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紺青のユリ  作者: Josh Surface
第十二章「落命」乙女編 西暦23~24年 8~9歳
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第十二章「落命」第二百二十七話

ローマにもう一つの太陽が沈んだ。


優しくて振る舞いも優雅で、陽気でいつも笑顔を見せてくれる。そばにいると、本当に心の中からポカポカしてくる。私にとって、お父様の次に憧れていた男性。そのドルスッス叔父様が病に倒れて亡くなった。私達家族や親戚一同は、その話をアントニア様から聞くことになる。


「嘘。」

「本当よ、ウィプサニア。」


叔父様は亡くなる数年前から、咳が止まらない状態が続いていた。リウィッラ叔母様の侍医であるエウデモスも、恐水病による病死と結果を出した。そして、それを裏付ける様に、叔父様の宦官のリュグドゥスも証言した。これにより、叔父様は病によって亡くなった事が確定された。だが、当時の私達は、何一つ知らなかったのだ。母の政敵でもあるセイヤヌスによって、巧妙に仕組まれた毒殺であったことは。


「そ、そんな。」

「ウ、ウィプサニア?!」

「お母様!」


そのあまりにも残酷な悲報は、母の全身から力を奪い去った。慌ててみんなで駆け寄るが、床に倒れた母がぐったりしている。戸惑う私達を横目で見ながら、ネロ兄さんとドルスス兄さんは、必死に対処して、母を抱えて寝室へと向かっていった。


「お母様。」


母が気を失うのも無理はない。政敵を倒すためには、共闘していた叔父様の存在は欠かせなかったからだ。けれどそれ以上に、二人は幼馴染でもあった。そして、私達兄妹にとっては父親変わりだった。


「お姉ちゃん!!!」

「リウィッラ。」


とうとう末妹は我慢できず、私に抱きついて泣き始めた。その姿を見つめる祖母も、必死に涙を堪えている。次妹のドルシッラとカリグラ兄さんも、ただ無言でジッと何も出来ず床を眺めている。私だって本当は、泣き出したいくらい寂しい。心の何処かで、それが嘘であって欲しいと願ってさえいる。横にいるジュリアも、流れる自分の涙を必死に堪えながら、何度も何度も末妹の頭を撫でてくれていた。本当にジュリアは優しい性格。そんな中、叔父様の病死に異議を唱えた人がいた。


「ドルスッスさんが病死だなんて、信じられない!」


声を荒げたのは、誰よりも冷静沈着と思われたクラウディウス叔父様だった。


「母さん、これは罠だ。陰謀だ!ドルスッスさんは誰かに暗殺されたんだよ!」

「な、何を馬鹿な事を言ってるの!?」

「確かに、ドルスッスさんの体調は悪かった。だからといって、恐水病と結びつけるのは安易な発想だ!」

「で、でも。」

「少なくとも、私と会っていた時は、そんな様子は無かった。それに最近は、大母后様のご愛飲されている葡萄酒を呑まれ、徐々に回復されつつあったんだ。」

「政敵のセイヤヌスが必ず後ろで糸を引いてるに違いないんだ!」


ジュリアはビクついて反応した。リウィッラを撫でていた手も、自然と止まってしまう。なぜならば、彼女の父親はセイヤヌス。クラウディウス叔父様の一言が、彼女に自責の念を持たせるには十分過ぎたのだ。


「場をわきまえなさい!愚か者。」

「え?」

「長女のジュリアもいるのよ!確たる証拠もなく、デタラメな事を言うもんじゃありません!」

「しかし、母さん!」

「あーもう沢山だわ、クラウディウス!ゲルマニクスが亡くなった時もそう!いいえ、その前から、私達家族や親戚は、何人殺されたことにされれば気が済むわけ?!」

「か、母さん。」


暗殺という言葉こそ、ユリウス家には常にまとわりついてくるものだった。


「とにかく、私はリウィッラが心配。あの娘にとっては二度目なのよ。きっと生きていけないわ。」


だが、アントニア様の心配は、空回りでしかなかった。少なくとも、ドルスッス叔父様を毒殺したのは、リウィッラ叔母様ご自身だったのだから。


続く



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