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紺青のユリ  作者: Josh Surface
第十六章「婚前の夜明け」乙女編 西暦27年~28年 12~13歳
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第十六章「婚前の夜明け」第二百八十二話

アトリウムの雨水を貯める、インプルウィウムを血だらけにした私は、リウィッラの金切り声もあってか、みんなから注目されてしまった。


「アグリッピナお姉ちゃんが!股から血を流してる~!」

「股からって、ちょ、ちょっとリウィッラ!」


その声で一番最初に気が付いたのは、たまたま通りかかった兄カリグラ。


「うげ?!アグリッピナ、なんだそりゃ!?」

「知らない。何か突然出てきた」


次妹のドルシッラなんか、あんまりの量にびっくりしながらも、あの子らしく、インプルウィウムの水を変えるように、奴隷に指示を出している。最後に駆けつけたのは母親ウィプサニアで、そのまま寝室へ連れられると、天井を見るように寝かされ、ユダヤ人の老婆を呼んできた。


「これはまた、豪快に初潮を迎えられましたな」

「とっとと、やって頂戴」


すると老婆から、ストラとアンダースカートのカストゥアをまくられる。


「や、ヤダ!やめてよ」

「何言ってるの?みんなちゃんとこうやって調べるんだから」


暫く老婆は血だらけになったあたしの両脚を、水を含んだ布で綺麗に拭き取って、まじまじとあたしを覗き込んでいる。いくら神の思召しの確認とはいえ、あんまりいい気分はしない。


「確かにアグリッピナ様は、女神メーナ様からの思召しにかなっております」

「女神メーナ様?」

「婦人の月経を司る女神メーナ様。つまりアグリッピナ、あんたは一人前の子供を産める女性になったって事よ」


どうやら私は初潮がやってきたみたい。母は初潮をちゃんと説明してくれた。毎月一回やってくるそうで、そのたんびにお腹がゴロゴロ痛くなったり、身体が怠くなったり、イライラするらしい。だから身体と心の安定を保つ為に、経水が流れる一週間前から、必ず女神メーナにお祈りを捧げるように言われた。


「秘部には麻の布を当て、その上から羊の皮でつくった月経帯を当てれば、麻の布を押さえるので大丈夫でしょう」

「お母様、何だかちっちゃいおしめみたい」

「血だらけになって、漏れてもいいわけ?」

「やだ、格好悪い」

「だったら我慢なさい」


ちっちゃいおしめは、意外にカスチュラにすっぽり隠れてしまった。歩いても、付け根の部分が擦れることも無い。しかし、寝室の外から覗き込んでいる兄カリグラは、あたしの顔と股の部分を何度も交互に見ながら、変な顔をし始めた。


「女って毎月血を流したり、腹の肉から子供産んだり、気持ち悪い生き物だな~」

「その気持ち悪い生き物から、ガイウス兄さんは生まれたんでしょ?」

「誰が気持ち悪い生き物だって?ガイウス!アグリッピナ!」


あちゃー。

お母様は地獄耳だった。もちろん、その後の数日間は、ひっさびさに兄カリグラから"おしめ女"とバカにされていた。全く男って。どうして子供っぽいんだろう?こんな時、男に生まれてれば良かったって思う。


「やっとアグリッピナにも、メーナ様の思召しにかなったのだから、あんたにもそろそろそれ相応の人を見つけないとね」

「へ?お母様、それ相応の人って?」

「そりゃ、あたしも初めての時はびっくりしたわ。随分昔の話だけど」

「いや、お母様。その」

「とにかく、きっちりする事よ。周りの見る目が変わってくるのだから」

「ですから、それ相応って?」

「ふぅ。お金掛かるわね」


お母様は私の質問なんて聞いてない。

当時のあたしは、初潮を迎えた後に、皇族の女性が辿る道なりなんて、全く予想がつかなかった。


「お母様!」

「月経になったからって、もうイライラしているわけ?」

「違います!お母様にお伺いしたい事があるのに、さっきから全然聞いてくださらないからです!」

「何よ?これから忙しくなるんだから。聞きたい事あるなら、ちゃっちゃっと聞いて頂戴」

「それ相応の人を見つけるって、どういう事なんです?」

「はぁ?決まってるじゃない。あんたの夫になる人よ」

「えええええ?!」


うっそーーーー?!

あたし結婚しないといけないわけ?!

嘘でしょう……。


続く

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