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紺青のユリ  作者: Josh Surface
第九章「初恋」乙女編 西暦22年 7歳
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第九章「初恋」第百六十話

サートゥルナーリア祭四日目 夜。

カエサルの血を引く兄妹三人と高慢ちきな妻一人、奴隷二人と属州の小国王子一人。


「アグリッピナ様?」

「うん?」

「どうしたんですか?ボウっとしちゃって。」

「あ、フェリックス。うん、うんとね。なんでもないの。」


なんて声なんだろうか?

まるで夏のそよ風が耳元で囁くよう。

私は一瞬にしてアラトス王子の声に虜になってしまった。


「アグリッピナ様…大丈夫?」

「だ、大丈夫だって。ほーら、フェリックス頑張るよ!」


でも、アラトス王子の視線がとっても気になって、マトモな考えができていない。ダメだ。彼がじっと私を見つめているのが手に取るように分かる。


「アグリッピナちゃん!今夜は絶対に負けないからね!覚悟しなさいよ!」


いつもなら高慢ちきなリヴィアと口喧嘩できるのに、アラトス王子にそんな恥ずかしい姿は見せたくないって思ったら、なにも言えなかった。


「なんだ?アグリッピナ、お前緊張しているのか?」

「あ、いえ、ネロお兄様。」

「兄さん、観客にも賭けさせる案は絶対にアグリッピナが考えたんですよ。」

「あっはははは、知ってるさ。そうでなければフェリックスが、アグリッピナの前であんな勝手な事ができるわけない。」


どうしよう?

なんかあたし変だわ。まるで金縛りにあったみたいで…。あ!


"恋すると、ビビビっとね。"


ウソ!

これなの?えええ?!なんでこんな時に?どうしよう?恥ずかしいよ。男勝りだって思われたら。私はチラっとアラトス王子を見た。ふう、良かった。こっちを見てない。


「あっ。」


ニコっ。


なんなの~!

なんでわざわざ振り向いて笑顔見せるの~?この王子は。しかも笑顔がとっても綺麗。はぁーどうしよう。心臓がドキドキしてきた。


「うん、やっぱりネロ兄さんの言うとおり、アグリッピナは自分でし掛けといて緊張しているみたいだ。」

「うんうん、チャンス!」


違うって!

全然違う緊張だって!もう、お兄様達ったら。パッラスだけが静かに私を見つめていた。あー!恋って面倒くさい。


「では、勝負を始めます!」


観客達は一斉に盛り上がって、それぞれに賭けた相手を応援している。私はさっきからジッとアラトス王子から視線を受けている。その眼差しがとっても穏やかで品が良かったの。


「よっしゃー!」

「うおーー!ネロ様いきなり最高点!」

「よーし!僕も負けないぞう!」

「かかって来い、ドルスス!」


結果…。


サイコロ賭博の場は大いに盛り上がり、予想は大きく反せずネロお兄様の圧勝だった。私とフェリックスは最下位。しかもボロボロ負け。おまけにドルスス兄さんに多額の借金もする羽目に。


「アグリッピナ様…。なんで練習通り計算しなかったの?」

「フェリックス、ごめん…。」

「あ~あ!これじゃ当分頑張っても借金地獄だよ~!」


私は冷静に判断する事さえできず、もちろん計算もめちゃくちゃ。更には以前のフェリックス同じく、賭け金を取り戻そうと負担額を増やしてしまった。


「悪いなフェリックス、アグリッピナ。今日はとっても儲かったぜ!」

「ドルスス様、気持ちいいですな。」

「うう、パッラス兄ちゃん。」


けど、私は負けたお金なんてどうでも良かった。それよりも、唯一私を信じて私にだけ賭けてくれたアラトス王子に申し訳ない気持ちで、心が引き裂かれそう。俯いて落ち込んでいると、アラトス王子がゆっくり頬笑みながらこっちにやって来た。


「アグリッピナ様、予は貴女様が大母后リウィア様の元で、幼い頃から英才教育を受けていたと聞いたので信じたのです。それをサイコロ賭博は遊びとはいえ、男の世界では勝負は真剣にやるのが礼儀。残念です。」


そう言うと、またニコっと笑って向こうへ行ってしまった。

ショックだった。なんて事。とっても素敵な声で怒られてしまった。女だからって男の世界では甘えるなですって…。こんな気持ちじゃなければ、文句の一つでも言い返せるのに。はぁー。嫌だ嫌だ。自分が大っ嫌い。


「参ったな~どうやって借金返そう?アグリッピナ様?」


嫌だ嫌だ。

なんであたしこんなになっちゃったの?気持ちが全くおさまらず歯ぎしりして、しかめっ面していた。


「ア、アグリッピナ様?どうしたの?」

「ううう…。」

「アグリッピナ様?まさか、負けて悔しくて泣いてるの?」

「バカ!違う!」


ポカっ!

勘違いしているフェリックスの頭をげんこつで叩いた。


「痛って~!じゃぁ?なんで泣いてるんですか?」

「そんなの…。そんなの…。知るわけないじゃん!」


悔しい悔しい。

本当に悔しい。どうしてこんな気持ちになっちゃったんだろ?私は恋をして失敗した恥ずかしい自分に居た堪れなくなって、思わず地面にしゃがんで両手で顔を塞いで大泣きしてしまった。


続く

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