第十六章「婚前の夜明け」第二百九十五話
親愛なるウィプサニアへ
子供達は元気?私の毎日はトゥリメルス島から周りの諸島を眺め、自分が何故あんな事をしてしまったのか?今でも後悔をしているの。母を心から愛した私を、そして大母后リウィア様から救われた私を、心から許して……。
ユリヤ母さんは、ご自分の母親であるスクリボニアお祖母様へ、サヨナラも告げずに一方的に離縁状を叩きつけた、オクタウィアヌスお爺様を憎んでた。だから母さんが流刑されると決まった時、私達姉妹にあの約束をしたでしょう?
"ユリナ、ウィプサニア"
"はい、お母様"
"あんた達が不幸になったのはね、あの悪女リウィアのせいなの"
"え?"
"お母様?!"
"父は今でも許さない。だから、これから、毎日あの島から呪い殺してやる。まるでクロアカへゴミを投げ捨てるように、私の愛するスクリボニア母さんと別れたのだから。いい、あんた達のお祖父ちゃんは、馬鹿な女に騙されたの"
"母さん"
"……"
"あの女がいなければ、スクリボニア母さんだって、ずっと幸せのままだった!リウィアはあんた達だけでなく、あんたの子供達も、孫達も、きっとスクリボニア母さんを苛めたように、苦しめ続けるのよ!!だから、リウィアを殺して!あんた達の手で殺して頂戴!"
私はユリヤ母さんの言葉を信じた。いや、信じたかったの。あんたは幼い頃から大母后リウィア様が大好きだったし、それにあんたの夫ゲルマニクスは、大母后リウィア様の孫。可愛いあんただけは、巻き込みたくなかった。だから私一人だけで母さんの無念を晴らそうと、男どもを利用して、憎きリウィアに一矢を報いろうとした。でも私もまた、ユリヤ母さんと同じく、姦通罪と国家反逆罪の疑いで流刑にされた。あれは、今から二十年前。貴女がゲルマニクスとの間に、二人目の男の子ドルススちゃんを産んだ次の年だったわね?
"ウィプサニア、ごめんなさい。こんなことになって……"
"姉さん!!こんな事って、信じられますか!!?どうして言ってくれなかったの?!"
"無念ね、本当に悔しいわ。後もう少しで、母さんの復讐を果たせた筈なのに"
"ユリナ姉さぁあん!!!"
"泣くんじゃないの、ウィプサニア!私まで寂しくなるじゃない……"
"ううう、あたし……。いつか、姉さんを助けるわ"
"ウィプサニア?!"
"その為だった、心を冥界の神へ捧げてもいい!"
"バカ!あんたにはゲルマニクスがいるじゃない!"
"うううう"
母さんは自分の父親と大母后リウィア様を殺そうとし、私は大母后リウィア様を殺そうとした。でも知ってた?私と母さんは、本当は国家反逆罪で死刑にされてもおかしくなかったのよ。なのに国家反逆罪は問われず、姦通罪だけって不思議じゃない?でも復讐心に満ち溢れてた当時の私には、そんな事すら分からなかったの。そんな時、母から植え付けられた、私達の憎むべき対象大母后リウィア様が、私が流刑にされてるトゥリメルス島へやってきたのよ。
"ユリナ……"
"リ、リウィア!何故あんたがわざわざここへ?!"
続く