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紺青のユリ  作者: Josh Surface
第十一章「追憶」乙女編 西暦23年 8歳
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第十一章「追憶」第二百十三話

「しっかし、ガイウス様にはびっくりしたな~。」

「私も、まさかお兄様があんな事するなんて。」

「ガイウス様って、戦場でもあんな風にやってたのかな?」

「さぁ。ただ、ギリシャの文化や美術や芸術が好きなのは確か。」

「発音がとても前より上手くなってたよ。」

「本当に?」


フェリックスの偉そうな態度は相変わらずだった。奴隷のくせに自然体でタメ口なところや、両手を頭の後頭部に乗せて喋り続けるところも。そういった一つ一つが、私を何だが落ち着かせてくれる。


「ところで、最近のアントニア様は元気なの?」

「暫くは寂しいって落ち込んでいたよ。アグリッピナ様とかがいなくなって僕は仕事の量が減ったと思ったけどさ、やっぱりお金になると計算が早いギャンブル相棒がいないとさ、へへへへ、つまんないよ。」

「ったく、フェリックスったら。」


サイコロ賭博か。

あれから一年近く経つんだ。早いな。私の初恋アラトス王子は元気にされているだろうか?あの頃のあたしって本当に野暮ったい感じだった。ギリシャ語もちゃんと喋れなくて格好悪かったし。


「ネェ?フェリックス。私もちゃんとギリシャ語喋れるようになれるかな?」

「あはは、アラトス王子とまた会いたいからでしょう?」

「ち、違うもん!」

「真っ赤になってら~。アグリッピナ様ってすっごく分かりやすい性格だよね?」

「違うの!もう!私はただ、ガイウス兄さんみたいに喋りたいだけ。」

「うっそだ~。だってローマの女の人はギリシャ語なんか綺麗に発音が出来なくたって生きてけるじゃん。別に皇后様とかになるわけじゃないんだし。」

「それはそうだけど、これでも大母后リウィア様からいっぱい教えてもらってるんだから。」


まさか自分が皇后になって、さらに母后になり、ローマの国母であるアウグスタに元老院から指名されるとは、この時はこれっぽっちも予想していなかった。大母后リウィア様以外は…。


「おい、フェリックス、馴れ馴れしいのもその位にしておけよ。アグリッピナ様は寛大なお方だから、お前の偉そうな態度も言動も許されているんだからな。」

「あら?パッラス。私は一度も許したことないわよ。」

「そ、そうなんですか?」

「えええ?!僕は許されてるのかと思ってた。」

「バーカじゃない?どこの世界で奴隷にタメ口言われて許す主人がいるのよ。」

「あわわわわ~、ごめんなさい、アグリッピナ様。」


フェリックスは泣きそうで土下座して謝ってきた。しかし私は堪えきれずたちまち腹を抱えて大笑いした。感の良いジュリアは間髪いれずにフェリックスに種明かしをする。


「あはは、さすがのフェリックスも、アグリッピナ様流の騙しにまんまと引っかかりましたね!」

「あはは!!本当、ばっかみたいに泣きそうになって。」

「えええ?!うっそだったの?!きったねぇ~ぞ!」

「大体あんたが調子に乗って偉そうにしてるから、たまにはお灸を据えないといけないじゃない?」

「そんなのいらないよ!」

「だったら今から丁寧な言葉遣いに直すか?」

「そんなの無理にきまってんじゃん。ラテン語むずかしいもん。もう!」


悔しがるフェリックスをよそに、ジュリアとパッラスと私は多いに笑った。少なくともこれが私流の奴隷の扱い。時にはからかい時には頼ったりして、自分が楽しめる時間を一緒に作る。


「さぁ!キルクス・マクシムスが見えてきましたよ。」


アウェンティヌス丘とパラティヌス丘に挟まれたローマ最大級の競技場は、途轍もない大きさと存在感を醸し出していた。以前は戦車の音と歓声が空を切り裂くように轟いていたのに、現在はティベリウスの縮小のお陰で閑古鳥が鳴く始末。私は何だか忍び込みたくなってきた。


「ねぇ?ちょっと寄って行かない?」


続く


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