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紺青のユリ  作者: Josh Surface
第四章「大母后と祖母」少女編 西暦18年 3歳
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第四章「大母后と祖母」第三十六話

「では、くれぐれもアグリッピナの身の安全を。」

「はい、大母后様。」


ようやくお二人のお話が終わり、二階にいた私はアントニア様に呼ばれ、大母后リウィア様の見送るために一階へ降りて行った。すると大母后リウィア様は背の低い私の為に、わざわざしゃがんで頭をなでながら言葉をかけてくださった。


「アグリッピナ。貴女はユリウス家の長女として、これからいっぱい色々な勉強をし、立派な女性になるのよ。だから何事にも動じず賢くありなさい。賢くいる事は身の安全を守り、そして他の者達からの尊敬を得る事ができるのですから。」

「壁や橋という事でしょうか?」

「そう!よく分かってるわね。あなたって本当にお利口さん。また、明日会いましょう。今度は女性として素敵な事を教えるわ。」


するとおでこにチュっとキスをしてくれた。私はとっても嬉しかった。その後、警備の事でアントニア様へ助言をなされると、リウィア様は静かにお戻りになられた。ふと気が付いたら、あれだけいつも誰に対しても吠えるペロが、一切リウィア様には吠えず懐いてシッポを振っていたみたい。


「セルテス、かんぬきを。」

「はい、アントニア様。」


するとアントニア様は私の顔を見て、ニッコリ笑ってきた。


「ユリアちゃ~ん、聞いてたな~?」

「てへへ、暴露ました?」


アントニア様は私の頭をわざとじゃれ合うように撫でてくれた。


「私も昔はよくその手を使ってたの。あの人に褒められたかったから。でも、きっとリウィア様の事だから、何もかもお見通しね。く~!もう、あそこ迄暴露てたら陰口言えなくなるじゃんか。」


でも、私は女性の賢さによる威厳というものが、年齢を問わずに輝きを放つ事に心を奪われ、そして何よりも大母后リウィア様の根底に、人道的な愛情と優しさがしっかりと流れていることにも感激をした。


「うん?って事は…ユリアちゃん、私のウツボの話も聞いてたわね?!」

「あ、いや、首飾りなんて知りません!」

「こんにゃろ~!」


またしてもアントニア様からくすぐりの刑を食らってしまった私。たまにお腹に口を当ててブブーって鳴らしたり、鳥のように私を宙に浮かせてくれたり、本当に愉快で自由奔放で優しい人なのがアントニア様。

きっと、後で考えれば、お父様やお母様が無断でエジプトへ行かれた事は、かなりの大事になっていたのかもしれない。それらを危惧したリウィア様とアントニア様は、幼い私にできるだけ負担を与えないようにしてくれていたのだと思う。きっと笑う事で、その日常の重りから自分を解放してくれる事を、アントニア様は体現して教えてくださったのだと思う。


「夕食を終えた後に、セルテスがインスラから買ってきたギリシャのゲームでもしましょうか?」

「インスラって何ですか?」

「そっかユリアちゃんは、ローマに来てからしっかりとインスラをまだ見た事ないんだ?」

「はい。」

「インスラは下層階級のプレブスや中流階級のエクィテスといった平民達が住む、コンクリートでできた四階建てのアパートよ。」

「へぇー。」

「平民の人達がひしめき合って生活しているから、いっつも活気付いているの。リッラとシッラにはいつも行ってもらってるのよ。」


すると解放奴隷のリッラとシッラも二階から降りてきた。アントニア様のお話に耳を傾けていたらしく、インスラの説明をわざわざ私にしてくれた。


「あー、私達が買ってくる食材も、アントニアさができるだけ新鮮で安くいい物を買ってくるように言われてるので、インスラの一階のお店で仕入先を聞いてくるんです。」

「へぇー!すごい。」

「アッハッハ!そうするとですね~何処が安いのか~分かるんですよ~。」

「あー、たまにリッラは、大衆食堂のタヴェルナで道草してますがね、はい。」

「こら!リッラ。」

「アッハッハ…。すみませ~ん、アントニア様~。」


ところがシケリア人のセルテスだけは、真面目に私へインスラの危険な部分も説明してくるのだ。


「ただ、インスラは上階になるにつれ家賃は低くなり、社会常識を逸した平民が多く住んでいることもあり、平気で窓から物を落とす輩もいますので危険ですよ。」

「そうなの?」

「はい。以前は余りにも人が集まるものだから、インスラもかなり高く建築されていたのですが、そのぶん構造上に問題があって簡単に崩れ落ちてしまったそうです。火災と倒壊の危険性があることから、アウグストゥス様は建築する際の高さの基準を決められたのですが、それでもインスラの火災や倒壊事故は後を絶たないですね。」

「あー、時折、中の階段が混雑して、上の階に住んでる人が待ちきれなくて、隣のインスラからジャンプして登っている人も見かけますです。」


私はきっと大きな宮殿のような物をイメージしていたと思う。幼い頃の興味は本当に真っ直ぐで怖いもの知らず。一度行って見てみたいって思うと、その事ばっかり考えてしまう。でも、そこのインスラが立ち並ぶ所で、井戸から水を盗んだ青年にばったり出会うのだった。


続く


【ユリウス家】


<ユリア・アグリッピナ(15年-59年)>

主人公。後の暴君皇帝ネロの母。


<ゲルマニクス(紀元前15年-19年)年の差+30歳年上>

アグリッピナの父


<ウィプサニア(紀元前14年-33年)年の差+29歳年上>

アグリッピナの母 


<長男ネロ(6年-31年)年の差+9歳年上>

アグリッピナから見て、一番上の兄


<次男ドルスス(7年-33年)年の差+8歳年上>

アグリッピナから見て、二番目の兄


<三男ガイウス=カリグラ(12年-41年)年の差+3歳年上>

アグリッピナから見て、三番目の兄


<次女ドルシッラ(16年-38年)年の差-1歳年下>

アグリッピナから見て、一番目の妹


<三女リウィッラ(18年-42年)年の差-3歳年下>

アグリッピナから見て、二番目の妹


【アントニウス家系 父方】


<アントニア(紀元前36年-37年)年の差+51歳年上>

アグリッピナから見て、父方の祖母


<リウィッラ・ユリア(紀元前13年-31年)年の差+28歳年上>

アグリッピナから見て、父方の叔母


<クラウディウス(紀元前10年-54年)年の差+25歳年上>

アグリッピナから見て、父方の叔父


【アントニウス家系の解放奴隷、使用人および奴隷】


<ナルキッスス(1年-54年)年の差+14歳年上>

父方の祖母アントニア及びクラウディウスの解放奴隷


<パッラス(1年-63年)年の差+14歳年上>

父方の祖母アントニア及びクラウディウスの解放奴隷


<フェリックス(12年-62年)年の差+3歳年上>

父方の祖母アントニア及びクラウディウスの解放奴隷


<アクィリア(17年-19年)年の差-2歳年下>

父方の祖母アントニアの解放奴隷


<シッラ(紀元前15年-60年)年の差+30歳年上>

父方の祖母アントニアの解放奴隷


<リッラ(紀元前15年-59年)年の差+30歳年上>

父方の祖母アントニアの解放奴隷


<クッルス(紀元前15年-59年)年の差+30歳年上>

父ゲルマニクスの親友


<セリウス(紀元前15年-60年)年の差+30歳年上>

父ゲルマニクスの親友


<セルテス(紀元前12年-63年)年の差+27歳年上>

父方の祖母アントニアの解放奴隷


<ぺロ(17年-30年)年の差-2歳年下>

父方の祖母アントニアの飼い犬


【クラウディウス氏族】


<リウィア大母后(紀元前58年-29年)年の差+73歳年上>

アグリッピナから見て、父方祖父の母親。初代皇帝アウグストゥスの後妻


<ティベリウス皇帝(紀元前42年-37年)年の差+57歳年上>

アグリッピナから見て、父方祖父の兄弟。初代皇帝アウグストゥスの養子、リウィア大母后の長男


<ドルスッス(紀元前14年-23年)年の差+29歳年上>

アグリッピナから見て、父方祖父の兄弟の息子。二代目皇帝ティベリウスの長男


<リヴィア(5-43年)年の差+10歳年上>

アグリッピナから見て、父ゲルマニクスの妹の娘。ドルスッスの長女


【ティベリウス皇帝 関係】


<セイヤヌス(紀元前20年–31年)年の差+35歳年上>

二代目皇帝ティベリウスの右腕。親衛隊長官


<ピソ(紀元前44年-20年)年の差+59歳年上>

二代目皇帝ティベリウスの親友。シリア属州の総督。


【後のアグリッピナに関わる人物】


<ウェスタ神官長オキア(紀元前68年-29年)年の差+83歳年上>

ウェスタの巫女の長


<セネカ(紀元前1年-65年)年の差+16歳年上>

アグリッピナの盟友


<ブッルス(1年 - 62年)年の差+15歳年上>

アグリッピナの悪友


<アニケトゥス(1年 - 69年)年の差+15歳年上>

後のアグリッピナ刺殺犯

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