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紺青のユリ  作者: Josh Surface
第九章「初恋」乙女編 西暦22年 7歳
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第九章「初恋」第百六十七話

サートゥルナーリア祭六日目 夕方。


「あー、リッラ、先ずは何から行くのかい?」

「そうねぇ、牛乳にたっぷり蜂蜜をいれるのシッラ。」


私もなんだか手伝う羽目になり、シッラと一緒に蜂蜜をたっぷり牛乳の中へ流し込んだ。どうやらリッラの話によると、ガチョウから取り出した肝臓の臭みを取り除くために、料理する直前迄浸しておくらしい。


「うにゃ。ガチョウの中身ってこんなふうになってるんだ。」

「あー、アグリッピナ様は見ても大丈夫ですか?」

「あたしは全然平気。多分、末妹のリウィッラは泡吹いて倒れると思うけど。」


この間、ジュリアと一緒に忍び込んだ時には、豚の頭とカタツムリ見ただけで失神してたからな~。


「あ!そういえば、アグリッピナ様、この間、カタツムリ一匹持っていきませんでした?!」


ギク!

やっぱりリッラは本当に料理に関しては侮れない。


「あははは、暴露た?」

「あー、実際はジュリア様でしょ?」

「え?」

「そうね。ジュリア様なら考えられるわ。」

「あー、ジュリア様は本当にカタツムリがお好きらしく、貝殻取りとか手伝ってくださるんです。」

「ヘェ~。」

「でも、アグリッピナ様がいなければここに入ろうなんて考えないだろうから、ジュリア様一人だけでは無いはず。」

「エッへへへ。」


さてさて、リッラは器用にガチョウの身体を包丁でさばいていく。びっくりしたのは切り抜いた眼球迄も料理する事だった。


「リッラ、この眼球はかなりいいかもね、匂いかいでごらんよ。」

「あー、クンクン。確かにいい匂いしているわ。」


一見すると、料理するというよりは死体解剖をしているような二人。再びリッラはガチョウの身体を細かく包丁でさばいていくと、当然傍らでは、シッラがガチョウの羽根を綺麗にむしっている。


「あー、この羽根も食べたりはしませんが、料理の飾りとして後で使うんですよ。」

「なるほどね。それじゃ、無くしたりしたら大変だ。」

「大丈夫ですって、そんなに細かく羽根の数を数えているのは、あたしぐらいですよ。」


さてさて、リッラのガチョウ死体解剖が終わると、ようやく内臓の方へと取り掛かる。ひょろっとした首を何度も掴み直しては斬り込みをいれて、サクッサクッと肉ヒダから肝臓を取り出した。


「ほーら!やっぱり!たんまりと脂分が入ってるわ。」


ブヨヨンとした肝臓が、リッラの右手にぶら下がっている。確かに大きな肝臓だった。


「あー、あそこの養殖場のアキニウスはこれからガチョウの養殖場に変えた方がいいわね。」

「多分耄碌したんでしょう?大体、ガチョウと豚を間違えるなんて。ラテン人じゃないんだから、そんな嘘、誰が信じるのよ。」


するとリッラは肝臓を、先ほどのたっぷり蜂蜜が入った牛乳にボンボン放り込んで手揉みを始める。時折、下に溜まったドロドロの蜂蜜をまぶす様に。


「中の脂分まで蜂蜜と牛乳が染み込んでいけば、かなり想像した以上の旨味が出てくるはずよ。後はまぶす汁を作らないとね。」

「あー、こしょう、タイム、ラヴィッジをすり潰し、葡萄酒に魚醤のガルム、月桂樹の実、他には?」

「オリーブオイル、ミント、コリアンダーの種、ラヴィッジもいいわね。」


私は二人の言葉が魔法のように思えた。私は一生懸命牛肉と蜂蜜に浸された肝臓を揉んでいたら、料理部屋の室内が温かくなったせいか、ジュリアが施してくれた私の化粧が汗とともにこぼれ落ちちゃった。


「あああ!ごめんなさい。あたしのお化粧が牛乳の中に入っちゃった。」

「ええ?!」

「本当ですか?!」


確かに白い牛乳には、渦を巻きながらあたしの白塗りが揺れ動いてる。しかしそれを見てたリッラは何度もかき混ぜて、ついには指先で舐めて味わった。


「リッラ!何やってるの?!」

「あー、化粧の入った牛乳なんか舐めたら危険だって。」

「…間違いない。アグリッピナ様、このお化粧はどなたが?」

「ジュリアがしてくれたの。」

「やっぱり!あの娘はアグリッピナ様のお肌を傷つけない様に、天然の脂分を使っていたみたいね!」

「あー、天然の脂分って?」

「生乳から作った化粧品のバターよ!」


こうして初めて、化粧品だったバターがガチョウの肝臓料理の為に使われた。


続く


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