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紺青のユリ  作者: Josh Surface
第十六章「婚前の夜明け」乙女編 西暦27年~28年 12~13歳
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第十六章「婚前の夜明け」第二百九十七話

「ウィプサニア、私を憎みたければ、私を一生憎み続けなさい!私は憎まれて、私は父も、元旦那も、息子も裏切ったも当然な女なの!」

「もうやめてください、リウィア様!たくさんです!どうしてご自分だけで全てを抱えこもうとされるのですか?!」


母は少女のように泣いていた。

ローマのインスラが立ち並ぶ貧民街で、まるで迷子になった仔犬のように。そしてようやく、母は自分自身に疲れていたのだ。


「私が大好きな人を、憎めないことを知っているくせに!ズルい!」

「あああ!ウィプサニア!ごめんなさいい!」

「リウィア様ぁあああ!!」


甘えられなかった母親を求めるように、救いたかった大好きな姉へすがるように、母ウィプサニアは大母后リウィア様へ駆け寄って抱きついた。両腕に包まって、恥も外聞もなく大泣きしている。スクリボニアの血を引く子供達は、みんな親の愛情に飢えている迷子達。


"リウィア様!"

"何?ウィプサニア"

"あたし、リウィア様の事が大好きなの!"

"ありがとう、ウィプサニア。その一言で、私の心が救われるわ"


実は最初に大泣きしたのは、リウィア様だった。抱きつかれた幼い母は、その涙が意図する事を理解出来なかったらしい。だが、今度は母が泣き崩れる。全てを理解し、惑わされていた心を解き放つように。


「私、ユリア・ウィプサニア・アグリッピナは、夫ゲルマニクス・ユリウス・カエサルの部下達であるローマ軍の兵達を煽動し、大母后リウィア様と、その御子息であるティベリウス皇帝陛下の地位と名誉と神威を、簒奪しようとしました」


母は正直に大母后様へ伝えた。

ゲルマニアに駐屯するローマ軍を、首都まで攻め込むように、長男ネロとアシニウスに指示をしたと。だが、リウィア様は自分の孫娘を抱くように、微笑んで母を安心させていた。指示された二人は酔いつぶれて、ゲルマニアにすら行ってなかった事を。


「え?」

「ですから、貴女の告白した事実など、現実に起きてないことなのよ、ウィプサニア。"優秀"な長男と知人の"機転"で、国家反逆罪の一歩手前で踏みとどまれたのだから」

「とっても"優秀"な二人の、優れた"機転"のおかげ?」

「そうよ」


二人はまるで華を咲かせるように笑っていた。母の棘は全て切り落とされ、大母后リウィア様の緊張も朗らかなものと変わっていく。今までの鬱積した重苦しい空気が嘘のように、二人の間に虹の架け橋が掛かったのだ。母が無謀に計画したローマ奪還は、大母后リウィア様の元で事実無根にされ、幸運にも、ローマを離れてカプリ島にいるティベリウス皇帝やセイヤヌスの耳には伝わらなかった。後日、母は再び大母后リウィア様の元を訪れる。迷いも憎しみもない、青空の下を颯爽と歩く母の姿があった。


「ウィプサニア、私達皇族は、家族であるローマを護らなければいけません」

「はい、大母后リウィア様」

「そのためには、私達は引き続き対立している事にしましょう。真の敵を油断させるためにも」

「分かりました、それは構いのですが、大母后リウィア様が仰る真の敵とは、一体何の事ですか?」

「今ははっきりとした事を貴女に伝える事はできないけれど、それでも勘違いしないで頂戴。ちゃんとした事実と証拠が必要なの」

「はい。ですが、その真の敵が気になります」

「あまり憶測では多くを語りたくはないのですが……。ピソの突然の自殺も、我が孫ドルスッスの突然死も、あるキメラという隠れ蓑を持った、団体による仕業のようなの」

「キメラ……」

「そう、エトルリアの地下悪魔を神と崇める集団、密教トゥクルカの手によって」


続く


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