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紺青のユリ  作者: Josh Surface
第十三章「兄弟の対立」乙女編 西暦24~25年 9~10歳
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第十三章「兄弟の対立」第二百五十七話

私は違っていた。

お母様とは別の理由で、例えジュリアの父親だろうが、心底セイヤヌスを憎んでいた。でも、あの頃のドルススお兄様は、セイヤヌスのもたらす驚きに心酔し始めていたのだ。


「セ、セイヤヌスさん…」

「実力のある者は、その力が認められた時にこそ、それ相応の褒美が与るものだ。とかく誤解され易い君ならば、特にそうだろう。私は君自身で、君の心の夜に光を照らして欲しいと願っているんだ」

「セイヤヌスさん、ありがとうございます!」


サルビアはしがみつきながら、何度もドルススお兄様へ深く陳謝している。


「ご、ごめんなさいドルスス。私は貴方を、貴方を誤解していたわ。貴方が首都長官に選ばれた時、私は自分の不甲斐なさを呪わずにはいられなかった」

「いいんだよ、サルビア。君さえいてくれれば」

「ごめんなさい、本当にごめんなさい。セイヤヌス様が気付かせてくれなければ、私は一生自分を呪っていたわ」


全くとんでもない猿芝居。

普通に考えれば、サルビアがお兄様に謝っているのではなく、愚かな選択をした自分に謝っていたのが分かるはず。そして、自分の一派へお兄様を取り込もうとするセイヤヌスの策略だとも。なのに、サルビアの愛情に飢えていたお兄様の目には、セイヤヌスが救世主に見えていたのだ。


「私は人の自立心を尊重したい。だから、本当に助けが必要な時には、いつでも呼んでくれ」

「はい!」

「僕は君には何も望みはしない。君は何をすべきなのか?そして何がローマに必要なのか?既に分かっている。教養レベルの高い人間は、自ら考え考察し、自らの責任において行動するものだ。誰かさんとは違うんだろう?」

「ええ、もちろんですよ。兄となんかは志しが違います」

「うむ、正にティベリウス陛下のご意向と同じだ」

「はい!僕もローマのために、そしてティベリウスお義父さんの力になれるよう頑張ります!」

「君の強い意思に添えるよう、私も家族を投げ打ってでも親衛隊を指揮していくつもりだ」


二人は力強く握手を交わす。

だが、その言葉を物陰で聞いていたジュリアは、血の気が引くような蒼ざめたものへと変化していた。


「ジュリア?」

「……嘘つき」

「え?」


ジュリアは口を閉ざしたまま、別邸から表へ飛び出して、今まで私と一緒に摘んでた花達を、突然両手で毟り取りはじめた。


「ちょっと!ジュリア?!どうしたの?!」

「嫌い!嫌い!大っ嫌い!」

「ジュリア?!」

「あんな人は私の父でも何でもない!嘘つきで!面汚しで!卑怯なことばかり!」

「ジュリア!」

「お母様がどれ程苦しんでいるのか!あの人には人の血なんか流れてない!家族や私達は!あの人の重りでしかないの!」

「落ち着いて!ジュリア!お願い!」


私は取り乱したジュリアを何とか抑えて、荒々しい息遣いを落ち着かせてみた。しかし彼女は、今まで見たことの無いような形相で、私に冷たい言葉を吐き捨てる。


「私はあの人に捨てられるんじゃない。私があの人を棄てるの!」


続く





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