アグリッピナから見て、父方の叔母


<クラウディウス(紀元前10年-54年)年の差+25歳年上>

アグリッピナから見て、父方の叔父


【アントニウス家系の解放奴隷、使用人および奴隷】


<ナルキッスス(1年-54年)年の差+14歳年上>

父方の祖母アントニア及びクラウディウスの解放奴隷


<パッラス(1年-63年)年の差+14歳年上>

父方の祖母アントニア及びクラウディウスの解放奴隷


<フェリックス(12年-62年)年の差+3歳年上>

父方の祖母アントニア及びクラウディウスの解放奴隷


<アクィリア(17年-19年)年の差-2歳年下>

父方の祖母アントニアの解放奴隷


<シッラ(紀元前15年-60年)年の差+30歳年上>

父方の祖母アントニアの解放奴隷


<リッラ(紀元前15年-59年)年の差+30歳年上>

父方の祖母アントニアの解放奴隷


<クッルス(紀元前15年-59年)年の差+30歳年上>

父ゲルマニクスの親友


<セリウス(紀元前15年-60年)年の差+30歳年上>

父ゲルマニクスの親友


<セルテス(紀元前12年-63年)年の差+27歳年上>

父方の祖母アントニアの解放奴隷


<ぺロ(17年-30年)年の差-2歳年下>

父方の祖母アントニアの飼い犬


【クラウディウス氏族】


<リウィア大母后(紀元前58年-29年)年の差+73歳年上>

アグリッピナから見て、父方祖父の母親。初代皇帝アウグストゥスの後妻


<ティベリウス皇帝(紀元前42年-37年)年の差+57歳年上>

アグリッピナから見て、父方祖父の兄弟。初代皇帝アウグストゥスの養子、リウィア大母后の長男


<ドルスッス(紀元前14年-23年)年の差+29歳年上>

アグリッピナから見て、父方祖父の兄弟の息子。二代目皇帝ティベリウスの長男


<リヴィア(5-43年)年の差+10歳年上>

アグリッピナから見て、父ゲルマニクスの妹の娘。ドルスッスの長女


【ティベリウス皇帝 関係】


<セイヤヌス(紀元前20年–31年)年の差+35歳年上>

二代目皇帝ティベリウスの右腕。親衛隊長官


<ピソ(紀元前44年-20年)年の差+59歳年上>

二代目皇帝ティベリウスの親友。シリア属州の総督。


【後のアグリッピナに関わる人物】


<ウェスタ神官長オキア(紀元前68年-29年)年の差+83歳年上>

ウェスタの巫女の長


<セネカ(紀元前1年-65年)年の差+16歳年上>

アグリッピナの盟友


<ブッルス(1年 - 62年)年の差+15歳年上>

アグリッピナの悪友


<アニケトゥス(1年 - 69年)年の差+15歳年上>

後のアグリッピナ刺殺犯

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