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紺青のユリ  作者: Josh Surface
第十章「亀裂」乙女編 西暦22年 7歳
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第十章「亀裂」第百七十八話

翌年になり、私が八歳を迎える年。

私達の家族や親戚同士では、様々な亀裂が生まれていくことになる。


昨年ドルスッス叔父様は、現皇帝であるティベリウス様と共に2度目の執政官に就任された。元首の同僚の執政官職はこの時期では特別な意味を持っており、事実上競争相手だった我が父ゲルマニクスが亡くなっていたので、正式な皇帝後継者指名の意味を持つことになる。


さらに、今年は叔父様へ護民官職権の授与が決議され、初代皇帝アウグストゥス様が治世された末期に、ティベリウス様へ与えられた同じ立場を、同じ年齢で与えられる事になった。それでもドルスッス叔父様はよく働き、母ウィプサニアの感情も考え、明白にセイヤヌスにも敵対していたので、私たちの父親代わりになって、ご自分の家庭も顧みずに面倒を見てくれた。


だが、この"ご自分の家庭も顧みず"という意思が、ドルスッス叔父様の妻であるリウィッラ叔母様の逆鱗に触れてしまう。反政府派閥を討伐を目的とするティベリウス皇帝の右腕セイヤヌスと結託した叔母様は、あからさまに母とは対立されてしまうのであった。


母ウィプサニアはというと、亡き夫ゲルマニクス殺害犯の首謀者を現皇帝ティベリウスと断定しており、コッケイウス家のネルウァ様とドルスッス叔父様の実母の再婚相手であるアシニウス様を後ろ盾に、打倒皇族派の為、本格的に強固な関係を築き始める。国家反逆罪に問われる事を懸念した大母后リウィア様からは、直々に母へ忠告したのだが、これをことごとく無視。さらにその事がきっかけで、祖母のアントニア様も距離を起き始めてしまう。


そう、つまり母ウィプサニアやリウィッラ叔母様が、本当の意味で『ローマの魔物』に魂を売った年でもあった…。


さて、その年の始め。

アントニア様はネルウァ様達と忙しくしている母ウィプサニアの代わりに、ドルスス兄さんが今年こそ成人式を迎えられるようにと、大母后リウィア様へ年始のご挨拶しに行くことになった。その事を聞きつけた私は早速駄々をこねて、ちゃっかり兄さんのお供をする事が出来たのだ。


「今日は奴隷達と一緒に、大母后リウィア様はアウグストゥス様のドムスを掃除されているみたいなの。」

「ヘェ〜!アウグストゥス様のドムスに!ドルスス兄さん、私、とってもワクワクしてます。」

「何で?」

「だって初代皇帝アウグストゥス様のご自宅を拝見できるんですよ!」

「そうだよな、あの初代アウグストゥス様のドムスだもんな。」

「どんなに立派で豪華なのでしょうか?!」


するとアントニア様は私達二人を眺めて頬んでいる。


「あなた達、ドムスを見たらきっとびっくりするでしょうね。」


私達はアントニア様が何のことを言っているのか、さっぱり見当もつかなかったが、その意味はアウグストゥス様のドムスを目の当たりにして分かった。


「ここよ。」

「え?!」

「ここ、ですか?!」


そこは、パラティヌス丘南西に向かうアポロン通りを登り、ガイウス・オクタウィウス様のアーチをくぐり抜け、目の前に見えるアポロン神殿の右手に曲がった先にある、ひっそりと慎ましく立てられた本当に小さなドムスだった。


「ドルスス兄さん…。こ、これがアウグストゥス様のご自宅なの?!」

「信じられない。アントニア様、これじゃお母様方の祖父であるアグリッパ様の倉庫よりも小っちゃいじゃないですか!」

「う、嘘でしょ?」

「本当よ、二人とも。アウグストゥス様ご自身の宮殿は、戦車の大競技場キルクス・マクシムスを一望できるほど広大ですし、ご自身の神殿や神殿の図書館も立派でしょ?でもお住まいは、まるで最愛家であるアウグストゥス様を象徴するかのように、リウィア様のお住まいと寄り添うように、ひっそりとされていたのよ。」

「うへぇーーー!!」


私とドルスス兄さんは、しばらくずっと口を開きっぱなしだった。


続く

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