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紺青のユリ  作者: Josh Surface
第四章「大母后と祖母」少女編 西暦18年 3歳
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第四章「大母后と祖母」第二十七話

お母様達がゲルマニクスお父様の元へ旅立ってから一週間。私は毎朝から大母后リウィア様のスパルタ教室で教育を受けている。


「はい!顔を付けて。」


水中の中で私はしっかりと眼を閉じて息を我慢した。だんだん苦しくなっていく。ついには我慢ができず、顔を上げて息をすると怒られる。


「アグリッピナちゃん。まだ全然ダメよ。もう一回!」

「ハァハァ、大母后様!水の中で息ができなくて、ハァハァ、とっても辛いです。」

「当たり前でしょ?水の中なんだから。」

「眼を閉じていると怖いし。」

「しょうがないわね~。」


ストラをスルスルっと脱ぎ捨て、トゥニカも裾からゆっくりめくり上げて脱いだ。現れたのは、70代とは思えない、若々しく女性らしい大母后様の肉体だった。


「綺麗…。」

「フフフ…。当然です。貴族達は年を取ると美食家とは名ばかりの暴飲暴食家になるけど、私は違うわ。アグリッピナちゃん、イデアの話って知ってる?」

「イデア?ですか。」

「そう。ギリシャのプラトン先生が提唱されたの。」


美しい身体に片手ですくった水を浴びながら、私にイデア論を語ってくださる。


「元々、私達の魂は、かつて天上の世界にいてイデアだけを見て暮らしていたそうよ。でも、その穢れのために地上の世界に追放され、肉体であるソーマという名の牢獄セーマに押し込められてしまった。」


右足をゆっくりと水の中にいれて、その温度を確かめてる。


「そして、この地上へ降りる途中、忘却をあらわすレテの河を渡ったため、以前は見ていたイデアをほとんど忘れてしまったの。」


ストンと身体を水の中に沈めさせた大母后様は、さらに手で身体に水を浴びせている。


「でもね、イデアに似た物を見たり、聞いたり、味わったり、感じたりすると、その忘れてしまっていたイデアをおぼろげながらに思い出すそうよ。」

「へ~。」


大母后様は一度水の中へ潜り、そして起き上がった。


「つまり、自分達の意識を外界ではなく魂の内面へと向けることで、かつて見ていたイデアを想起する事が可能になり、物事の真髄を認識することができるって事なのよ。」

「へぇ~。でも、大母后リウィア様。」

「うん?」

「それが水泳や息継ぎと、どう関係あるのですか?」

「とっても関係してるわよ。」


フフフっと微笑みながら、大母后様はゆっくりと私の顔を見ている。


「貴女は水が怖いから眼を閉じているし、息継ぎが怖いから息を止めたままにしている。」


確かに。


「それは自分の意識を外界に向けてるから惑わされてしまってるの。」

「自分の、意識を?」

「ええそうよ。意識を外界に向けるのではなく、アクア様を恐れず眼を開けて、怖がらず水の中でも息をしてご覧なさい。そして今行っている事が、次の何に役立つのか?考えながらやってみるの。そうすれば今の苦しさなんてどうでも良くなるし、イデアを感じる事が出来るはずよ。」

「次の何に役立つのか…。はい!分かりました!」


大母后様の学校では、駆け足の基礎訓練と基本的な泳法を教えてもらっている。アントニア様やリウィッラ叔母様が恐れるよりも厳しくなく、むしろ上達すると褒めてくださるので嬉しかった。お転婆で活発だった私にとってはむしろ苦痛どころか楽しく、さらに帰る頃ときには果物をご褒美としてくれるのだから、意外に一人ぼっちでもすんなり慣れて楽しんでいた。


「大母后リウィア様、本日もありがとうございました。」

「アグリッピナちゃん、今日も頑張ったわね。」


午後までそれらを終えると、私は護衛の二人クッルスとセリウスに付き添われ、アントニア様のご自宅であるドムスへしっかりと帰る。その間にもローマ市民から色んな褒め言葉を貰ったので、気分は全然悪くなかった。


「ユリアちゃん!お帰りなさい!」

「アントニアお姉さん!只今。」

「クッルス、セリウス、ありがとう。お帰りなさい。」

「はい。」


護衛の者をしっかりと追い払い、誰もいなくなる事を見計らうと、アントニアお姉さんは門番のセルテスへ用心深く扉を閉めるよう指示を出して話出す。


「で、今日のお義母さんはどうだった?」

「今日はご一緒に水泳を教えていただき、しかもとっても綺麗でした。ご老体には全然見えません。」

「かぁー!あの人は単に自分の肉体を見せびらかしたいだけなのよ。まぁいいわ。それと他には?」

「あとイデアの話をされました。」

「やっぱり!で、ユリアちゃんは正直イデアの話は分かったの?」

「まぁ、なんとなく。」


アントニア様は上を向いて何かを閃いたようで、奥の部屋から解放奴隷のシッラとリッラへお香を持ってこさせて部屋中に焚き出した。


「イデアに関する事は、私がもっとしっかりと教えましょう。」


続く


【ユリウス家】


<ユリア・アグリッピナ(15年-59年)>

主人公。後の暴君皇帝ネロの母。


<ゲルマニクス(紀元前15年-19年)年の差+30歳年上>

アグリッピナの父


<ウィプサニア(紀元前14年-33年)年の差+29歳年上>

アグリッピナの母 


<長男ネロ(6年-31年)年の差+9歳年上>

アグリッピナから見て、一番上の兄


<次男ドルスス(7年-33年)年の差+8歳年上>

アグリッピナから見て、二番目の兄


<三男ガイウス=カリグラ(12年-41年)年の差+3歳年上>

アグリッピナから見て、三番目の兄


<次女ドルシッラ(16年-38年)年の差-1歳年下>

アグリッピナから見て、一番目の妹


<三女リウィッラ(18年-42年)年の差-3歳年下>

アグリッピナから見て、二番目の妹


【アントニウス家系 父方】


<アントニア(紀元前36年-37年)年の差+51歳年上>

アグリッピナから見て、父方の祖母


<リウィッラ・ユリア(紀元前13年-31年)年の差+28歳年上>

アグリッピナから見て、父方の叔母


<クラウディウス(紀元前10年-54年)年の差+25歳年上>

アグリッピナから見て、父方の叔父


【アントニウス家系の解放奴隷、使用人および奴隷】


<ナルキッスス(1年-54年)年の差+14歳年上>

父方の祖母アントニア及びクラウディウスの解放奴隷


<パッラス(1年-63年)年の差+14歳年上>

父方の祖母アントニア及びクラウディウスの解放奴隷


<フェリックス(12年-62年)年の差+3歳年上>

父方の祖母アントニア及びクラウディウスの解放奴隷


<アクィリア(17年-19年)年の差-2歳年下>

父方の祖母アントニアの解放奴隷


<シッラ(紀元前15年-60年)年の差+30歳年上>

父方の祖母アントニアの解放奴隷


<リッラ(紀元前15年-59年)年の差+30歳年上>

父方の祖母アントニアの解放奴隷


<クッルス(紀元前15年-59年)年の差+30歳年上>

父ゲルマニクスの親友


<セリウス(紀元前15年-60年)年の差+30歳年上>

父ゲルマニクスの親友


<セルテス(紀元前12年-63年)年の差+27歳年上>

父方の祖母アントニアの解放奴隷


<ぺロ(17年-30年)年の差-2歳年下>

父方の祖母アントニアの飼い犬


【クラウディウス氏族】


<リウィア大母后(紀元前58年-29年)年の差+73歳年上>

アグリッピナから見て、父方祖父の母親。初代皇帝アウグストゥスの後妻


<ティベリウス皇帝(紀元前42年-37年)年の差+57歳年上>

アグリッピナから見て、父方祖父の兄弟。初代皇帝アウグストゥスの養子、リウィア大母后の長男


<ドルスッス(紀元前14年-23年)年の差+29歳年上>

アグリッピナから見て、父方祖父の兄弟の息子。二代目皇帝ティベリウスの長男


<リヴィア(5-43年)年の差+10歳年上>

アグリッピナから見て、父ゲルマニクスの妹の娘。ドルスッスの長女


【ティベリウス皇帝 関係】


<セイヤヌス(紀元前20年–31年)年の差+35歳年上>

二代目皇帝ティベリウスの右腕。親衛隊長官


<ピソ(紀元前44年-20年)年の差+59歳年上>

二代目皇帝ティベリウスの親友。シリア属州の総督。


【後のアグリッピナに関わる人物】


<ウェスタ神官長オキア(紀元前68年-29年)年の差+83歳年上>

ウェスタの巫女の長


<セネカ(紀元前1年-65年)年の差+16歳年上>

アグリッピナの盟友


<ブッルス(1年 - 62年)年の差+15歳年上>

アグリッピナの悪友


<アニケトゥス(1年 - 69年)年の差+15歳年上>

後のアグリッピナ刺殺犯

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