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紺青のユリ  作者: Josh Surface
第十五章「狂奔の調べ」乙女編 西暦27年 12歳
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第十五章「狂奔の調べ」第二百七十六話

「違うのドルスス!彼は同じ信者で!」

「何が同じ信者だ?!ふざけるな!この俺を何度侮辱すれば気が済むんだ!サルビア!?」


祈りの時間と偽ったサルビアは、次兄ドルススお兄様を見誤っていた。


「お願いです、ドルスス様!サルビアの首から、その手をお放しください!」

「キサマ!この皇族の俺に、平民が何様のつもりだ!?」


自分より下の階級であるマルキスなどは、決してどんな事があっても許さない。今度はマルキスの首を締めようとすると、サルビアはありったけの声で叫んだ。


「やめて!!!私とマルキスは誓い合った仲なのです!」

「な、なんだと!?サルビア!どういう事だ?!俺との約束は?!」

「もう嫌なんです!自分に偽り続けることが!私の責務は十分に果たしました!立派に責務を果たせば、自分の望む道へ行けと、キメラ様も仰いました!」

「ダメだ、サルビア!」


ドルススお兄様は、聞き漏らさなかった。サルビアの感情が走らせた言葉を。慌ててサルビアの口を抑えたマルキスであったが、既に遅かった。


「今、"キメラ"と言ったのか?」

「い、いえ、ドルスス様。あはははは、サルビアは何かわけのわからない事を、いや聞き間違いでございましょう」

「いや、確かにキメラと言った」


ドルススお兄様は長男ネロお兄様との喧嘩を思い出す。殺意に満ち溢れた中、自分の屈辱感を必死に受け止めようと無抵抗なネロお兄様が、一枚の黒硬貨を手渡す時に、一つの言葉を発した言葉を。


"キ、キメラにだけは、近づくな"


「そういえば、ここの店は"キメラ"だったよな?」

「!?」


ドルススお兄様が懐から取りだしたのは、あのキメラと文字が彫られている、二枚の黒い硬貨だった。


「サルビア、これはお前が落としたこの黒い硬貨だ。ここには"キメラ"の文字が彫ってある。こっちは兄ネロが俺に渡した黒い硬貨。こっちにも"キメラ"と彫られている」

「……」

「お前はこの黒い硬貨は単なるお守りのようなものだと言ってたが、お前の言う"キメラ様"と、何か関係があるのか?」

「い、いええドルスス様!そんな事は、一切関係ありません!」

「貴様は黙ってろ!俺はサルビアに聞いているんだ!!」

「はい……」

「そのキメラ様ってやつに、そこのマルキスとの仲を許してもらったんじゃないのか?!」


サルビアはドルススお兄様が答えを聞いた後、自分を殺そうとしているのが分かった。サルビアの顎と頬を、まるで生贄の豚の顔を潰すように、ドルススお兄様は片手だけで痛めつけているからだ。


「どうなんだ?」

「い、痛い!ドルスス!」


サルビアの呼吸が止まりそうな時、そこへドルススお兄様を止めようと、一人の影が迫ってくる。


「何をやっているんだ?!ドルススくん?!」

「セ、セイヤヌス様!?」


後少し遅れていたら、サルビアは明らかに冥界の神々に命を奪われていた。間一髪、駆け付けたセイヤヌスがサルビアを救ったのである。


「これは一体どういう事だ?」

「フ、それはこっちの台詞ですよ、セイヤヌスさん」

「?!」

「皇族の私を侮辱するかのように、サルビアは他の男と不義を重ね、どうやら"キメラ様"とかいう人物の前で、永遠の愛を誓い合っていたそうですよ」


暴露たのか?!

一瞬の殺意がセイヤヌスに芽生えたが、今はドルススお兄様を殺める時ではない。いつもの慎重さが、己の自制を働かせてくれる。


「それは本当か?サルビア」

「はい、セイヤヌス様......」

「馬鹿な!なんて事を!サルビア、君はここにいる立派なドルススくんと、私のいる前で約束したじゃないか」

「もう嫌なんです。偽りの人生を歩むのは」


サルビアは泣きながら、セイヤヌスの足元に懇願をしている。これ以上、この女の嫌がる事をすれば、密教トゥクルカの存在までもが、ウィプサニア一派に知られてしまう可能性がある。


「ドルススくん、君を侮辱したこの家族への然るべき報いは、私に任せてくれないか?」

「で、でも、セイヤヌス様」

「大丈夫だ。皇族を尊重しない彼らには、しっかりと罪を償ってもらう必要がある。仮にも君が愛した女性だ、君がお望みならばタルペーイアの谷から突き落とすこともできるぞ?」

「そ、そんな!殺生な!きょ、教」

「黙れ!!愚民共!」


マルキスが裏返った声で、危うくセイヤヌスを教祖と呼ぼうとし、何とか叱責をして誤魔化したセイヤヌス。


「お前達の目の前に在らせられるお方は、あの神君カエサルとアントニウス様、初代皇帝アウグストゥス様とアグリッパ様の血脈、そしてさらに現皇帝ティベリウス様と同じ血脈を持つ、大母后リウィア様の血も引いている事を、まさか忘れてはおるまいな!?」


その言葉にサルビアとマルキスは、ドルススお兄様へ畏敬の念を抱かずにはいられず、思わず頭を下げるしかない。そして、これこそが密教トゥクルカを裏切る、セイヤヌスの第一歩でもあった。


続く

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