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紺青のユリ  作者: Josh Surface
第九章「初恋」乙女編 西暦22年 7歳
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第九章「初恋」第百六十三話

サートゥルナーリア祭五日目 夕方。

妹達や女友達の好意に甘える長女一人。


「アグリッピナお姉ちゃん、こうなったらもう一回!今夜にでもサイコロ賭博して、勝って、アラトス王子にお返ししたら?」

「ええ?」

「そうよ、姉さん。リウィッラの言う通りよ。折角ジュリアさんにこんなに綺麗にしてもらったんだから、自信だってついたでしょ?」

「で、でも…。」


私はジュリアの方を見た。

彼女も優しく微笑んで頷いてる。


「それこそアグリッピナ様には、大母后リウィア様から教えてもらった多くのものがあるじゃないですか~。大丈夫、今はちょっと怖がりになってるだけで、リウィア様から言われた通りにしていれば、心も身体も勝手に動いてしまいますって。」

「そ、そうかな?」

「姉さん、そうだって。ジュリアさんの言う通りよ。」


でもあの声、あの笑顔。

あんなに素敵な姿を前にしたら、私は絶対に顔が真っ赤になって、シドロモドロになっちゃう。


「やっぱり、無理だよ…。」

「もう!お姉ちゃん?」

「姉さん、前に大母后リウィア様から言われたの、忘れたの?」

「え?」

「"恐怖で目を背けて逃げるのならば、その恐怖を凝視して立ち向かえ"って。」


確かに言われたけどさ。

でも、それって敵とかの場合じゃない。王子は敵とかじゃなくって、なんて言うの。


「そんなの無理。だって、もし頑張っても笑われたらどうする?きっと幻滅させちゃったから、アラトス王子だって怒ってるし。」

「怒ってないって。元気良く駆けずり回って遊んでるよ?」

「え?何処で?」

「中庭で。」

「うそーーー!此処からめちゃくちゃ近いじゃない!?私が部屋に篭ってるのばれたらどうしよう?!」

「ってか、もうみんな知ってるって。」

「ええええ?!嫌だ!恥ずかしい!」

「んな事言ったって、いつも元気なアグリッピナお姉ちゃんが、突然部屋に閉じ籠ってれば、誰だって心配するし、気になるって。」

「あわわわわ、ダメだって。もう、そんな事まで知られたら立ち直れないよ~。」


私は頭を抱えて泣きそうだった。

だって、本当に心の中でアラトス王子の笑顔がいっぱい。はぁ~。するとジュリアが私の後ろで妹達に何か合図を送ってた。私は振り向いたけど、咄嗟にその合図を隠された。妹達はニヤニヤし始めて私に近づいてくる。


「ちょ、ちょっと!あっは!キャハハハハハハ!あんた達、ちょっと!あはは!キャハハ!やめ、やめてったら!キャハハハハハハ!キャハハハハハハ!」


くすぐりの刑だった。


「アグリッピナお姉ちゃん!もう一回頑張る?」

「キャハハハハハハ!」

「姉さんが、やるって言わない限り、くすぐるのをやめないから!」

「ちょ、ジュリア!やめなさい!キャハハハハハハ!」

「やめませんよ~アグリッピナ様!」


く、苦しい!

くすぐったくて笑いが止まらない。


「キャハハハハハハ!わか、分かったから!やるって!」

「お姉ちゃん~本当に?」

「キャハハハハハハ!やるから、もう、本当だって!」

「後で姉さんがやっぱり無理ってのは無しだからね。」

「キャハハハハハハ!くすぐるのをやめて~!苦しい!」

「アグリッピナ様!ユピテル様に誓って?」

「キャハハハハハハ!うん、誓う誓う!」


もう!

ジュリアってどうしてこういうのが上手いんだろう?なんだかいっぱい大きく笑ったら、さっきまで悩んでた事が吹き飛んだ。


「笑いに勝るものは無し、ですね?アグリッピナ様。」


完敗だった。

女性の美しさを引き出されたうえ、更にはくすぐられてもう一回立ち向かえと誓わされるなんて。そんな事まで出来るのは後にも先にも、ジュリア以外いない。


「負けた。あんた達の優しさに本当に完敗。というより、本当にありがとうだね。せっかく此処までしてもらっておいて、何もできないのってもったいないじゃない?」


私は三人にウィンクした。


「お姉ちゃん~。」

「姉さんって、やっぱり肝っ玉がどっか違うんだね?」

「アグリッピナ様は、本当に度胸は凄いんですから。物怖じなんて誰にもしないんですよ、本当は。」


好きになっちゃった人には別かな…?


「ヨーシ!そうなったら、早速テキパキと開始するっか?」

「え?もう、お姉ちゃん始めるの?」

「あったりまえでしょ?リウィッラ。先ずはフェリックスとのサイコロ・コンビを再結成して、兄さん達にもう一度勝負してもらえるように、懇願をしてみる。」


私は指を鳴らし腕を伸ばして、息巻いた。しかし、ジュリアはクスクス笑いながら、突っ込みをいれてくる。


「アラトス王子にも、ちゃんとご挨拶されるんですよね?」

「あ…。」

「アグリッピナ様は、大丈夫ですね?」

「うん。あたし、あの王子に単に憧れてるだけなのか?それとも本当に好きなのか?ちゃんと確かめてくる!」


王子の事、なぜか好きだ!って気持ちはいっぱいある。ちゃんと顔は見れないかもしれない。


「私の体内には神官カエサル様、その右腕アントニウス様、初代皇帝アウグストゥス様、そしてその右腕軍神アグリッパ様の血、そしてローマ国家の英雄ゲルマニクスお父様の血だって流れてるんだから。」

「うんうん!」

「怖いものなんてあるもんか!」

「そうそう!」

「たかがモエシア属州のアカイアにある小国王子一人じゃない!ユリウス氏族のカエサル家の血を引く者として、絶対に負けないわ!ぶちのめしてやる!」


あたしは鼻息も荒く、頑張る宣言をしてみた。


「お姉ちゃん、好きな人ぶちのめしてどうするの!」

「あそっか…。」

「姉さんって、やっぱりどこか極端な性格なんだよね。」

「はい…。」

「アグリッピナ様、たかが属州国って発言は…さすがにアラトス王子には印象悪く与えてしまうような…。」

「そうでした。」


あたしはやっぱり、男勝りなあたしなんだなって思った。


続く

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