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紺青のユリ  作者: Josh Surface
第十章「亀裂」乙女編 西暦22年 7歳
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第十章「亀裂」第百九十三話

「なるほど、それは参りましたな。」


コッケイウス家のネルウァ様は、蓄えた髭を摩りながら、ある考えを一つにまとめようとしていた。アシニウス様は怯える母ウィプサニアへ、何度も肩を摩りながら落ち着かせている。


「ネルウァ様、やはりここは国母である大母后リウィア様の申される通り自重すべきでしょうか?」

「ホッホホホ、アシニウス殿は国母とは、誰の事をさしておるのだろうか?」

「はい?」

「未来の国母なら、今、我々目の前におるではないか。」


それは、母ウィプサニアを差していた。


「よいか?アウグストゥス様がお亡くなりになって、一体何年が経っていると思っているのじゃ?我らは国家の行く末、しいては後々の孫や子供達に何を遺せるのかが重要ではないか?」

「はい。」

「それは、権力でも地位でもないのじゃぞ。ウィプサニア殿は、もう既に分かっておるよのう?」

「はい、それはカエサルの血を引いた者たちの、新しいローマ『希望』です。」

「うむ。いつまでも老婆の幻影にすがっていては、いずれローマは何も生まれず、それだけは何としても避けねばなるまい。」

「しかし、このままではクラウディウス氏族からの猛反発を喰らいますぞ。」

「纏まっていればの話じゃろ?」

「?」


ネルウァ様の読みはご老体でありながら、鋭い洞察力で的をいていた。明らかに、現皇帝ティベリウスの従う皇族一派と、超保守派閥の大母后リウィア様を中心とした皇帝一派にクラウディウス氏族は分かれつつあった。その理由には、ティベリウス皇帝と元老院議員との微妙な関係が、利害一致して継続していたからだ。あくまでも、牛魔としてその恐ろしさを曝け出すのは、後々のセイヤヌスの野望が暴露してからである。


「近々、ティベリウス皇帝陛下は親しき者を集めローマを離れる事になる。その頃には陛下のご意向が何であるかが分かるじゃろう。それまでにウィプサニア殿は、やるべき事を成し遂げるべきではなかろう?」


ネルウァ様は、いつ何時でもいかように捉えられる物言いが特徴で、つまり逃げ道を常に事前に作ってらっしゃるお方。母ウィプサニアは、この特徴的な言い方に騙されてしまった。それは、ティベリウス皇帝の先妻と再婚されたアシニウス様やティベリウス皇帝も一緒で、アグリッパ・ウィプサニウスの血を引く女性たちに心奪われた者たちの、愚かで醜い争い始まりでもあった。


「ネルウァ様、私は長男ネロと共にカエサルの血を引くユリウス家の代表として、やるべき事を成し遂げる所存でございます。」

「うむ。」

「ウィプサニア殿、私も及ばずながらお力添えになりますぞ。」


アシニウス様は牛魔ティベリウスへの悪感情を隠すことはしなくなった。もはや吹っ切れたと言っても過言ではないかもしれない。あからさまに母ウィプサニアとご自分の元妻と何処か面影を重ねながら、母と共闘する事を願っている表情だった。


「そうなるとじゃ、一番のキーポイントは以前にも言ったがドルスッス様の立ち位置じゃ。あの方ををこちらに引き込むことができれば、かなりの求心力となって行くことは間違いないぞ。」


するとネルウァ様は母の顔をじっと見つめた。その意図にいち早く気が付いたアシニウス様は、慌てて母ウィプサニアを庇うように答える。


「それはなりませぬぞ!ネルウァ様。仮にもドルスッス様はゲルマニクスの妹の夫ではありませんか?!いくらなんでもそればかりは…。」

「見苦しいのう、アシニウス殿は。すっかりウィプサニア殿に亡き妻の面影を見てるのか?」

「い、いいえ…。」

「では、年寄りの醜い嫉妬心は自重なされ。」


アシニウス様は下唇を噛んで、自分の情けない感情をかみ殺そうとしている。そしてネルウァ様は、再び母ウィプサニアへ確認する。


「やれるな、ウィプサニア殿?」

「それが、ローマの『希望』の為ならば。」


こうして母は愚かにも国母になるべく、ドルスッス様を自分の野望の為に、再婚相手として女を武器にしていったのである。


続く

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