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紺青のユリ  作者: Josh Surface
第二章「母」少女編 西暦18年 3歳
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第三章「母」第二十六話

「寂しいか?」

「ちょっぴり。」

「でも、これからアントニアお婆ちゃんとこで、美味しいもん食べれるじゃん。」

「うん…。」


ドルススお兄様は私を元気付けようとしてくれた。でも、寂しさは募るばかりで消えない。


「これな…、ドルシッラのを改良したんだけど。」

「何?」


二本の指で持っているのは、木彫りでできた小ちゃな小指サイズの鳴子だった。クルクル回すとポンポンっと音が鳴って可愛い。


「もし、寂しくなったら、夕方これを太陽の方角に向けて叩くんだ。そしたらその先にお兄ちゃん達がいるから。」

「うん!ありがとう!」


すると、やっぱりドルススお兄様は鼻水が垂れてきた。私も涙をためながら鼻水をすすり、二人で笑っていると、そこへネロお兄様がやって来た。


「ユリア、お兄ちゃんからは新しいサンダルのソレラをあげるよ。」

「本当に?!」

「リウィッラ叔母さまから貰った物には、遠く及ばないだろうけど…。でも、大母后様のスパルタ教室で体操なんかしたらきっと靴紐とか切れるだろうから、靴紐とか使わなくても履けるソレラを作ったよ。」

「うわ!すっごく格好いいです。」

「履いてごらん。」

「うん!」


そのソレラは子供ながらも、柔軟性と創造性に溢れたサンダルだった。


「お兄様?!勝手に靴がしまっていく!」

「だろ?」

「これ、魔法ですか?」

「いや、ピタゴラス様の本を読んで研究したんだ。紐の編み方をうまく変えて、手足も使わずに靴がちゃんと履ける方法を作ってみたんだ。」


つま先からくるぶし全体まで覆いかぶさって、つま先をトントンと地面で蹴ると、ゆっくり紐がしまっていく。


「ネロ兄さん、これ昨日作ってたんだ。」

「ああ。結構時間掛かっちゃって。」


私は二人の兄の気遣いに涙がこぼれそうだった。本当にいつでも妹想いの優しいお兄様達。そこへトコトコとドルシッラが歩いてきた。


「おねーたん、おねーたん。」

「何?」

「おみあげ!おみあげ。」


するとブドウを三粒を掌に乗せてくれた。


「ええ?!これをお姉ちゃんの為に?」

「うん、うん!」

「ありがとう!」


あまりの可愛さにギュッとドルシッラを抱きしてしまった。すると妹のドルシッラはキャッキャと喜んで調子にのったのか?居間に置きっぱなしになってる果物から、器用にブドウを三粒取り、口の中に含んで身を食べてから種を皮に入れて渡してきた。


「はい、おみあげ!おねーたん。」

「あ、ありがとう…。」

「も、もしかして…?」


やっぱり…。

さっきくれたブドウも皮に種しか入ってない。


「ちゃっかり身の中を食べちゃったんだ…。」

「自分の食べた残りカスを、ユリアに渡してるだけって事か…。しかし器用なことするなぁ。」

「う、うん…。」

「ユ、ユリア。きっと意味が分かってないんだよ、ドルシッラは。」

「あ!ドルスス兄さん、ドルシッラブドウ落っことした。」


すると匂いを嗅いだ後、

臭そうなしかめっ面をした後、トボトボやってきて私の掌に異臭を放つブドウを乗せた。


「おみあげ!はい、おねーたん。」

「あ、ありがとう…ドルシッラ。」


ちゃんと汚い泥んこが、べとっとブドウについてる。


「ドルシッラのやつ、案外しっかりしてるのかもよ。」

「え?何で?」

「落っことしたもん、食べないもん。」

「そういえば、ユリアはいっぱい食べてたな~!」

「ええ?!嘘でしょ?」

「よくお母様に怒られてた。ユリア!食べちゃダメ!って。」


ショック…。

妹のドルシッラよりもバカだったなんて。そこへ、アントニア様とお話を終えたお母様がやって来た。


「ネロ、ドルスス、ドルシッラを連れて用意しなさい。」

「はい。」

「は~い!」

「ドルスス、そうやって言葉を伸ばさないの!」

「ヘイ!」


お兄様達はドルシッラを連れてあっという間に行ってしまった。お母様は腰に手をおいて、微笑みながら私の取り残された姿を見ている。何だか私はまた寂しくなってきた。


「ユリア…。」

「お母様…。」


お母様の微笑みはとっても美しく、目尻に溜めた涙は陽の光を浴びて宝石のようだった。


「お父様とピソ様が落ち着いたら、必ず迎えに行くからね…。それまで、ずっと良い子にしてるのですよ。」

「はい…。」

「アントニアお義母様のブドウの木は貴重だから、おてんばして木登りしないでね。」

「はい…。」

「大母后様の言う事は、しっかりと聞くように。」

「はい…。」

「それと…。」


突然お母様は私を抱きしめて、わんわんと泣き出した。私はとっても泣きたかったけど、我慢してお母様の頭を優しく撫でることしかできない。だって私まで泣いちゃうと、お母様と離れたくなくなっちゃうから。


「ユリア、本当にごめんね…。」


これが、優しかった頃のお母様の最後の記憶であり、そして、私にとって最も幸せだった母との最後の記憶。


続く

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