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紺青のユリ  作者: Josh Surface
第十三章「兄弟の対立」乙女編 西暦24~25年 9~10歳
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第十三章「兄弟の対立」第二百三十九話

ネロお兄様とドルススお兄様達の喧嘩は、今まで何度か見たことはある。けれどそれはドムスの中だったり、あくまでも家族内での出来事。


「ドルスス、何だと?!お前は妹のアグリッピナにも庇ってもらってるのに、その腐った女みたいな言い草は何だ?!」

「腐った女とはどう意味だよ?!お前こそ腐ってるじゃネェか、ネロ!」

「ネロ、だと?!」


でも今回は様子が違っていた。公でローマ市民が見守る中、それも譲れない主張の平行線ではなく、相手を貶しあって罵倒し始めたのだ。


「ドルススお兄様、やめて!」

「うるせぇ!アグリッピナ。お前だって嫌だったらついてこなけりゃ良かったんだ!それを、何だよ!いい顔して偉そうに!」

「ごめんなさい……」

「いいや、謝るなアグリッピナ!こんな人でなしはトゥスキの連中と付き合ってるから、性格が捻じ曲がっていくんだ!一番悪いのは、妹にさえ迷惑も掛けているのに、ふんぞり返ってるドルススの方だ!」


そんな事を言われたら、ドルススお兄様だって堪らない。せっかく成人を迎えたというのに、常にネロお兄様と比較され、気にするなと言われる方が酷なほど。一方ネロお兄様は成人を迎え、妻もいて、家長であり、地位も名誉も、そしてドルスッス叔父様が亡くなった事により、今じゃ帝位継承者の未来まで約束されている。


「いちいち決めつけんじゃねぇーよ!ウィプサニア母さんがいなけりゃ、何もできない傀儡が!」

「く、傀儡だと?!貴様、それが兄に向って言う言葉か?!」

「こそこそしてると思ったら、人の恋路まで邪魔しやがって!」


私はどうすれば良いのだろう?!何で?誰も周りの大人は止め無いの?!


「誰がこそこそだ?!大体俺はお前達の事を想ってだな、こんな薄汚い連中から守ってあげたんだぞ!」

「『守ってあげた』だぁ?!随分と偉そうな言い方しやがるじゃねぇか!ネロ!」

「き、貴様!自分の兄貴に向かって、何度も呼び捨てしやがって!」

「兄貴なら弟を呼び捨てするのは良いのかよ?随分と偉い立場にいるんだんだな?!」

「ドルスス、覚悟しろよ!」

「ネロ!貴様こそ!」


この目は本気だ。

お父様を睨んだピソのように、私を見かけたセイヤヌスのように、殺意のある眼光をしていている。このままでは二人は殺し合ってしまう!そうだ!サビニ人の女性!


「殺し合うなら、私を先に殺して!」


両手を広げた私は震えていた。

二人の間に割り込んで、突き刺す二人の眼光を遮って、私は懸命に二人を制止した。ローマ人に奪われたサビニ人女性達が、彼女達を奪い返しにやってきたサビニ人とローマ人の間に入って争いをやめさせたように。


「アグリッピナ!」

「お、お前……」


二人の眼光は躊躇し始め、殺意だけはどうにか避けるようになっていった。だが、達観していたハルスペックスの親方だけは、冷たい一言を発する。


「ふん!恵まれた家族の、まるで喜劇だな。」


この時初めて、私は自分の命を粗末に扱った。


続く

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