表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
紺青のユリ  作者: Josh Surface
第一章「私」少女編 西暦17~18年 2~3歳
2/300

第一章「私」第二話

三歳くらいの頃。

多分、家族みんなでローマから少し離れたアンティウムにいた頃。


ユリアと呼ばれていた私は、いっつも泥だらけだった。普段着である小さなトゥニカを汚しては、道という道を駆け巡り、転んでも膝の傷は舐めて走り続け、木登りだってお兄様達にもこれっぽっちも負けた記憶もなかった。


お母様であるユリア・ウィプサニア・アグリッピナは、活発すぎる私が理解できない様子。いつも泥だらけにしてくるトゥニカを見ては、血相を変えて私を叱りつけていた。今日もお母様に見つからないところで、小鳥の巣にある卵の数を数えて、一人だけで木登りを楽しんでいる。ところがお母様の勘は本当に鋭く、すぐさま見つかってしまった。左手にはまだヨチヨチ歩きの妹ユリア・ドルシッラを連れ、お腹の中には三女のユリア・リウィッラを宿しながら、召使いも使わず直接私に木登りをやめるよう訴えている。


「ユリア、降りてきなさい。そんな先まで登ったら危ないでしょう」

「大丈夫です、お母様。このユリア・アグリッピナには不可能な事はございません!ユリウス家の名誉に恥じぬよう、この大木を制覇してご覧にいれます」

「そんな名誉はいりません!貴方の大きなお尻は、ローマ中のみんなに見られてるのですから、既にユリウス家の不名誉です」

「大丈夫ですって、お母様」


私はゆらゆら揺れる枝の先で、両足で思いっきり何度もジャンプをして無事を示した。


「はぁ!危ないでしょう、ユリア」


お母様の驚く声を聞いた長兄ネロ・カエサルお兄様が、急いでこちらに駆けつけてきた。衣服からはみ出た御守りのブルラを胸元にしまい、お母様から事情を聞いて私の説得をし始める。


「ユリア。危ないから降りておいで」

「大丈夫でーす!ネロお兄様」


私はもっと上の方まで登ってみたくなり、不安定な枝からヒョイっとジャンプしてさらに上の枝まで登った。


「ああ!見てられない」


お母様は顔に手を当てて怖がってる。

実は、内心お母様を驚かせているのが、楽しくてしょうがなかった。ネロお兄様は腰に手を添えて、どの位の高さに私がいるのかを見ているようだ。すると今度は、次男のドルスス・カエサルお兄様が、首を軸にブルラを回しながら、トコトコと歩いてやってきた。案の定、大切な御守りで遊ぶなと、お母様には頭を叩かれ怒られてる。頭をさすりながら、口をポカンと開けたままチラッとこちらを見ると、ネロお兄様から事情を聞きながら、後ろ手をプラプラさせて遊んでる。


「ネロ兄さん、ユリアは自分でちゃんと降りれるよ」

「うーむ、ちょっと危なそうだな。あいつ、あそこまで登った事、今までなかったろ?」

「確かに。この間見つけた鳥の巣よりも上だしね」

「ドルスス、そういえば、この間見つけた時、卵は幾つあった?」

「三個。そのうちの一個は、ガイウスが欲しいって言うからあげちゃった」

「って事は、残り二個しかないのか」


頭を抱えたお母様は二人の逸れた話に飽きれている。


「あんた達、そんな事はいいから、とにかくユリアを助けに行きなさい!」


するとその声に、妹のドルシッラがとうとうぐずりだした。すぐさま長い棒を地面に引きずった、三兄カリグラ兄さん(一応、皆の前ではちゃんとガイウスお兄様と呼んでいた。)がやってきて、後ろからドルシッラひょいっと抱きかかえてはあやし始めた。ギリシャの偉そうな偉人の真似事ばかりするカリグラ兄さんとは、年の近いせいか、なぜか勝気な私としょっちゅう喧嘩してた。


「お母様、ほっときなよ。怪我すんのはあいつの勝手なんだから」

「でも、落ちたら大変でしょう」

「あいつ怪我しないとわかんないよ。それに、あいつのお尻大っきいから、落っこっても弾んでどっかいっちゃうよ。ケッケッケッケ!」


私はムカッ腹が立って、カリグラ兄さんに喧嘩をふっかけた。


「何ですって?!ガイウスお兄様だって、未だに寝小便が治らないくせに、偉そうな事ばかり言わないでよね!」

「な、何だと?!でかいケツ女のくせに木登りとかしやがって!それが兄に対する言葉か?!」

「だったら、登ってきなさいよ!怖がり!」

「うるさいな!オタンコナス!」

「オタンコナスとは何よ!馬面!」

「二人とも!こんなところで喧嘩するの、やめなさい!」


ドルススお兄様を肩車させたネロお兄様は、小鳥の巣のある下辺りまで登らせようとしている。ところがカリグラ兄さんは、抱かえたドルシッラをお母様に渡し、サンダルのソレラをポイポイっと脱ぎ出して、両手両足を猿のように使って勢い良く登ってきた。


「くっそユリアめ!待ってろ!今行ってやるからな!」

「おい、ガイウス。ユリアをあんまり刺激するな」

「大丈夫だよ、ネロ兄さん。あ、ドルスス兄さん、ちょっとどいて。」

「え?」


すると、バランスを崩したドルススお兄様が地面に倒れた。慌てて駆け寄る心配性お母様だが、倒れた勢いで、お兄様の鼻から鼻水が出ていたらしく笑い始めた。それを見たネロお兄様も笑ってる。気になったカリグラ兄さんも、見せて見せてと言わんばかりに、木登りを途中でやめて飽きている。


「たっははは!本当だ。ドルスス兄さんの鼻水、八の字になってる!」


カリグラ兄さんの声を聞いた私は、やっぱりドルススお兄様の鼻水が気になった。けれど、今度は降りるのが怖くなってしまった。


「お、お母様。降りれなくなっちゃった」

「ほら見なさい」

「ええ?!本当か?ユリア」

「本当です、ネロお兄様…」

「おケツから、降りればいいじゃん」

「ガイウス、お前余計な事言うな。ドルシッラをあやしてろ。」


カリグラ兄さんは、鼻水を拭いてるドルススお兄様に怒られてる。再び、ネロお兄様とドルススお兄様が、私を救出するために登ろうとしている。でもどうしよう?それまで待っていられない。さっきまでいた下の枝までさえも、足が全然届かない状態。伸ばせば伸ばそうとするほど怖くなり、ついには右足からソレラが脱げてしまった。


初めて、かなり高い所まで登った自分に、気が付いて震えていた。


続く


【ユリウス家】


<ユリア・アグリッピナ(15年-59年)>

主人公。後の暴君皇帝ネロの母。


<ゲルマニクス(紀元前15年-19年)年の差+30歳年上>

アグリッピナの父


<ウィプサニア(紀元前14年-33年)年の差+29歳年上>

アグリッピナの母 


<長男ネロ(6年-31年)年の差+9歳年上>

アグリッピナから見て、一番上の兄


<次男ドルスス(7年-33年)年の差+8歳年上>

アグリッピナから見て、二番目の兄


<三男ガイウス=カリグラ(12年-41年)年の差+3歳年上>

アグリッピナから見て、三番目の兄


<次女ドルシッラ(16年-38年)年の差-1歳年下>

アグリッピナから見て、一番目の妹


<三女リウィッラ(18年-42年)年の差-3歳年下>

アグリッピナから見て、二番目の妹


【アントニウス家系 父方】


<アントニア(紀元前36年-37年)年の差+51歳年上>

アグリッピナから見て、父方の祖母


<リウィッラ・ユリア(紀元前13年-31年)年の差+28歳年上>

アグリッピナから見て、父方の叔母


<クラウディウス(紀元前10年-54年)年の差+25歳年上>

アグリッピナから見て、父方の叔父


【アントニウス家系の解放奴隷、使用人および奴隷】


<ナルキッスス(1年-54年)年の差+14歳年上>

父方の祖母アントニア及びクラウディウスの解放奴隷


<パッラス(1年-63年)年の差+14歳年上>

父方の祖母アントニア及びクラウディウスの解放奴隷


<フェリックス(12年-62年)年の差+3歳年上>

父方の祖母アントニア及びクラウディウスの解放奴隷


<アクィリア(17年-19年)年の差-2歳年下>

父方の祖母アントニアの解放奴隷


<シッラ(紀元前15年-60年)年の差+30歳年上>

父方の祖母アントニアの解放奴隷


<リッラ(紀元前15年-59年)年の差+30歳年上>

父方の祖母アントニアの解放奴隷


<クッルス(紀元前15年-59年)年の差+30歳年上>

父ゲルマニクスの親友


<セリウス(紀元前15年-60年)年の差+30歳年上>

父ゲルマニクスの親友


<セルテス(紀元前12年-63年)年の差+27歳年上>

父方の祖母アントニアの解放奴隷


<ぺロ(17年-30年)年の差-2歳年下>

父方の祖母アントニアの飼い犬


【クラウディウス氏族】


<リウィア大母后(紀元前58年-29年)年の差+73歳年上>

アグリッピナから見て、父方祖父の母親。初代皇帝アウグストゥスの後妻


<ティベリウス皇帝(紀元前42年-37年)年の差+57歳年上>

アグリッピナから見て、父方祖父の兄弟。初代皇帝アウグストゥスの養子、リウィア大母后の長男


<ドルスッス(紀元前14年-23年)年の差+29歳年上>

アグリッピナから見て、父方祖父の兄弟の息子。二代目皇帝ティベリウスの長男


【ティベリウス皇帝 関係】


<セイヤヌス(紀元前20年–31年)年の差+35歳年上>

二代目皇帝ティベリウスの右腕。親衛隊長官


<ピソ(紀元前44年-20年)年の差+59歳年上>

二代目皇帝ティベリウスの親友。シリア属州の総督。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ