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紺青のユリ  作者: Josh Surface
第一章「私」少女編 西暦17~18年 2~3歳
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第一章「私」第三話

「ユリア!思いっきりジャンプするんだ!」


辺り一体に響く、低くて大らかな声。 馬の蹄が地響きのように、私を包む世界中を揺らしてくる。ゲルマニクスお父様の声だわ!私は顔に両手で目を塞いで、裸足のままジャンプした。


「危ないっ!」


お母様の金切り声が聞こえた。

でも、私は気にしなかった。


「ヨシっと!」


馬に乗ったお父様の両腕に、見事にお尻から着地した。


「只今、ユリア」

「お父様!おかえりなさいませ」


まるで太陽のように暖かく、山のように大きくて、青空の様に清々しいお父様。私のためだけに、ニッコリと大きな笑顔で微笑んでくれた。


「ユリア、お前お尻が大っきくなったな~」

「嫌ですわ、お父様のエッチ」

「ガッハハハ!お尻が大きい事は、女性にとっていい事なんだ。きっと良い子供を産むだろう」


私はお父様が大好きだから、首元へ両腕でいっぱい抱きしめた。時々、お父様のあご髭がチクチク当たって痛いけど、その匂いが大好きで堪らなかった。そして、いつも必ずホッペにキッスを三回するのが私とお父様の約束。


「お父様、お帰りなさいませ」


ドルシッラをあやしているカリグラ兄さんが、一番最初にお父様の元へやってきた。


「おお!ガイウスか!大きくなったな」


次に、ネロ兄様が背筋をピンと伸ばして、ゆっくりと清楚な顔付で挨拶をした。


「お父様、お帰りなさいませ」

「ネロ!随分と背が高くなってきたな」


そんなお兄様の髪の毛を、ワザと乱す様に撫でてあげるのが常だった。ネロお兄様はそれが嬉しくてしょうがなかったみたい。


「お帰りなさいませ、お父様。あ!」


ドルスス兄様はペコっと頭を下げた。っと同時に鼻水がヤッパリ垂れてしまう。


「ドルスス!また鼻水が出ているのか?ガッハハハ!」

「また出ちゃいました」


ドルススお兄様は、お父様と一緒に笑うのが大好きだった。


「貴方、お帰りなさいませ」


すると、お母様がサファイアのような緑色の瞳を潤わせて、右手でお腹を支えながら近付いていく。


「ネロ、ユリアを頼む」

「はい」


私はお父様からネロお兄様へ渡される。そして、お父様とお母様は、互いを強く抱きしめあい、互いの愛を確かめ合うように安らぎを感じていた。子供心にも嫉妬してしまうほど、二人の愛情は互いを深く結び、たとえ子供の前でも憚らず、威風堂々と口づけを交わすのが常だった。


「今帰ったぞ、ウィプサニア」

「本当に、よくご無事で」


私をいつも抱っこしてくれたのは、兄弟の仲で一番心優しいネロお兄様。きめが細やかで、私が何をしても怒らなかった。少しおっちょこちょいなドルススお兄様は、兄弟の仲で一番仲が良かった。お守りのブルラをグルグル回してるひとだけど、それでも、さっき脱げた私のソレラを拾ってきてくれた。ネロ兄様はご自分の太腿の上に私を乗せて、ソレラを丁寧に履かせてくれてる。一方、まったく私の面倒を見ないのがカリグラ兄さん。枝を剣に見立てて振り回したり、乱暴なことやいたずらが大好き。負けず嫌いなところは、私とそっくりかもしれない。カリグラ兄さんは、お父様の馬をマジマジと眺めてる。意外と私に懐かなかったのが次女のドルシッラ。いっつも親指を口に咥えながら、カリグラ兄さんのトゥニカ先を握ってる。そして三女のリウィッラは、もちろん、まだお母様のお腹の中にいた。


「おっし、ユリア履けたぞ」

「ありがとう。ネロお兄様、ドルススお兄様」


ネロお兄様の太腿から地面におりて、私はソレラのつま先をトントンと二回つついた。


「ユリア、ところで卵の数は何個あった?」


鼻水をしっかり拭いたドルススお兄様が尋ねてきた。私は何も言わず、さらには答えもせず、トゥニカの下に隠しておいた卵を取り出した。


「うわ!三個もあるじゃんか!」

「そうよ、ドルススお兄様」

「すごいな、ユリアは」

「私はユリウス家の長女ですもの。タダでは転びません事よ、ネロお兄様」

「あははは、それを言うなら、"タダでは落ちません"だろ?」

「ああ、そうでした!」


これが、あの神君カエサルの血を引く、私たち兄妹と家族なのだ。


続く


【ユリウス家】


<ユリア・アグリッピナ(15年-59年)>

主人公。後の暴君皇帝ネロの母。


<ゲルマニクス(紀元前15年-19年)年の差+30歳年上>

アグリッピナの父


<ウィプサニア(紀元前14年-33年)年の差+29歳年上>

アグリッピナの母 


<長男ネロ(6年-31年)年の差+9歳年上>

アグリッピナから見て、一番上の兄


<次男ドルスス(7年-33年)年の差+8歳年上>

アグリッピナから見て、二番目の兄


<三男ガイウス=カリグラ(12年-41年)年の差+3歳年上>

アグリッピナから見て、三番目の兄


<次女ドルシッラ(16年-38年)年の差-1歳年下>

アグリッピナから見て、一番目の妹


<三女リウィッラ(18年-42年)年の差-3歳年下>

アグリッピナから見て、二番目の妹


【アントニウス家系 父方】


<アントニア(紀元前36年-37年)年の差+51歳年上>

アグリッピナから見て、父方の祖母


<リウィッラ・ユリア(紀元前13年-31年)年の差+28歳年上>

アグリッピナから見て、父方の叔母


<クラウディウス(紀元前10年-54年)年の差+25歳年上>

アグリッピナから見て、父方の叔父


【アントニウス家系の解放奴隷、使用人および奴隷】


<ナルキッスス(1年-54年)年の差+14歳年上>

父方の祖母アントニア及びクラウディウスの解放奴隷


<パッラス(1年-63年)年の差+14歳年上>

父方の祖母アントニア及びクラウディウスの解放奴隷


<フェリックス(12年-62年)年の差+3歳年上>

父方の祖母アントニア及びクラウディウスの解放奴隷


<アクィリア(17年-19年)年の差-2歳年下>

父方の祖母アントニアの解放奴隷


<シッラ(紀元前15年-60年)年の差+30歳年上>

父方の祖母アントニアの解放奴隷


<リッラ(紀元前15年-59年)年の差+30歳年上>

父方の祖母アントニアの解放奴隷


<クッルス(紀元前15年-59年)年の差+30歳年上>

父ゲルマニクスの親友


<セリウス(紀元前15年-60年)年の差+30歳年上>

父ゲルマニクスの親友


<セルテス(紀元前12年-63年)年の差+27歳年上>

父方の祖母アントニアの解放奴隷


<ぺロ(17年-30年)年の差-2歳年下>

父方の祖母アントニアの飼い犬


【クラウディウス氏族】


<リウィア大母后(紀元前58年-29年)年の差+73歳年上>

アグリッピナから見て、父方祖父の母親。初代皇帝アウグストゥスの後妻


<ティベリウス皇帝(紀元前42年-37年)年の差+57歳年上>

アグリッピナから見て、父方祖父の兄弟。初代皇帝アウグストゥスの養子、リウィア大母后の長男


<ドルスッス(紀元前14年-23年)年の差+29歳年上>

アグリッピナから見て、父方祖父の兄弟の息子。二代目皇帝ティベリウスの長男


【ティベリウス皇帝 関係】


<セイヤヌス(紀元前20年–31年)年の差+35歳年上>

二代目皇帝ティベリウスの右腕。親衛隊長官


<ピソ(紀元前44年-20年)年の差+59歳年上>

二代目皇帝ティベリウスの親友。シリア属州の総督。


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