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紺青のユリ  作者: Josh Surface
第四章「大母后と祖母」少女編 西暦18年 3歳
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第四章「大母后と祖母」第四十四話

「いいかげんな事をぬかすな!貴様のような蛮族で見窄らしい格好をした盗人が、どうして、ギリシャのアルカディア王末裔の血など引いてると言えるんだ?!」

「ケッ!平民以下のお前なんかにわかる訳無いだろうな!愚弄な護衛兵どもめ!」

「貴様!」


アントニア様はしかし、少しだけ何かを推敲している様子。その横で気絶したクッルスを看病しているリッラ。セルテスも青年の話を信用していない。


「なぜ?!わざわざアントニア様のドムスから、井戸の水やパンを盗んだ?」

「ここの金持ちは余りにも無防備だったからさ!丸い天窓からアトリウムを抜ければ、すぐに井戸はあるし、バカみたいにそこのおチビちゃんはインスラで桃を自慢げに丸かじりしてるしよ!」


おチビちゃんて…。あ、あたしの事だ。


「あんなのじゃ盗んでくださいよ!って言ってるようなもんだぜ!それにだ!平民以下のくせに、インスラに住む連中達は、井戸の水を俺達には近寄らせてもくれやしない!だから金持ちの家だったら井戸があると踏んだのさ!」


セルテスは、青年の話を聞いて憤慨していた。


「こういう孤児どもは平気で人の物を盗むし、自分さえよければいいという考えだ。まともに働きもしないくせに、自分の意見は一丁前。懲らしめる必要がありますよ、サリウスさん。」

「ああ、そうだな。」

「ふざけるな!俺の王族の血が、お前達を生涯呪うぞ!」

「まだそんな嘘をついて!アグリッピナ様の桃を奪ったくせに、更には呪いなどとのたうちまわり!このセルテス、さすがに怒りを覚えました!」

「うるさい!黙れ!アルカディア王族の血は、ローマの皇族なんかより偉大なんだ!」


ようやくクッルスが起き上がった。

リッラは大きなタンコブを冷やし布で抑えてあげてる。セルテスはクッルスに近寄り、サリウスは冷静沈着に一つの提案をする。


「パッラスとかいう輩よ。貴様が本当にギリシャのアルカディア王族の血を受け継いでいる末裔というならば、その誇り高き精神を我らに見せてもらおうじゃないか…。」

「な、何…?!」

「貴様は、確かに皇族であるアントニア様のドムスに盗みに入ったのは間違いがない。自分でも自白している。それなのに言い逃れをしてあわよくばそのまま逃げるつもりか?」

「!?」

「王族の末裔である証として、盗みを犯したそれ相応の覚悟と代償を支払うべきだろう?」


大きなタンコブを抱えたままのクッルスは、パッラスを睨みつけながら、恐ろしく低い声で更なる提案をする。


「サリウスの言う通りだ。貴様のような蛮族で盗っ人を我が愛する街から出してしまっただけでも、あっしらはアントニア様に申し訳が立たぬ。指の一本くらいは覚悟したらどうだ?」


ええ?!

しかし、アントニア様は何も言わずに何かを考えている。


「ケッ…!愚弄な平民以下の兵士ども!俺が指一本でビビってると思うなよ!王族の末裔として右腕の一本をくれてやらぁ!感謝しろよ!」

「よし、いい心構えだ。サリウス、俺にやらせてくれ。」


私はこの青年が強がって言ってるのではない気がした。


「ただし、一つだけ頼みがある!」

「何だ?」

「俺には腹を空かせた弟と妹がいるんだ。そいつらに今夜の食いもんだけでも届けさせてくれ!」


あ!あの女の子と男の子の事だ…。

しかし、セルテスはこの青年を信用せずに、生意気な態度に怒りをぶつける。


「ふざけるな!誰がその手に引っかかるか?!そうやってまんまと逃げるつもりだろ?!それにお前が届けようとしているのは、アントニア様から盗んだ物ではないか!?」

「分かってる!だけどこれは本当なんだ!あいつらは俺がいないと飢え死にするんだ!お前ら平民以下の奴らに俺の腕の一本くらいやるんだから、それぐらいいいだろ?!」

「このガキは調子こいて!さぁ!サリウスさん、クッルスさん、早く!」

「そうだな…クッルス。」

「ああ…。」


私は恐くなって思わずアントニア様へしがみつく。しかし、アントニア様はいつもと違って、無表情のままずっと目を瞑って考えている。


「ア、アントニア様…?」


するとアントニア様は、キリッと目を見開いて三人を制止してくれた。


「およしなさい!」


良かった…。

やっぱりアントニア様は優しいお方なんだ。


「パッラスとやら。貴方が本当にギリシャのアルカディア王の末裔であり、今夜、飢え死にするであろう妹や弟がいるのなら、彼らに食べ物を届けた後、彼らを連れて必ずここへ戻り、あなたの右腕を兄妹の前で差し出す事を約束なさい。」


ええええ?!

私はアントニア様が、もっとも冷酷だと思った。


続く


【ユリウス家】


<ユリア・アグリッピナ(15年-59年)>

主人公。後の暴君皇帝ネロの母。


<ゲルマニクス(紀元前15年-19年)年の差+30歳年上>

アグリッピナの父


<ウィプサニア(紀元前14年-33年)年の差+29歳年上>

アグリッピナの母 


<長男ネロ(6年-31年)年の差+9歳年上>

アグリッピナから見て、一番上の兄


<次男ドルスス(7年-33年)年の差+8歳年上>

アグリッピナから見て、二番目の兄


<三男ガイウス=カリグラ(12年-41年)年の差+3歳年上>

アグリッピナから見て、三番目の兄


<次女ドルシッラ(16年-38年)年の差-1歳年下>

アグリッピナから見て、一番目の妹


<三女リウィッラ(18年-42年)年の差-3歳年下>

アグリッピナから見て、二番目の妹


【アントニウス家系 父方】


<アントニア(紀元前36年-37年)年の差+51歳年上>

アグリッピナから見て、父方の祖母


<リウィッラ・ユリア(紀元前13年-31年)年の差+28歳年上>

アグリッピナから見て、父方の叔母


<クラウディウス(紀元前10年-54年)年の差+25歳年上>

アグリッピナから見て、父方の叔父


【アントニウス家系の解放奴隷、使用人および奴隷】


<ナルキッスス(1年-54年)年の差+14歳年上>

父方の祖母アントニア及びクラウディウスの解放奴隷


<パッラス(1年-63年)年の差+14歳年上>

父方の祖母アントニア及びクラウディウスの解放奴隷


<フェリックス(12年-62年)年の差+3歳年上>

父方の祖母アントニア及びクラウディウスの解放奴隷


<アクィリア(17年-19年)年の差-2歳年下>

父方の祖母アントニアの解放奴隷


<シッラ(紀元前15年-60年)年の差+30歳年上>

父方の祖母アントニアの解放奴隷


<リッラ(紀元前15年-59年)年の差+30歳年上>

父方の祖母アントニアの解放奴隷


<クッルス(紀元前15年-59年)年の差+30歳年上>

父ゲルマニクスの親友


<セリウス(紀元前15年-60年)年の差+30歳年上>

父ゲルマニクスの親友


<セルテス(紀元前12年-63年)年の差+27歳年上>

父方の祖母アントニアの解放奴隷


<ぺロ(17年-30年)年の差-2歳年下>

父方の祖母アントニアの飼い犬


【クラウディウス氏族】


<リウィア大母后(紀元前58年-29年)年の差+73歳年上>

アグリッピナから見て、父方祖父の母親。初代皇帝アウグストゥスの後妻


<ティベリウス皇帝(紀元前42年-37年)年の差+57歳年上>

アグリッピナから見て、父方祖父の兄弟。初代皇帝アウグストゥスの養子、リウィア大母后の長男


<ドルスッス(紀元前14年-23年)年の差+29歳年上>

アグリッピナから見て、父方祖父の兄弟の息子。二代目皇帝ティベリウスの長男


<リヴィア(5-43年)年の差+10歳年上>

アグリッピナから見て、父ゲルマニクスの妹の娘。ドルスッスの長女


【ティベリウス皇帝 関係】


<セイヤヌス(紀元前20年–31年)年の差+35歳年上>

二代目皇帝ティベリウスの右腕。親衛隊長官


<ピソ(紀元前44年-20年)年の差+59歳年上>

二代目皇帝ティベリウスの親友。シリア属州の総督。


【後のアグリッピナに関わる人物】


<ウェスタ神官長オキア(紀元前68年-29年)年の差+83歳年上>

ウェスタの巫女の長


<セネカ(紀元前1年-65年)年の差+16歳年上>

アグリッピナの盟友


<ブッルス(1年 - 62年)年の差+15歳年上>

アグリッピナの悪友


<アニケトゥス(1年 - 69年)年の差+15歳年上>

後のアグリッピナ刺殺犯

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