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紺青のユリ  作者: Josh Surface
第十四章「衰勢」乙女編 西暦26年 11歳
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第十四章「衰勢」第二百五十九話

ネロお兄様とドルススお兄様達が決定的な決別を迎えた頃、母ウィプサニアも衰勢に向かっていた。


ドルススお兄様を首都長官にさせたアシニウス様の望み通り、母は初めて父ゲルマニクス以外の男性と関係を結ぶ。その後の一週間は、まるで母は奇行とも思えるような行動ばかり。突然食事中泣き出したと思ったら、姉妹の中で母に一番素直で純情なドルシッラを異常に叱り飛ばし、耐えず口の中を血を吐く思いで磨き続けていた。


「今日もやってきたよ、ウィプサニア」

「ア、アシニウス様?お約束が違います」

「違うだと?まさか僕の恩義を仇で返すわけでないだろうな?」

「いいえ、そのような事は……」

「いいかい?僕は君の心など求めていないんだ。これから交わる時間の中で、君はゲルマニクスを思い出し、僕は私の妻さえ思い出していれば、お互いこれほど幸せなことはなかろう?」

「……」


母ウィプサニアは、本当は普通の女性だったんだと思う。外見の美しさと、血脈による気品さはあったとしても、父ゲルマニクスの前では普通の女性だった。最も愛している男性から愛されている女性の強みは、何もしなくても、無理をしなくても、それだけで自然と輝きを放っている。だが、その男性を失ったとき、普通であることがどれほど苦痛だったのか、自然の輝きを失った寂しさは、どれほどの悲しみを生んだのか。そして、何よりも、好きな男性に二度と抱かれる事がないという虚しさは、自分の気品や血脈よりも、不義を重ねる女性へと陥れてしまうのであった。


「それでは、また。ウィプサニア」

「お待ちしております、アシニウス様」


既にアシニウス様は、私達子供がいる前であっても、憚ることこと無く、公に二人の関係を見せつけている。最初のうちは、母も拒否をしていたが、徐々に日が重なっていくと、氷のように身体を固めたまま、好きにやらせている感じ。


「ガイウス兄さん」

「うん?なんだ?アグリッピナかよ」


彼は珍しく書物を読んでいる。相変わらずギリシャ神話や、トロイ戦記などを調べながらパピルスに書き写しているけれど。長男と次男が対立している今、頼りになるのが兄カリグラしかいないなんて。こんなバカ兄貴とて、今は頼るしかいかない。あたしって、やっぱり女だな。


「お母様のことなんだけど……」

「またお前の小さな親切、大きなお節介かよ?」

「大きなお節介って、そんな言い方ないじゃない。最近のお母様、様子がおかしいでしょう?」

「最近?ケッ!お前は何を見てきたんだ」

「え?」

「あの人は、父さんが亡くなった時から、とっくにおかしくなっていた」

「兄さん……」


分かっていた。

分かっていたけれど、でも、それを認める事が、私はできなかった。だからずっと反抗して、前のような母に戻る事を望んでいた。だが、反抗どころではない。母の行動は異常。


「お前が心配するのも無理はない。毎日ぶつくさ呟かれたり、予想外な叱責をされたんじゃ、俺たちも危うくなってしまう」

「それじゃ、やっぱり何かしないと!」

「これを、パッラスに届けさせてこい」


それは兄カリグラが、さっきまで何かを書いていたパピルス。


「イカれた子供の責任は、親が取らなければな」


なんと大胆不敵にも兄カリグラは、祖母アントニアから大母后リウィア様を経由させて、皇帝ティベリウスを直々に見舞いに来させるように命じていたのであった。


続く


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