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紺青のユリ  作者: Josh Surface
第二章「母」少女編 西暦18年 3歳
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第三章「母」第十七話

「ウィプサニアちゃん。セイヤヌスから許可が出たから、このまま宮殿まで馬車を進めるよ。」

「ありがとうございます、ドルスッス様…。」


ドルスッス様は少しだけ馬車に被せた布を開いて、お顔だけを見せて伝えてきた。昨日、お母様達がお話しされてる中で出てきた、リウィッラ叔母様がお嫌いになってるトカゲの名前も出てきてる。


「家内のリウィッラは、先にアントニア義母さんの所へ行ってるから、後でみんなで遊びに行こう。」

「はい…。」

「大丈夫、いざって時にはアントニア義母さんが助けてくれるはずさ。」


ドルスッス様もお母様の不安を普段通りに振舞って消し去ろうとしてらっしゃる。しかし、あのアントニアお祖母様の名前を出すくらいなのだから、お母様がお父様の元へ戻られることを懇願することは、当時としては深刻だったのかもしれない。


「お母様、この後アントニアお祖母様の所へ行かれるの?」

「ええ。ぜひみんなでいらっしゃいっておっしゃてたのよ。」


アントニアお祖母様は、お父様、リウィッラ叔母さま、そしてクラウディウス叔父様の実の母親。若い頃に不慮の事故で旦那を亡くされて以来、ずっと独身を貫いてらっしゃる。そして、あのクレオパトラ様と悲恋の末に命を絶った、アントニウス様の実の子供でもあった。


「ユリア、あんまりアントニアお祖母様にクレオパトラ様のお話しをせがんではダメよ。」


私はアントニアお祖母様からアントニウス様とクレオパトラ様の、あの情熱的なエジプトのお話しを聞くのが大好きだった。何せ私が心底クレオパトラ様に憧れているから。しかし子供は幼ければ幼いほど、いつの時代も無神経な故に残酷。何せ、実の孫から自分の父親の愛人の話をしてくれとせがまれるのだから…。今考えれば、お祖母様は本当に心の広い方だったと思う。だから私の無礼な要望にヤキモキしていたのは、いつもお母様のお仕事だった。


「どうしてですか?」

「家柄に関わる事なの。」

「どうしてですか?」

「どうしても。」

「お話しを伺う事が、家柄に関わる事なのですか?」

「アントニアお祖母ちゃんだって、毎回毎回ユリアに同じ話をせがまれたら、いくらなんでも疲れちゃうでしょ?」

「でも、お祖母様は、いつだって話してあげるって言ってくださいました。」

「今日はおよしなさい。」

「どうしてですか?」

「どうしてでもです。」

「お母様??!」

「ダメと言ったらダメです。」

「お母様?!」

「うるさいっ!!」


ビクついた。

ドルシッラは、お母様の大きな怒鳴り声に怯えて泣き出した。


「お願いだから!今日だけはジッとして頂戴!」

「…。」


私も必死に泣くのを堪えてる。

でも、お母様の苛ついた声は今までの中で一番本当に怖かった。ネロお兄様とドルススお兄様が、心配になって一緒に見に来てくれた。


「お母様?どうしました?」

「ああ!良かったネロ。悪いけど、ドルシッラをあやして頂戴。」


ネロお兄様は泣き喚いてるドルシッラをあやしてるけど、ドルススお兄様は馬車の窓辺からチラチラお母様と私の様子を伺ってる。お母様はリウィッラをあやしながら、私の背中に苛立つ溜息を何度も浴びせるものだから、私はますます涙が堪えられなくなり、一生懸命に口をへの字にして目に涙を溜めた。ドルススお兄様はニコニコ微笑みながら質問をしてきた。


「ユリア、お前、お母様をまた困らせたんだろ?」

「困らせてないもん。」

「本当に?」

「困らせてないもん!」

「本当に本当か?」

「ハァ!!もう、そんな事はどうでもいいから!ドルスス!ユリアを外に出して頂戴!」

「はい、お母様。おいで、ユリア。」


プイ。

私はドルススお兄様の優しさに反抗した。 ドルススお兄様に怒っているわけではないのだけど、でも、なんだか嫌だった。


「ほら、どうした?おいで。」


私は意地でも、両手を広げるドルススお兄様の所に行きたくなかった。


「何だよ?怒ってるのか?」



次の瞬間、私の左頬はいっぱいのお星様を飛び散らして震えていた。


「何度言ったら分かるの!?ユリア!いうこと聞きなさい!!」


お母様からの初ビンタ。

私は怖くて痛くてとうとうわーわー泣き出した。それに歓呼するように、馬車の中はユリウス家の三姉妹私、ドルシッラ、リウィッラによる泣き声の猛襲となった。ドルススお兄様は微笑みながら、私を抱っこしてあやしながらつぶやく。


「やっぱりお前、お母様を困らしたんじゃんか。」

「だって...。ううう。」


この事は、後にカリグラお兄様がローマ皇帝として帝位された時、私達三姉妹が宮廷に呼ばれた時、ローマ市民から『泣き虫ユリアン三姉妹』としてからかわれるキッカケとなる。 私は親指をなめながら、ずっとずっとお兄様に甘えていた。


続く

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