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紺青のユリ  作者: Josh Surface
第十六章「婚前の夜明け」乙女編 西暦27年~28年 12~13歳
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第十六章「婚前の夜明け」第二百九十話

「あら、ウィプサニア?」

「オキア様……」


びっくりした。

私達家族がウェスタの巫女の館へ向かった時、あの57年間にわたってウェスタを統括してきた神官長オキア様が、偶然ギリシア紀行からお帰りになられていたのだ。


「オキア様!!お久しぶりです!アグリッピナです!」

「えええぇ?!あのアグリッピナちゃん!?」


すっかり神官長を務めたしてた時よりも、髪の毛は優雅に伸びてて、サラサラしていてとっても綺麗。お肌もエーゲ海の日光を浴びたようで、健康的に仄かな日焼けもされている。今までの紀行が充実されていたのであろうか、何よりも笑皺の一つ一つが、実に雄弁に幸福感を物語っていた。


「もう、びっくりねぇ!」

「オキア様はいつお戻りになられたんですか?」

「ついさっきよ。やっぱりローマに帰ってきたら、この娘達が心配になってしまって」


オキア様の後ろには、心から慕うウェスタの巫女達が涙ぐみながらローマへの帰還を喜んでいた。オキア様は彼女達をなだめながら、突然あたしの両頬に手を添えて、マジマジとあたしの顔を眺めだした。


「さすがゲルマニクスとウィプサニアの長女ね。幼い頃のやんちゃな面影はあるのに、とっても美人になって」

「オ、オキア様」

「アグリッピナ、覚えてる?あなたがリウィアの所に預けられてた時は、こーんなに小さかったのに。今じゃ立ったままだなんて。今は幾つになったのかしら?」

「はい、今年で十三歳を迎えました」

「あらー!そうしたら、そろそろ結婚の時期ね?」

「あ、ええ。はい」


その話は気まずい。

あたしは母の横顔を見ながら、様子を伺ったが、どうやら母はその事には触れたくないのか、冷徹で無表情を着飾っている。


「それにしても。ウィプサニアは子供達を引き連れて、このウェスタの巫女の館に何のようなの?」

「実はオキア様。私の姉であるユリナが、一昨日トゥリメルス島で亡くなったのです」


すると、今まで陽気な笑顔を浮かべていたオキア様は、既に引退されているのにも関わらず神官長の顔つきに戻られた。


「遺言ね」

「はい。家族で唯一の生き残りである私だけが、その公開と開示を許されております。遺言を奪われない為にも、いち早くこうしてきました」

「安心なさい、ここはウェスタの巫女達がいる場所よ。如何なる政治にも干渉されず、また干渉する事はありません。如何なる者であろうとも、神聖な領域が穢されることはないわ」

「そうでしょうか?」


オキア様に向ける母の冷淡な表情は、眉一つ動かさず憎むべき者への理不尽さを暴露する。


「ウィプサニア……」

「たった一人だけ、アントニウス様の遺言を政治の局面に利用する為に、持ち出した人物が過去にいたではありませんか」


初耳だった。

ウェスタは火床の女神。その神殿に灯されている火は、処女を義務付けられた巫女たちによって護られている。ローマ建国の父であるロムルス様の母親もウェスタの巫女。ローマに住む者であれば、何人たりともこれを侵す事は許されない事は誰でも承知の事実。


「我が祖父アウグストゥスの妻、リウィアだけが!」


続く


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