第十一章「追憶」第二百七話
幼馴染の三人はどんなだったのだろうか?今ではそれらを知る術はない。でも、私達がそうであったように、父も母も、そしてドルスッス叔父様も、互いをドルサー、アギー、ゲルマという愛称で呼び合っていたのだから、きっときっと仲が良かったんだと思う。
「そういえば、ゲルマは僕らと違って一個上だったから、何かと威張ってたな~。」
「そうそう、なのにドルサーはまるでゲルマを自分のお兄ちゃんのように、いっつもニコニコついて来て。」
「あははは、もう、30年くらい前の話だよ。」
「そうね。」
母の遺書によると、あえてこの日は政治の話をしなかったという。二人は辺りをゆっくり歩きながら、時には串焼きを頬張ったり、ぶどう酒を飲んだり、くつろぎながら終始笑顔が絶えなかったそうだ。
「うわー!見て~!」
「あはは、これは可愛いな~。」
「ドルサー。あたし、一つ欲しい。」
「ああいいさ!これ、一つくださいな。」
「あいよ!」
互いは独身だった頃を思い出すように、自分達が最も幸せだった頃を重ね合わせていた。母は幼い女の子のようにドルスッス叔父様のそばではしゃぎ、叔父様もそれが当たり前のように扱い、二人の想いは本当に混じりっ気の無い純粋さの溢れていた。
「ねぇーねぇー、神殿の中へ勝手に入っちゃいましょうか?」
「ええ?!」
「大丈夫だって!」
「そうじゃなくて、むしろ。」
「んもう!ドルサーは昔っから頭硬いんだから!臨機応変にね?」
すると外衣のパルラをスルスルと頭に被せ、内衣のストラの丈を少しだけ短く幕ってはサンダルのソレラをポイポイっと抜いで、いきなり裸足で女神ヴィリプラカの神殿へ駆け込んでしまった。
「ったく!アギーは…。」
言葉は面倒くさそうだけど、どこか表情は穏やかで嬉しそうなドルスッス叔父様。眉毛を八の字にして微笑みながら後へ続いた。
「いいでしょ!?ちょっと邪魔しないで!」
「駄目です、規則ですから!」
「冗談じゃありませんわ!今すぐに告解調停の場へ。」
「どこぞの裕福なご婦人だが存じ上げませぬが、ここは女神ヴィリプラカの神殿でございまする!故に、どうかお一人では無く相手方もお連れいただきませぬと、調停の場へは…。」
「その者は、私の連れだ!」
「ドルスッス様?!」
「神官、先ほどは無礼は申し訳ない。ようやく連れの承諾を得て呼ぶことができた。」
「では、こちらはリウィッラ様で?」
神官は外衣のパルラで頭からすっぽり被った母の顔を覗こうとするが、母はさらに深く頭をされて、嫌がるように神官から顔を逸らした。
「察してやれ、連れは頬を亭主に拳で殴られている。そんな腫れた顔を見られたくないのだ。」
「はぁ…。」
さらに神官が覗き込もうとすると、忘れてたように母は右手で右の頬を抑える。
「はて?ドルスッス様は左利きでしただろうか?」
慌てて左手を左頬に抑える母。その一連の行動に疑いの眼差しを向ける神官であったが、ドルスッスの陽気な性格がその場を上手くかわされた。
「ひやっ!!」
「全く、女というものは頬も尻も柔らかいというのに、どうして喧嘩すると頭が硬くなるのだろうかね?なぁ神官?」
「ははは、そのようですね。」
母のお尻をペロンっと触ってごまかしてみせるドルスッス叔父様は、びっくりして驚いてる母の肩に手を添えて、ここは任せてとウィンクして見せる。
「神官、悪いがしばらくの間、外に出てくれないか?」
「と、申しますと?」
「どうやら事は我が祖母の話までに発展しそうなんだ。」
「何と?!大母后リウィア様までですか?!」
「ああ、神官や他のもの達が聞いてはマズイ話も出てくるだろう。君らの栄誉の為に、しばらく表でも散歩しててくれないか?」
「そのようなご事情なら分かりました。」
こうして、ドルスッス叔父様と母ウィプサニアは二人だけで、女神ヴィリプラカの前である告白をしてしまうのであった。
続く