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紺青のユリ  作者: Josh Surface
第十二章「落命」乙女編 西暦23~24年 8~9歳
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第十二章「落命」第二百三十一話

「はい、アグリッピナさんの番」

「そうそう、その時に、ここの対局線上を辿ると、ここに置けるわけ」

「あ、本当だ!」

「でしょ?これがアルテミス・ゲームの必勝法」

「すごい!本当にすごい!」

「えっへん、どうだ」


ティベリには、駆けっこ以外にアルテミス・ゲームの必勝法も教えてあげた。姉の高慢ちきリヴィアがどんなに私に対抗しても、全くもって勝てなかったやつ。イッヒッヒ~。


「ジュリアさん、アグリッピナ姉さん達は何しているの?」

「アルテミス・ゲームらしいですよ」

「また賭け事?」

「はい、そうですね」

「懲りてないんだから」

「でも、ティベリちゃんは熱心に教えてもらってますよ」

「ジュリアさんも、そんなニコニコして答えないでよう。少しはこっちも手伝って欲しいのに」

「アグリッピナ様は、アグリッピナ様にしか出来ない事をされてるんですよ」

「ハァー。リヴィアさんといい、ジュリアさんといい、どうして姉さんに甘いのかしら?」


ジュリアとドルシッラがドムスの大掃除をしている間、私はずっと付きっきりでティベリと遊んでた。ティベリは一つの事を教えてあげると、吸い寄せられるようにそればっかりに没頭する。


「へぇー、すごいや」

「でしょ?いちいち計算してたら面倒だから全部かけ算にして覚えちゃうの」

「さっすが、アグリッピナさんだね」

「って言うか、これでもあたしは計算するの、すっごく苦手だったんだから」

「ええ?!」

「あ、でもお金にすると簡単に理解できたのよね。何でかしたら?」

「それは誰かさんががめついから?」

「誰かさんって誰よ~?」

「決まってんじゃん、アグリッピナさんだよ」

「こーら!ティベリ!」


またもや私達は庭で駆けっこを始めた。さらには得意な木登りを始めて、勢いあまって屋根の上まで登ってしまった。心地いい風が私とティベリをすり抜けてく。


「ちょっとー、姉さん?!屋根になんか登って危ないじゃない!」

「いーの。たまにはこういうところでノンビリするのが必要だって」


私は両手を枕にして、ブラブラ足を組みながら空を見てると、横でもティベリが同じように真似してる。


「あ、あれって馬みたいな雲」

「ええ?あれは豚だろうに」

「いや、絶対馬だって。アグリッピナさんて美術センスないんじゃない?」

「んだと?お漏らしガキンチョのくせに」

「あ、ずるい!」

「何がずるいだよ。ったく誰があんたの『尻拭い』したと思ってんの?」

「二ヒヒ~」

「二ヒヒ~じゃないっつーの」


しばらく二人で雲を眺めながら、色々な形を想像していると、ようやくティベリは自分の気持ちを話だしてきた。


「僕、ドルスッスお父様が亡くなって、さらに弟のゲルマも死んじゃって、お母様があんな風に塞ぎ込んじゃったから。どうすればいいか、ただ、ぼうっとしちゃってたんだ。どんなに頑張ったって死んじゃうんだったら、無理したって無駄だって感じちゃってさ」

「今はどうなの?」

「わかんない」


そうか、そうだったのか。

でもだからって、気持ちは分かるが、そんなの言い訳にもならない。


「あんたの気持ち分かるよ」

「え?」

「あたしもあんたぐらいの頃、お父様がこの世を去られたじゃない。でも、最近までずっと実感がなかったの」

「最近まで?」

「うん、まだお父様はどこか遠くの国で、懸命に戦ってらっしゃるのでわってね。」

「アグリッピナさん」

「でも、大母后リウィア様に勇気づけられて、大きなあの青空を見ていたら、お父様が仰ってた事を思い出したの。」

「なんて?」

「"空を見てみろ!あの広大さは誰にでも平等にあるのだ。"って」

「へぇー」

「でもね、一つ疑問だったの。曇りの時はどうなのかしら?って」

「あははは、確かに」

「そしたらお父様は大笑いして、"ああ!曇りの時でもみんなに平等に曇りだ!"だって」


ティベリは意図を理解して喜んでいた。そう、誰にだって曇りの時があって、塞ぎ込みたくなる事がある。


「あれは、虎かしら?」

「もう!違うって。あれこそ豚だって。アグリッピナさんって本当に美的感覚ゼロ」

「ウッサイ」


それからティベリとあたしの二人は、ずっと日向ぼっこしながら、青空の下を流れる雲を眺めて遊んでいた。


続く

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