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紺青のユリ  作者: Josh Surface
第十章「亀裂」乙女編 西暦22年 7歳
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第十章「亀裂」第百八十二話

「さぁ!もう十分でしょ?それとも貴方は、また同じ場所で私を犯すつもり?!」


セイヤヌスはリウィッラ叔母様のピシャリと解き放った言葉に、口を遮られるしかなかった。


「私は自分の旦那ドルスッスを取り戻したいだけ!あんたの政治的な思想も、ウィプサニアが現皇帝を覆そうとしている野望にも興味は無いの!分かる?」

「…。」

「私の事を二度も抱けると思わないで!今度は本当に全てを、あんたの政敵である旦那に話すわ!」

「それで困るのは、リウィッラ貴様の方だろう?!」

「もうたくさん!これ以上私があんたに色々な事を協力して、あんたに渡された薬を旦那に飲ませても、ウィプサニアに協力する一方で、むしろ家族を顧みないで協力する一方!エトルリア人の媚薬なんて信じたあたしが馬鹿だった!」

「ぬぅ!貴様、我らの種族を愚弄するつもりか!」

「ええ!所詮、エトルリア人なんて、ローマの下水道を支えるアーチを考えついたくらいが、ちょうどあってるんじゃない?結局あんた達は、ローマ最後のタルクィニウス王と共に、ここから追い出されたことがまだ分かっていないのよ!」


セイヤヌスは思わず叔母様の頬を叩こうとしたが、流石の叔母様も素早く避けて、そばにあった皿を投げつける。セイヤヌスは瞬時に拳で皿を叩き割ると、怒りを露わにせざえるをえなかった。


「この雌豚め!もう許さぬ!殺してやる!」


だが、リウィッラ叔母様を守ったのは、外で流石の異変に気が付いたセイヤヌスの部下達であった。


「おやめくだされ!セイヤヌス親衛隊長官殿!今ここで血気盛んに殺生をすれば、貴方は現皇帝を敵に回すことになりますぞ!」

「構わぬ!この雌豚の憎き顔を切り刻まなければ、我がエトルリアとしての誇りを!侮辱の処刑台に晒すことになる!」

「それでもです!セイヤヌス長官殿!

お気持ちをお鎮めください!」

「ぬっぐ!ならぬ!」

「我ら、キメラとトゥクルカの為にも!」

「…。」

「キメラとトゥクルカ?」


リウィッラ叔母様は、奇妙な言葉を耳にした。だが、その言葉に即座に背を向けたセイヤヌス達は、ギラついた目だけをリウィッラ叔母様へ向けている。


『聞こえたか?』

『殺めるか?』

『教祖様、その意思はトゥクルカの意思でしょうか?』

『イヤ、貴様たちが語ることがトゥクルカ様の意思であり、今は自重すべき事が得策だ。』

『では、後ほど、サビニの血を引くこの雌豚に、真夜中に侮辱を突き返しましょう。』


さらに、リウィッラ叔母様はその者たちの怪しげな雰囲気に、暫し嫌悪感を覚える。


「失礼をした、リウィッラ殿。今日の所はこのまま引き下がることにしよう。」

「?!」


先ほどまで殺気立っていたセイヤヌスの顔は、恐ろしいほど安らかで穏やかさに溢れていた。


「セイヤヌス?」

「残りの媚薬も全てここに置くことにしよう。これはほんの詫びだ。」


リウィッラ叔母様は顔をプイと横に向いて、敢えてセイヤヌスの置いた薬から目を背けるが、内心は気になって仕方がないようで…。


「では、後ほど。ドルスッス殿に飲まれて効果が出れば、引き続きウィプサニアとその長男ネロの情報を今まで通り知らせてくだされ。」


そう言うと、セイヤヌスは深くお辞儀をしたまま顔はリウィッラ叔母様へ見せたままにやけてその場を去っていく。セイヤヌスの急変に戸惑うリウィッラ叔母様だったが、置いていったエトルリアの媚薬が気になって仕方がない。部屋中を歩き回り、先ほど割れた皿を奴隷に片付けさせても、セイヤヌスが置いていった媚薬に手を触れれば、烈火の如く怒り出した。寝室に戻り、媚薬をベッドの向こう側に置いて、ベッドの上からジッと体育座りしながらその媚薬を眺めると、素足の親指の指先同士でくすぐり合い始める。


「本当に…媚薬なのかしら?」


リウィッラ叔母様はついに、二度と戻ることが出来ない魔の一線を、この時始めて越えてしまった。


続く


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