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紺青のユリ  作者: Josh Surface
第二章「母」少女編 西暦18年 3歳
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第三章「母」第二十四話

「ええ?リウィア大母后様がユリアちゃんを?!」

「はい…。」

「相変わらずあの年増雌キツネは、一体何を考えてるんだか…。」


アントニアお姉さんはとっても自由奔放なので、言動も結構荒くなる時がある。私達は、居間でリウィッラ叔母さまがお作りになった料理を、美味しくみんなでいただいてる。


「確か、アントニアお義母さんも昔、リウィア大母后様の元で…。」

「ええ、ドルスッス様。ひたすら、色々なお稽古を習わされたの。『強い子供を産める母体の育成』だとか言ってさ~。Agoge、つまりスパルタ教室なんて影で呼んでたわ。」


ネロお兄様はゆっくりと耳を傾けながら、失礼の無いように聞いてる。ところが、ドルスッスお兄様は食べながら聞いてるので、時々こぼしたりしている。


「スパルタ教室…ですか?」

「ええウィプサニア。ギリシャ語で、『スパルタ』は本来は『指導』や『訓練』という意味で使うでしょ?」

「はい…。」

「けれど、別の意味である『押収』『誘拐』で呼んでたの。私達幼い子供を、物や道具のように扱ってたからね。」

「お母さんも幼い頃はスパルタ教室でそうだったの?」

「そうよリウィッラ。あの雌キツネは私達をいびるのが、何よりも楽しかったはずなのよ!『ローマの子供はローマのもの』とでも勘違いしちゃってるじゃないかしら?」


ゾクっと寒気がした。

あの時、大母后様から感じた笑顔の安らぎを、もしそのまま信じてたら…。


「あら、いけない!ドルスッス様の面目で、お祖母様の悪口言っちゃったわね。」


ベロをペロッと出しては、自分で頭にゲンコツを落として、あどけなさで戒めていた。ドルスッス様は大らかな性格で微笑んでた。


「あははは。大丈夫ですよ、お義母さん。」

「他言無用でお願いね?」

「もちろんですよ。」


リウィッラ叔母さまは親身になって、お母様へアドバイスされている。


「ウィプサニア義姉さん…。それなら絶対に、ユリアちゃんを大母后様には預けないほうがいいって…。」

「でも…。」


ドルシッラは…自分の世界に入り込んで、砂いじりと同じ要領で料理と戯れている。たまに私が口元を拭いてあげたりしてる。三女のリウィッラを抱っこしながら、私を見つめるお母様の表情は苦渋の表情だった。ドルスッス様は、再びお母様の心情を察して代わりに状況を説明した。


「お義母さん…。実は、大母后リウィア様は、ウィプサニアちゃんの提案を拒否した父上の、面目を潰さない為の提案がこれだったんです。」

「ええ?!何それ?!って、事はゲルマニクス兄さんに会いに行く為の人質って事じゃない?!」


人質?!

私はますます胸が曇っていき、どんどん怖くなっていく。


「リウィッラ!!ユリアちゃんがいる前で、なんて事を口走るの!」

「あ…。」


リウィッラ叔母さまは、私に気を遣って顔だけで謝ってくれた。私はなんとか笑顔を作ったが、私が大母后様の所に行かなければ、お母様はお父様をご安心させられない…。


「私は国家反逆罪になりたくないから、正直、ティベリウス皇帝の悪口は言いたくないのですが…。」

「大丈夫よ、ウィプサニア。誰も言いませんよ。ねぇ?」


ドルスッス様もリウィッラ叔母さまも、しっかりと頷いた。


「アウグストゥス様がお亡くなりなった年、母はティベリウス皇帝によって年金を停止され、それが原因でこの世を去りました…。どんな事情であれ第二の妻です。それをいとも簡単に、まるで厄介者でも捨てるかのように…。」


お母様は必死に涙を堪えながら、自分の悲劇を語っている。私もお母様の言葉を一つ一つ刻みながら聞いてる。


「だから、私はその頃からティベリウス皇帝の周辺は信用できませんし、ピソ様もセイヤヌス様も、まるっきり信用できません。母が窮地に立たされている時に、何もしなかったリウィア大母后様も信用できません!」


しばらくの沈黙の後、アントニアお姉さんは膝を叩いた。


「ヨシッ!この件は私に任せなさい!あの雌キツネの鼻の穴を開けてやるわ!」


続く

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