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紺青のユリ  作者: Josh Surface
第十六章「婚前の夜明け」乙女編 西暦27年~28年 12~13歳
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第十六章「婚前の夜明け」第二百九十二話

私達がウェスタの巫女の館で、母ウィプサニアの心の闇に迫ろうとしてた頃、アシニウス様と長男のネロお兄様は、母の企てた無謀なローマ奪還計画に頭を抱えていた。


「アシニウス様、それは本当ですか?!」

「ああ。君の母君は、今こそゲルマニアにあるローマ軍団を、ティベリウス皇帝が不在するこのローマへ向かわせるようにとの事だ」

「そんなの無茶苦茶だ!そんな事をすれば、国家反逆罪で吊るし上げですよ!」

「ここに彼女がサインした書簡もある」


ネロお兄様のドムスのアトリウムで、アシニウスは母から持たされたパピルスの書簡を渡す。スルスルとめくるネロお兄様は、その筆跡とゲルマニアに駐屯するローマ軍団への無謀な命令に驚愕した。


「確かにこれはお母様の筆跡です。一体何の根拠があって?」

「ウィプサニア殿の姉、ユリナさんが亡くなられ、その遺言には、大母后リウィア様が、実の息子をに帝位させる為の陰謀となる証拠が書かれてるそうだ」


だが、ネロお兄様はいたって冷静。

感情的な起伏の激しい母に、今まで振り回されていたお兄様は疑った。


「それって本当なのですか?」

「ウィプサニア本人は間違いないと言ってるし、自分の姉の死も、全て大母后の仕業と考えている」

「アシニウス様は、どのようにお考えなのですか?」

「私も、君と同じように無謀だと思っている」


アシニウスの応答に、ある程度の安堵感を持つネロお兄様。だが、懸念材料は更に続いていた。


「しかし、こんなことが弟のドルススの耳に入れば、すぐにセイヤヌスの配下達が我々を取り囲みます」

「幸運にも、ドルスス君はそばにいなかったがな」

「良かった……。彼奴がいたら、もっとややこしい事になりかねない」


しかし、この二人は、母の言うこと聞くべきか否か、断崖絶壁という瀬戸際に立たされている事は間違いなかった。もし、母の主張を鵜呑みにしてローマ軍団を動かせば、再びローマ内戦の時期が訪れる。もちろん確実にローマの帝位奪還をできる保証はない。だが、もし、母の主張に反旗を翻し、仮に遺言に証拠となる文面が無ければ、母は国家反逆罪として確実に処刑されることになる。


「アシニウス様。指導的市民な元老院議員として、この場合は如何に対処すべきか、ご教示願えませんか?」

「……。ネロくん、それは私が語ることではないと思う。これは牛魔皇帝率いるクラウディウス氏族と、君が筆頭となっているユリウス氏族という、二つの家柄同士の争い。時として、どんな苦境に立たされも、指導者としての器量で決断をしなければならない」

「指導者としての器量……」

「それにアシニウス氏族の私が、口出すことでは無いだろう」


二人の間に重苦しい空気が流れると、ネロお兄様の妻である高慢ちきのリヴィアが、お二人に葡萄酒を持ってきた。あのセイヤヌスに唆され、ご自分の夫ドルスッス叔父様を毒殺したリウィッラ叔母様の長女。


「ピッツィノ葡萄酒は、いかがですか?」

「とりあえず、飲みますか?アシニウス様」

「そうだな、ネロくん。それから考えても遅くはないだろう」

「どうしたの?お二方」


その後二人は、自分達の苦境を忘れ、明け方まで浴びるようにピッツィノ葡萄酒を飲んでいた。お陰で、ネロお兄様に託された母の書簡は、運悪く高慢ちきリヴィアの手に渡ってしまった。


「な、何これ?!」


続く


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