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紺青のユリ  作者: Josh Surface
第十三章「兄弟の対立」乙女編 西暦24~25年 9~10歳
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第十三章「兄弟の対立」第二百三十七話

「ハルスペックス?」

「ああそうだ、アグリッピナ」

「何ですか?それ」

「お前が好きそうな占い師だよ」


そういえば、あたしも公でお兄様達お二人が、激しく言い争うのを見たことがある。とっても、険悪な雰囲気になってしまって、ネロお兄様の真意が分かってなかった私は、ただひたすらドルススお兄様の味方ばっかりしてたっけ。


「あたしがですか?」

「ああ、ほら、お前哲学者セネカの真似してたじゃんか。」

「べ、別にあの時は、真似をしていたわけじゃなくて…」

「まぁ、とにかくだ。あんな感じで、石の上に足を乗せて占うんだよ。これがよく当たるんだわ」

「へぇー」

「今から行くか?お前に会わせたい人もいるし」

「誰です?」

「そうだな、お前にとってリヴィアさんのようなもんだ」

「ゲッ!高慢ちきですか?!」

「高慢ちきとはなんだ、まだ会ったことないのに。アグリッピナ、お前本当に口悪いな。とにかくだ。その人と会ったら、お兄ちゃんが言う通りに頷くんだぞ」

「どうして?」

「どうしてもだ。お兄ちゃんを助けると思ってだ」

「どうして?どうしてドルスス兄さんを助ける事になるんです?」

「理由は後だ、ガイウスからもお前を何度も救ったろう?頼む」


その時はまさか、エッチなサルビアだとは、もちろん夢にも思わなかった。

しばらくお兄様と歩いていると、街の広場には人集りができている。


「あれだ、あれ」

「とんがり帽子被ってる」

「なぁ?石の上に足乗せてるだろ?」

「うん」

「お前が好きそうな感じじゃん」

「別に、私はただ階段で考え込むセネカの真似をしただけです」


もう、プンプン。

ドルスス兄さんったらいつまでもセネカを役者と勘違いした私をからかって。


「ドルスス?」

「サルビア!」

「ど、どうして貴方がここに?」


サルビアは異様に動揺していた。

だが、ドルスス兄さんはまるで偶然を装うように喜んでる。


「あの、妹のアグリッピナが、君にどうしても会いたいって」

「ええ?!」


ちょっと?!

既に私の頭は無理矢理、お兄様から頷くように強いられてる。まさかドルスス兄さんが、あたしを餌にしてサルビアとの再会を目論んだとは見抜けなかった。


「ドルスス、当分私達は会わない約束だったでしょう?」

「ごめん、そうだったね」

「約束を破る男は嫌い」

「悪かった、サルビア」

「それに、私はこれから帰らないといけないの」

「でも、妹が君に会いたいって」

「それは嘘でしょう?」

「ど、どうして?」

「アグリッピナちゃんだっけ?この子の目を見れば分かるわ」


残念な事に、わたしは何故かサルビアを好きにはなれなかった。高慢ちきとはいえリヴィアの方が、まだ素直に言い合いができる。けどサルビアは、何を考えてるか分からない、気紛れな猫のような性格。


「と、とにかくだ、サルビア。妹のこれからの未来を、そこのハルスペックスに占ってもらえないかな?」

「……」

「せっかく来たんだ、頼むよ」

「お兄様……」


まるで愛を恵んで欲しい仔犬のように、ドルススお兄様は私の手を掴みながら必死に頼んでいる。ローマ男性の誇りに拘りことよりも、女性の愛に飢えているお兄様は可哀想だった。すると見兼ねたハルスペックスの親方が、ニコニコしながら私の腕をガシッと掴んだ。


「よし、任せなさい!」

「お、親方!」

「サルビア、この娘さんは神君カエサル様の血を引く者じゃないか。彼女の未来を占うことは、私にとっても光栄なことだ」

「け、けれど親方!」

「それにサルビア、これは教典のご意向にも沿うとは思えぬか?」

「教典。フフ、そうですね」


まただ。

気紛れな猫が、不敵な笑みを浮かべ、今度は首をスリスリするように寄り添ってきた。嫌な予感と不安が、私の身体中を締め付け始める。けれど、ドルススお兄様は苦笑いしながらも、これ幸いとばかりに、サルビアとの再会に喜んでいる。占い師のあからさまな作り笑いは、目元が笑っていないのが感じられる。嫌だ!こんな人に私の未来なんて占って欲しくない!


「その薄汚い手をどけろ!トゥスキの蛮族め!」


ピシャリと私の腕からハルスペックスの手を弾いたのは、正義感溢れるネロお兄様だった。


続く


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