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紺青のユリ  作者: Josh Surface
第十六章「婚前の夜明け」乙女編 西暦27年~28年 12~13歳
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第十六章「婚前の夜明け」第二百八十八話

人生とは、なんて皮肉なのでしょう?


感情的になって母ウィプサニアを、父ゲルマニクス殺しと言った私。けれど自分が母親になれば、今度は自分の息子や義理の娘や息子から、父殺しと呼ばれるのだから。本当に子は親知らず、親は子知らず。


さて、母親に父殺しと叫んでしまったあたしが、なぜこの後お咎めもなく、今まで生きてこれたのか?その事をしっかりと書き残そうと思う。


「アグリッピナ、お前バカだろう?」

「バカって、いきなりそんな事言わないで、ガイウス兄さん」

「いいや、お前本当にバカだ。頭悪すぎ。何でお母様がお父様を殺すんだよ?」

「だって、こんなにあたしの人生をめちゃくちゃにしてさ!」

「お前の人生なんて、たかが十三年じゃないか。それで頭きて自分の母親に対して父殺しって言うか?普通」


アトリウムのベンチで座っている私に対し、兄カリグラは呆れた様子であたしと話してくれている。当然怒りを抑えきれない母ウィプサニアは、自分の寝室で物に当たっている。


「だって、お父様が大切にされていた奴隷への優しさも、全部捨ててしまっていたんですよ!これじゃお母様がお父様を殺したのも当然だなって思っちゃって、つい何となく」

「つい何となくじゃねぇーよ!バカ!」

「バカ、バカ言わないでよ。本当にバカになったらどうするの?!」

「むしろそうなって欲しいから言ってるんだ。お前、これからお母様に、ユリウス家の名誉を穢した罪を償う為、自決しろって言われても従うしかないぞ」


また花瓶の割れる音が聞こえた。

今夜のお母様は、怒りを抑える事など毛頭ない様子。自分が兄カリグラに落ち着かせてもらっていると、段々自分の言った事に後悔してきた。


「なんだ?お前顔が青ざめちゃって」

「はははは、やっぱり、あたしってまずいこと言ったかな?」

「当たり前だろ!」

「ど、どうしよう?」

「今更後悔しても遅いだろうな。例えば祖母のアントニア様に泣きついても、親を敬わない子供には厳しく対処する。リウィッラ叔母様とアントニア様の喧嘩、何度も見てきただろう?」


確かに。

まして大母后リウィア様なんかには、絶対に知られてはいけない。はぁ、こういう時だけは、兄カリグラの恐ろしいほど冷静な判断が、しっかりと当たってる気がする。


「ガイウス兄さん、なんとか助かる道は無いかな?」

「うーん」


暫く兄カリグラは両腕を胸で組んで、目を閉じて考え込んでしまった。そして何かを閃いた様子で目を開ける。


「安心しろ、アグリッピナ。お前の最後は俺が見届けてやる」

「へ?」

「お前の両手両足首から、ドバドバ流れる血をいっぱい眺めながらな!あはははは!」

「ガイウス兄さんって最低!!それでも可愛い妹を救おうって気は無いわけ?!」


すると兄は、あたしの両頬をギュッと握り潰し、アヒルのような口にさせてきた。


「はぁ?どの口が可愛い妹なんて言ってるんだ?」

「いたたたた!」

「お前は昔から生意気で負けず嫌いで、人のおねしょを馬鹿にしてたよな?ドルシッラみたいに従順で可愛ければ、いっくらでも助けてやるよ」

「いたい!」

「自業自得で不埒至極の女を、一体誰が助けてやるもんか!」

「もうヤメテ!」


兄カリグラのからかいに耐えきれないあたしは、両頬を掴む右手を無理矢理振り払う。すると、その反動で仰け反ってしまい、あたしは雨水を貯める水槽インプルウィウムに落ちてしまった。ストラだけでなくトゥニックから下着のゾーナまで、あたしは水浸しでビチョビチョ。なのに兄カリグラは助けるどころか、指を差して腹を抱えて笑い転げてる。


「少し頭でも冷やしてろ!あはははは」


あたしは完全に笑い者にされた。

それもしょうがないけれど、ますますあたしは自分が惨めになって、本当にバカな事を口走ったと、後悔に苛まれていった。


「ウィプサニア殿!!ウィプサニア殿はおれられるか?!」

「え?」


アシニウス様が突然来訪されて来た。汗をかいて、緊急な報告を早く母へ伝えようと焦った様子。インプルウィウムでびしょ濡れなあたしに、ようやく気付いた様子だ。


「おおお!アグリッピナ。そなたのお母様はどこにいるのだ?」

「どうしたのですか?アシニウス様?母なら寝室にいますけど……」

「ああ、寝室か!分かった!」


そのままアシニウス様は母の寝室へと走り去ってしまった。暫くすると、母の寝室からは物音は聞こえなくなり、ひんやりと静まり返った後に、母のすすり泣く声が聞こえてきた。そう、アシニウス様が慌てて携えてきた報告は、母の姉ユリナが、流刑の地で亡くなった知らせだったのである。


続く




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