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紺青のユリ  作者: Josh Surface
第十六章「婚前の夜明け」乙女編 西暦27年~28年 12~13歳
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第十六章「婚前の夜明け」第二百八十一話

さて、大人達の喧騒が続く頃、あたし達ガキンチョ三姉妹はどうだったかというと……。


「お姉ちゃん!!!」


とにかく生意気盛りな末妹リウィッラに、色々と振り回されていたのだ。あたしは結構楽しんでたけど、リウィッラは次妹ドルシッラとしょっちゅう喧嘩してた。お香のあげ方から、食事の仕方まで。まぁ、とにかくリウィッラはよく喋っては、いちいちドルシッラに楯突いてたっけ。


「だいたい、ドルシッラお姉ちゃんはババアくさいの!なんでもかんでも、"これは決まりだから"とか、言っちゃってさ」

「リウィッラ!あんた、ババアくさいって何よ!自分の姉に向かってなんて口の利き方してるの!」

「たかが二歳離れてるだけじゃない!自分はウェスタの巫女然としてるけど、結構ドルシッラお姉ちゃんの性格悪いの知ってた?」

「あ、あたしのどこが性格悪いのよ!」

「だって、あたしにはそのオカズ少なくよそってるじゃない」


忘れてた。

リウィッラの食い意地はユリウス家随一。ちょっとでも自分の分が少ないと、ギャーギャー吠え出すのだ。


「ふぅー。リウィッラ、私はあんたの事を考えて、よそっているの。だいたいあんたは欲張りなくせに、いっつも残すじゃないのさ!」

「な、何よ!お腹いっぱいになっちゃう時だってあるじゃない」

「せっかくよそっても残したら、もったいないじゃない」

「そんなら、奴隷に食べさせた方が、もっと効率がいいでしょ?いいから私にそのおかずよそって!」


もくもく最初は食うのだが、リウィッラの飽きは早い。気が付くと面倒になって残して、絞殺現場を残したまま、すでに自分の好きな事に没頭している。


「んもう!だからリウィッラはよそい過ぎると、いつもこうなんだから」

「ドルシッラ、いちいちカリカリしても無駄よ。あの子が言うこと聞くわけないじゃない」

「アグリッピナお姉さん」

「とにかく片付けておきなさい」


私は食間のトリクリニウムから歩いて、アトリウムにある雨水を貯めるインプルウィウムへ向かった。


「アグリッピナお姉ちゃん?」

「リウィッラ、少しくらいは、自分の食べカスくらいは処理しなさいよ。あんたが食べるって言ったんだからね」

「あたし食べれるって一言も言ってないよ」


確かにそう。

こいつのあざとい所は、いざという時に、自分の不利になるような事は一切言ってない。ある意味ストア派の哲学者並みの屁理屈をかましてくる。ムキになったものの方が負けなのだ。


「アグリッピナお姉ちゃんは、何で怒らないの?」

「怒る?あっははは!あたしがあんたくらいの時は、もっと我がままだったかな?」

「嘘、お姉ちゃんはワガママになったことないよ」

「ったく、生意気な妹が」


でも、あたしはこいつが可愛いかった。人一倍甘えたいのをぐっと堪えながら、我慢しているのが分かってたから。何も言わず抱き寄せて、ゆっくり頭を撫でることぐらいが、こいつにできること。


「あたし、別にドルシッラお姉ちゃんの事、嫌いじゃないよ。ただ、ムカつくだけ」

「大丈夫、あたしもムカついてるから」

「また、嘘。アグリッピナお姉ちゃんって、意外に人に気を遣うの得意だから」


こいつって、ガキのくせに生意気な事言ってるけど、間違った事は当てずっぽうで言わない。


「でも、お前のこと、あたしは好きだからだよ」

「それは本当だね」

「いちいちお前は解説があり過ぎるんだよ」

「いいじゃん、あたしもアグリッピナお姉ちゃん大好きだからさ」

「はいよ」


そうやって、いつものようにあたしがリウィッラを抱き寄せると、ある程度まではこいつもゆっくりあたしに抱かれたままでいる。暫くしていると、リウィッラが血相を変えて、あたしに何かを訴えてきた。


「お姉ちゃん!アグリッピナお姉ちゃん!大変だよ!血がインプルウィウムにいっぱい流れてるよ」

「は?」


気が付くと、あたしの両足の間から、ダラダラと血が流れていた。結構物凄い量の血が流れている。あたしはどっか怪我したのかと、ストラを捲って色々眺めたが、外傷はどこにもない。


「アグリッピナお姉ちゃん、どうしたの?!これ、ヤバイよ!」


そう、この時初めて、あたしは月経を体験したのである。


続く






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