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紺青のユリ  作者: Josh Surface
第十一章「追憶」乙女編 西暦23年 8歳
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第十一章「追憶」第二百十二話

リウィッラ叔母様がご自分の心を病んでいた頃、私も高熱を出しては心を病んでいた。結局体調は元に戻ったのだが、夢に冥界の主を司るプルートーが現れた以上、パラティヌス丘にある聖堂や神殿で、神々に呪いを解いてもらう必要があった。


「アグリッピナ様~!」

「フェリックス!」

「へへーん、なんか元気が無いって聞いてさ。来ちゃったよ。」

「お久しぶりです、アグリッピナ様。」

「パッラス…久しぶり、ね?」

「はい。」


今日は大母后リウィア様の所へ伺う日。私の親友ジュリアと、祖母アントニアの奴隷達パッラスと弟のフェリックスが迎えに来てくれた。さすがの母も、いつもの反抗的な私でないと調子が狂ってしまうらしく、いつまでも冥界の神に呪われてもらっては困ると考えたのか?敵対している大母后リウィア様の所へ行く事を承諾してくれた。神々へ信心深くない私として、呪いを解いてもらう名目で大母后リウィア様に会えるのだから、こんなに幸運な事はないと心の奥ではしっかり喜んでいた。


「パッラス兄ちゃんはすっごく来るの照れてたんだよ。」

「フェリックス!バカ!余計な事を言うなよ。」

「だって本当の事じゃん。あ!兄ちゃんの顔、また真っ赤になってる~!」

「う、うるさい!」


もう、フェリックスったら。

去年のサートゥルナーリア祭でパッラスとキスした事、ガツンと思い出したじゃないの。あれ以来からパッラスとはちゃんと話してなかったんだよね。引越しの時もお互いに避けてたし。もう…。


「あ、パッラス…。あたしの荷物持ってきてくれる?」

「あ、はい!」


スタコラサッサと中に入って行こうとしたけど、私はすぐに制止した。


「どこに荷物があるのか分かってるの?!」

「あ!いっけねぇ。」

「もう。」

「どこにあるんですか?アグリッピナ様。」

「入って左の奥があたしの寝室だから。」


というかいつの間に私の寝室になっている。コッケイウス家のネルウァ様から母ウィプサニアへ与えられたヴィッラは本当に大きく長細い建築。


「ジュリア、ありがとうね。」

「いいえ、私はアグリッピナ様の為なら何でもしてあげたいのです。だって~心配だし。」

「もう、すぐに泣くんだから。」


おかっぱのサラサラした髪を風に靡かせながら、ジュリアは何度も頷いて私を元気付けてくれた。本当にジュリアって可愛いな。


「ペロは元気?」

「ええ。最近はアグリッピナ様がいらっしゃらないので淋しいのか、アントニア様に懐いていますよ。」

「ええ?!あのペロが?!珍しい。」

「アントニア様もいつも『普段はアグリッピナに懐いていたくせに…。』って微笑みながらペロから顔を舐められてましたよ。」

「帰りに少しでも会ってみようかな?」

「ええ、その方がきっとペロも喜ぶでしょうね。」


神々に呪いを解いてもらう日数は、早くて三日もあればあっという間に終わる。そろそろ出かけるときになって、なぜかドルスス兄さんを筆頭に次妹のドルシッラ、末っ子のリウィッラ、そしていつも喧嘩しているカリグラ兄さんまでもが見送りに来てくれた。


「なぁーに?みんなぞろぞろ揃って見送りにきてくれたの?」

「いや、お前一人で大丈夫か?」

「大丈夫よ、ドルスス兄さん。」


末っ子のリウィッラはドルスス兄さんにしがみつきながら、心配そうにこちらを眺めている。


「リウィッラ、おいで。」

「アグリッピナお姉ちゃん!」


ワーっと駆け出しては私に抱きついて心配がるリウィッラは、今にも泣きそうな瞳でこちらを見上げてくる。


「バーカ!大丈夫だって。」

「でも、でも…。」


こいつに一番心配掛けちゃったのは事実。私は軽く背中をポンポンと二回叩いて安心させた。するとドルシッラ入れ替わりにやって来て面倒見のいい母親を演じる。


「毎朝ちゃんと顔洗ってね。姉さんは目が大きいから目ヤニがいっぱい溜まるとだらしないんだから。」

「ドルシッラ、人を野良猫みたいに扱うなっちゅーの。」

「ほら、言葉遣い悪い!もう、普段からお淑やかな言葉遣いが出来てないと、いざっていう時に行儀の悪さが出ちゃうんだから。」

「うるへ~!目上への礼節は常に心得てるから大丈夫よ。」


最後にカリグラ兄さん。

いつもみたいに憎たらしい言葉でも吐くのかと思ったら、意外や意外、背筋をピンっと伸ばして優雅な足取りでやってくる。人差し指をスラっと空高く伸ばすと、真面目な顔つきで突然声を高らかに上げた。


「我が妹ユリア・アグリッピナに、主神ユピテルの御加護あれ!」


一同はその挙動に慄いた。

だが、私は身を震わせて末兄カリグラの存在感を見せつけられた気がした。


「お前が元気でなければ、俺は張り合いがない。いいな?ちゃんと呪いを解いてもらうんだぞ。」


そしてこの時ばかりは、なぜ三男であるにも関わらず長兄ネロ兄さんや、次兄ドルスス兄さんを差し置いて、幼い頃から『カリグラ』とローマ兵達から呼ばれて可愛がられていたのかを、私は何だか妙に納得してしまった。


続く

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