表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
紺青のユリ  作者: Josh Surface
第十一章「追憶」乙女編 西暦23年 8歳
214/300

第十一章「追憶」第二百十四話

CIRCVS MAXIMVS…。


ローマ最大の競技場。

アヴェンティヌス丘とパラティヌス丘の間にあり、王政期ローマの王でエトルリア系のタルクィニウス・プリスクスの命によって建造される。その後、神君カエサルによってさらに拡大され、収容人数十五万人に及ぶ二輪戦車レースの大競技場へと発展していった。後に火事で焼けてしまったが、アウグストゥス様の時代に復旧され、二輪戦車レースはローマにおける娯楽の中心として、正にローマ市民のみならず、誰もが血気盛んに興奮する競技の代名詞となっていった。


「それにしても、何で今は静かなのよ?」

「それは、ティベリウス皇帝陛下の『引き締め』があるからですよ。」


時代は市民に『引き締め』を強要するティベリウス皇帝の治世時代。余興として莫大な資金が消費される戦車レースも、元老院金持ち連中が皇帝の政策に合わせて自粛されているとの事だった。どうにも華やかさに欠けるのは、二輪戦車レースが行なわれていないからなのかも。


「私、生まれてから一回もまだ戦車レース見たことないんだけど…。」

「それはしょうがありませんよ。」

「それじゃ、今なら忍び込めるよね?」

「え?アグリッピナ様?!」

「だ、ダメですよ!アグリッピナ様!」


パッラスの静止に耳を向けず、私はジュリアとフェリックスを引き連れて走って近付いた。まずびっくりしたのは、競技場の周りをいくつもの半月形の短いアーチが列柱廊となってつなぎ合わさり支えている事。しかも競技場の緩やかなカーブに沿って、並べられたアーチもカーブに作られてる。これには本当にびっくり。


「すごい…。」

「あれ?アグリッピナ様ってまじかに見たことなかったんだっけ?」

「ドルススお兄様と一緒に、アウグストゥス様の宮殿から見下ろした事はあるけど。」

「さすが皇族。」

「なによ、フェリックス。その言い方は。」

「えへへ~、下からはなかったんだ。」


短いアーチで支えられた列柱廊の上には、住居のついた店舗が並んでいたらしいけど、今は誰も使っている様子は無し。


「ジュリアは見たことあるの?」

「はい。あの、お父様と幼い頃に。」

「そうなんだ…。」


すると後ろからパッラスが困った顔をして近付いてくる。


「もう、アグリッピナ様!お願いしますから、勝手な行動は謹んでください。」

「何で?」

「ここら辺は今はさほど活気も無くなって、人通りもかなり少なくなって減りましたけど、競技場の近くは物騒な連中や如何わしい輩がウロウロしてるから危険なんですよ。」


確かにパッラスの言うとおり。

当時からだいぶ寂れたとはいえ、競技場を囲むアーチの下には、戦車レースがあった面影としての賭博屋や予想屋の屋台の跡が残っている。現在ではすっかりと寝ている人の居場所っぽい。さすがに住みつこうとしている浮浪者は、競技場警護兵に追い出されていた。


「こらこら!駄目だぞ子供は近づいちゃ。」


私達一行を見かけて、下っ端っぽい競技場警護兵がやって来た。


「ちょっとくらいイイじゃない。」

「駄目だ!どうせお前達は競技場に落ちてる硬貨を拾いに来たんだろ?」

「違うわよ!」

「どうせそうに決まってる!」


私達を完全に邪魔者扱いしたうえ、フェリックスを見るなり酷い奴隷の扱いをしたので、私は両手を腰に置いて怒鳴り散らした。


「あなたねぇ?!さっきから偉そうに指図するけど、あたしを誰だと思っているの?」

「はぁ?!」

「私はユリア・アグリッピナ。神君カエサルの血を引くユリウス家の長女よ!」

「ええ?!まさか、あのアグリッピナ様?!」


兜を取ったその競技場護衛兵は、後にセネカと共に私の片腕となるブッルスだった。


「アグリッピナ様!これは大変失礼いたしました!」

「へ?!」

「私でございますよ、ブッルスです!」

「誰?」

「覚えてらっしゃらないのでしょうか?自分がまだ、ガリア・ナルボネンシス属州のウァシオ・ウォコンティオルムから出たばっかりの時に、パラティヌス丘側で公共浴場への道程を聞きました…。」

「あああ!あの時の田舎から出てきた新人ローマ兵ね?」

「田舎から出てきたって…。」


ブッルスは少しカチンときている。それも私が名前をしっかりと覚えてなかったからだ。


「今は軍隊の基礎を習うべく、こうやってキルクス・マキシムスの周りを警備しているわけです。」

「あら、ちょうど良かった。せっかくだから私達を中へ案内して頂戴。」

「ええ、ダメですよ!それはいくらなんでも…。」

「さっきの無礼を詫びる気はないわけ?」

「いいえ、あります…。」


こうして私達は頼もしいブッルスの警護の下、安全を約束されたキルクス・マキシムスの観光ツアーを敢行した。


続く


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ