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紺青のユリ  作者: Josh Surface
第十五章「狂奔の調べ」乙女編 西暦27年 12歳
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第十五章「狂奔の調べ」第二百七十四話

嵐が訪れる前の静けさは、とても不気味な調べを奏でるもの。


元老院議官の不毛な討論と、養子縁組内で起きている家族同士の醜い争い。そして引き締め政策に大きな不満を持つ市民達。この年、ティベリウスは世界の首都であるローマを離れ、ナポリ湾に浮かぶカプリ島の別荘で、隠遁生活を始めてしまった。


「ネロ、今こそ!ティベリウスに一矢を報いるチャンスです!」

「お、お母様!!」

「あの牛魔皇帝は、私達に脅えてカプリ島に引っ込んでしまったのです!今こそのこのローマを統治するに値する人間は、ユリウス家で英雄ゲルマニクスの長男ネロ・カエサルの他にいません!」


母ウィプサニアの考えは当たっていた。始めは誰もが、休暇でカプリ島へ行ったのだ考えていだが、一ヶ月二ヶ月経っても、ローマには皇帝が不在のまま。ようやく三ヶ月経ってから、ティベリウスが確信犯であった事があからさまになる。誰もが、"あのロードス島へ逃げたティベリウスの事だ、今度はカプリ島へ逃げやがった"と噂するようになっていったからだ。


「ウィプサニア、それはあまりにも無謀な考え方で、国家反逆罪を適用されるのがオチだ」

「何を言っているのですか!?アシニウス。ごらんなさい!ゲルマニクスの部下達はティベリウスの傲慢さには飽き飽きしております!」


カプリ島は、もともと初代皇帝アウグストゥス様が気に入り、別荘地として島全体と対岸の土地を購入された場所。結局、曾祖父のアウグストゥス様は一度も利用することはなかったが、引き継いだティベリウスが十二の別荘を建築して、隠棲しながら全て合理的な仕組みで皇帝の政務を、行おうということなのだ。


「今こそゲルマニクスの部下や兵士達を率いて宮殿へ奇襲し、元老院を脅すのです!」

「全く、どうしてそんな無茶を考え付くんだ!?」

「無茶なものですか!これはローマ全域に住む人々の民意なのです!」

「いいかウィプサニア、奇襲の成功とは資源の確保が重要なのだ。それだけではない、既存の統治機構から権力を奪取して臨時政府を樹立しなければならない。それには我々の一派に派あまりにも数で元老院議員の貴族達が少なすぎる!」

「では、アシニウス!貴方はティベリウスの好きにやらせておいて良いんですか!?」

「そうは言っていない!」

「いいですか、今は神君カエサル様やアウグストゥス様の時代にあった有事では無いのですよ!平時なのですよ!それなのに、世界の首都にローマ国家のトップたるリーダーがいないという事は、これは属州からも敵国からも笑われても当然であり、今までの歴史から見ても前代未聞です!」

「お母様.....」


自分の傲慢さを止められない母ウィプサニアに対し、アシニウスとネロは、夜空を眺めながらティベリス河の向こう側に見える、パラティヌス丘に見えるティベリウスの宮殿を眺めていた。


「確かにウィプサニアが言うように、もうあの宮殿には皇帝いないんだよな」

「はい。それでも機能しているローマ国家が、僕には不気味に見えてなりません。皇帝不在のローマで、何故国家の運営が滞りなくされているのでしょうか?」

「確かにだ。それに先日のカンパニアへ同行したセイヤヌスが、落盤事故が起きた時にティベリウスを身を挺して救ったそうじゃないか。それなのにだ、我々一派へ仕掛けてこないのは何故だ?静かすぎる」

「何もかもが、まるで母にこう思わせる為の罠のようでしょうか?」

「少なくとも、私はそう考えている」

「ですが、今の母の感情を考えると……」

「お互いに辛い立場だな?」

「はい」


いつの時代でも、開き直った母親ほど強いものはいない。ネロお兄様とアシニウス様は、母の傀儡になるしかなかったのである。


続く

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