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紺青のユリ  作者: Josh Surface
第十章「亀裂」乙女編 西暦22年 7歳
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第十章「亀裂」第百九十一話

「ドルスス!」

「ウッ!!」


ネロ兄さんはドルスス兄さんを思いっきり殴った。振り下ろされた拳は、次から次へとドルスス兄さんの顔へ吸い込まれて行く。でも、ドルスス兄さんも負けてはいない。殴られても気迫を保ち続け、血みどろになった顔で怒りを露わにした叫び声を上げ、ネロ兄さんの肩や腹部を殴り続ける。


「卑怯者!ちゃんと勝負しろよ!ドルスス!」

「うるさい!」


卑怯者は、成人式を迎えられないドルスス兄さんのお顔に、平気で拳を叩き込むネロ兄さんの方だった。本当は何もかもが嫌になってるはずなのに、ドルスス兄さんはそれでも、政治に携わるネロ兄さんのお顔を傷つけまいとされていたから。


「やれ!やれ!もっとやるんだ兄さん達!戦え!争うんだ!」


興奮した兄カリグラは殴り合う二人を煽り始めていた。自分が剣闘士にでもなったかのように、両拳を振り上げ、振り下ろし、満面の笑みを浮かべて叫んでる。その横で、グッと堪えて口をへの字にしてジッと二人を見つめるドルシッラ。私はというと、怯える末っ子リウィッラを抱き寄せながら、事の成り行きを見守っていた。


「クッソ!」

「ハハハハハ!ドルスス兄さん、鼻血ばっかり出してかっこ悪いな!もっと、ネロ兄さんの顔をえぐって殴るんだよ!」

「ック!カリグラは黙ってろ!」

「な、何だと!」


この時の私は、全て母のせいだと思っていた。事実、母の狂気じみた統率に振り回される毎日には、私達兄妹は少なからず精神を消耗していき、苛立ちが常に付きまとっている感じだった。更に輪をかけてドルスス兄さんの成人式が延期され、母に不満が爆発し、その矢先に起きた長男と次男による喧嘩。しかし今回も力尽きたのは、気遣いをしていたドルスス兄さんの方だった。


「いいか?!ドルスス!お前は母さんがいなければ何もできないことを忘れるな!」

「クッソ…。」

「いいか?!ゲルマニクスお父様が亡くなった今、この僕が家長だ!それを二度!金輪際忘れるなよ!」

「クソ!」


庭を何度も叩きつけ、その抑えきれない感情を悔し涙と拳で表すドルスス兄さん。兄カリグラは、鼻で息を吐いて見下し、ドルシッラは黙ったまま表情も変えずにその場を離れて行く。冷んやりとした夜が更にあたりを冷たくあしらうと、私はようやくリウィッラと近づくことが出来た。


「ドルスス兄さん…。」

「一人にしてくれ、アグリッピナ。」

「でも兄さん…。」

「一人にしてくれって言ってるだろうが?!クソ!!」


四つん這いで何度も地面を叩き、悔しがるドルスス兄さんの背中を見つめるてると、自然と私にも寂しさが募ってきた。どうして、思い通りにいかないんだろう…。


「クッ…!」


切れた口の中から血の混じった唾を地面へ吐き飛ばし、ドルスス兄さんはヨロヨロと一人ドムスの外へ出て行ってしまった。


「アグリッピナお姉ちゃん?」

「リウィッラ、悪いけどお姉ちゃんはちょっと後をつけてくるね。」

「うん…。」


私はドルスス兄さんが気になって、足音を立てずに後をひっそりついていくと、なんとそこには一人の女性が立っていた。


「ドルスス!」

「サルビア!」


二人はギュッと互いを確認し合うように抱擁し、そして大きく互いの唇を奪い合いながら舌を絡ませ始めた。やだ…。恥ずかしい方のくちづけをしているんだ。


「まぁ?!ドルススったら顔中アザだらけ。どうしたの?」

「何でもないさ!女のお前には関係ない事だ。」

「まぁ可愛い。今夜は私の腕の中でいっぱい甘えていいから。」


兄さんの髪の毛を指先で優しく撫でるその艶っぽい女性は、セイヤヌスの後ろ盾であるルキアス・サルビアス・オトの娘、サルビア・オタであった。


続く

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