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紺青のユリ  作者: Josh Surface
第十六章「婚前の夜明け」乙女編 西暦27年~28年 12~13歳
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第十六章「婚前の夜明け」第二百八十四話

「ええ?!グナエウスをアグリッピナの婿に?!それは本気なのですかウィプサニア?」

「はい当然です、アントニアお義母様。うちの長女アグリッピナに相応しい家柄で、並み居る独身者の中で選ぶとすれば、アエノバルブス家の長男グナエウスしかありません」


母ウィプサニアは本気だった。

アエノバルブス家とは、ドミティウス氏族に属する名門であり、その家系は何度も執政官を勤め上げている。祖母のアントニア様のお姉様であるアントニナ様は、アエノバルブス家へ嫁がれた。その旦那様が、あのあたしの大好きだったアクィリアを馬車で引き摺り回した野蛮な男だ。その男の長男と、あたしは結婚させられそうになっているのだ。当然そんな話を母が祖母アントニア様としているなんて、当時のあたしは全く知らなかった。


「お姉様であるアントニナ様と、旦那様のルキウス様がお亡くなりになってもう三年も経っております。グナエウスもアエノバルブス家の長男として、しっかり世継ぎが必要な時期かと」


しかしアントニア様はなかなか首を縦に振らない。それにはグナエウスの性格的な問題と、年齢的な問題が付随していたからだ。


「貴女の言い分は良く分かるわ、ウィプサニア。けれど、幼いアグリッピナがグナエウスの嫁として、ちゃんとやっていけると思いますか?」

「大丈夫です、その為にアグリッピナは幼い頃から大母后リウィア様のところでスパルタ教育を受けてきたのですから」

「それとは別でしょう?いくら月経の女神メーナ様の思召しとはいえ、いくらなんでも早過ぎます。それにグナエウスの今の年齢を知っているの?あの子はうちのゲルマニクスより二歳も上よ。あなた達の結婚とは勝手が違うじゃない」

「この際仕方ありません。せめて自分の長女の幸せだけは守り抜く。それが親の務めです」


しかし、アントニア様は険しい表情でジッと母を見つめている。母は、なぜ自分の顔をそのように見られるのか、不思議な気分であった。


「貴女自身の再婚が認められないからの、当てつけではないのですよね?」

「馬鹿馬鹿しい!そんな事はありません」

「残念ながら貴女は、皇族の保守派の方々から目を付けられているのです。この位の害意や害心を抱いた質問は、当然貴女には向けられるでしょう」

「それならば、お義母様のご長女をご心配された方が宜しいのでは?」

「え?」


亡くなったゲルマニクスお父様の妹が、寡婦であるリウィッラ叔母様。ご自分の旦那様であるドルスッス様を、セイヤヌスの口車に乗せられて、貞淑を破って毒殺してしまった。もちろん、その事が私達に明るみになるには、もっと先の事になるのだけれど。


「アシニウス様の情報では、最近のリウィッラは、セイヤヌスと再婚を望んでいるそうではありませんか」

「ありえません。そんな事は絶対に、私が許しません!」

「とにかく、アグリッピナの事は、お義母様の口から大母后リウィア様へ伝えてください。私はあの女狐から嫌われていますから」


気苦労が絶えなかったのは、祖母アントニア様の宿命だったのかもしれない。大母后リウィア様からも、母ウィプサニアを彼女の政敵から守る為に、敢えて険悪な関係を演じられていた。つまり敵を欺くため、味方からわざと欺いていたのである。


「ウィプサニアが?」

「はい」

「まだ早過ぎるでしょ?アグリッピナは、今はいくつでしたっけ?」

「十三歳です」

「確かに結婚はできる年齢だけど、相手のグナエウスは幾つ?」

「四十四歳です」


アントニア様はそのまま、大母后リウィア様へ母ウィプサニアの提案を告げに行った。


「はぁ……。アグリッピナぐらいの子供が居てもおかしくない年齢だわ。それに、アエノバルブス家といえば、アントニア。あんたの奴隷の幼い女の子を、市中引き回して殺したところでしょう?」

「はい、アクィリアです」

「まだアグリッピナが三歳くらいの時よ。あの子があたしの教室で、涙ぐむ目を堪えながら、殺された奴隷の話をしてくれたの。あたしは今でも覚えているわ。これでは大きく口の開けた虎に、アグリッピナを放り込むようなものじゃない」

「私も、年齢差よりも、一番その事に気が引けているのです。もしアグリッピナが、グナエウスの血に、あのアクィリアを撲殺したルキウスの血が入っていると知ったら」


大母后リウィア様とアントニア様は、お互いに顔を見合わせてため息をついた。


「きっと何があっても、結婚しないと言い張るわよ」

「そうですね」

「自分の父親の死をも受けとめられず、悪夢を見て寝込むほどあの子は頑固よ」

「兄弟同士の喧嘩では、止めようと間に入って自分の命を捨てるほど勝気ですから。どうしましょう?」


再び大母后リウィア様のいつもの癖が出た。人差し指を唇に乗せて、いろんな推敲をしている。


「分かりました。カプリ島にいるティベリウスに会って、ウィプサニアの提案を拒否するように頼んでみましょう」


続く



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