表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
紺青のユリ  作者: Josh Surface
第九章「初恋」乙女編 西暦22年 7歳
159/300

第九章「初恋」第百五十九話

サートゥルナーリア祭四日目 昼。

サイコロ賭博に俄然やる気を出してる兄二人、その妻一人、奴隷二人、そして一人必勝戦略を練る私。


「あら?アグリッピナ、もう食事はいいの?」

「はい、お母様。」


私はみんなよりも先に、正午の食事であるケーナを済ませて、中庭にフェリックスを呼んだ。


「ごめんなさい、アグリッピナ様。」

「遅いよ、フェリックス。」

「ちぇっ!これでも僕は早く来たんだよ。全く奴隷使いが荒いんだから…。」

「ブツクサ言わないの。」

「はい。」


私はフェリックスから奪った財産を全部返した。びっくりしたフェリックスは慌てて落ちた硬貨を拾ってる。


「ど、どうして?」

「あんたさ、私が入る前にこんだけ勝ってたって事だよ。つまりどういう事か分かる?」

「さぁ?」

「ちゃんと冷静に判断すれば、あんたが一番、サイコロ賭博が強いって事。」

「ええ?!でも、僕はアグリッピナ様にこんだけ負けたってことじゃん。」

「あんた、まさか私が運だけで勝ってきたと思うの?」

「え?じゃ、やっぱりインチキ?」

「それは、あんたの常套手段でしょ?」


フェリックスは恥ずかしそうにポリポリ頭をかいてる。


「私は此処ぞって勝負の時に、自分の損失額を減らしただけなの。」

「へ?どういう事?」

「ほーら、覚えてないでしょ?あんた、私が入る前はバカみたいに賭け金賭けてなかったのに勝てたでしょ?」

「うん…。確かに。」

「気が付いてないの?このサイコロ賭博の盲点を。」


するとフェリックスは必死に考え込んで思い出そうとしていた。そして何か閃いたみたい。


「うん?待てよ?まさか…。」

「そう、サイコロの合計点数で誤魔化されるけど、ようは賭け金で勝敗が決まるわけでしょ?」

「そっか!相手が多く賭け金を賭けてきても、自分が負けそうな場合なら少なく賭けて負担額を減らす。何故なら三回目のサイコロ振った時点で勝者だった人が総取りだからだ!」

「正解!つまり、二回目の自分のサイコロを振った時点で、相手との点数の差額を瞬時に計算し、最低の目を出しても30減るわけだから、そこで勝負するかしないか決めればいいの。」

「アグリッピナ様、すんげぇ~。」


私は更にサイコロを振った時の確率と計算式を地面に書いて、最低ラインの戦略方法をフェリックスに教えた。


「そんな事いつ気が付いたの?」

「あんたが私から自分の賭けた金を取り戻そうとして、前回と同じ金額を賭けた時、私は二回目で振ったサイコロの目では実はあんたに負けてたの。だから賭け金を少なくしてみたらドルスス兄さんが勝った。でも、損失額ではあんたには負けてなかったってわけ。」

「ひえぇ~。さっすがアグリッピナ様だ。パッラス兄ちゃんも言ってたけどさ、どうしてサイコロ賭博の時だけそんなに計算が早くできるの?」

「え?!嘘?」


あ、確かにそうだった。

全然気が付かなかったけど、やたらと頭の回転が早くなった気がする。


「やっぱりお金が絡むと女の人は違うのかな?」

「は?なんじゃそら?それよりもさ、実はあんたにはもう一つやってもらいたい事があるの。」

「何?」

「多分、見ている連中も白熱すると思うから、そいつらにも賭けをさせてさ…。」

「ええ?!」



夕方も過ぎると、私達のサイコロ賭博の話は、アントニア様が預かってる、どっかの属州国の王子達にも回っていった。浮き足立ってきた子供達が、ソワソワしてはしゃぎ出す様な感じ。きっと親達も知らなかったわけはないと思う。しかし、そこはサートゥルナーリア祭。多少の子供達の戯れは、大目に見られていた。ついにアントニア様のドムスの中庭隅で、ちょっとした戦いが始まろうとしていた。


「ドルスス、準備はいいか?」

「ええ、ネロ兄さん。」

「アグリッピナは?」

「もちろんですわ、お兄様。」


いつの間にかに、カエサルの血を引く兄妹対決になってたのも不思議。当時七歳の私は妙に冷静だった。観客は多くの身分階級の子供達がいっぱいで、私の出場に半信半疑の者もいれば、女の私に博打などと笑い出す連中もいた。


「フェリックス…。」

「うん。」


私は賭博の場を盛り上げる為、フェリックスに一世一代のパフォーマンスをさせてみた。観客が乗ってくるのは彼の演技次第だけど。


「さぁさぁローマにお住みの属州国の王子様達!今宵、カエサルの血を引く兄妹によるサイコロ賭博が始まろうとしております。」


属州国の王子達は、奴隷であるフェリックスのパフォーマンスに目を奪われて耳を傾けた。


「注目株はやっぱり、あの英雄ゲルマニクス様のご長男ネロ様!昨年は成人を迎えられて、立派に公務に携わっており、更には、あのティベリウス皇帝陛下のご長男ドルスッス様の、ご長女リヴィア様とも華々しくご結婚された事は記憶に新しい事と思います!」


フェリックスはこういう事がとってもうまかった。今考えれば、その道の役者奴隷よりも魅せ方を知っていたのかもしれない。ネロお兄様は、属州国の王子達へ笑顔で対応していた。隣にいる高慢ちきのリヴィアさえいなければな~。


「一方!英雄ゲルマニクス様のご次男でらっしゃるドルスス様は、来年は成人式を迎えられ、ご長男のネロ様にも引けを取らないほどのご実力!その計算力の早さには、個人的な事ではありますが、私の兄パッラスさえも凌駕するほど!ユリウス家一計算が早いお方です!」


ドルスス兄さんは照れながらも、"これ考えたのお前だろ?"って声に出さずにこっちを見て微笑んでいた。


「さてさて、忘れてはならないのが、長女のユリア・アグリッピナ様!女性でまだ弱冠七歳であられますが、皆様侮られてはなりませぬ!かの初代ローマ皇帝アウグストゥス様の遺産の後継者であり、伴侶であらせられる大母后リウィア様より、幼少の頃からみっちりと英才教育を受けられた方でもあります!」


そしてフェリックスはついに本題に入った。


「さぁさぁ!ローマにお住みの属州国の王子様達!見てるだけでは決してつまらないでしょう?!此処はカエサルの血を引く兄妹対決に、皆さんも誰が勝つのか、賭けをするのはいかがでしょう?!」


観客はフェリックスの提案に歓呼し、次々と我先にと賭けをする王子達が硬貨を出し始め、自然と場は盛り上がっていった。


「僕はやっぱりネロ様だ!」

「僕もネロ様に賭けるぞ!」

「いいや、ドルスス様だ!」

「ドルスス様こそが、勝者に決まってる!」


ドルスス兄さんは呆れてこっちを見ている。これで私以外の人に賭けられて、フェリックスが私に賭けて、私が勝利すれば、とんでもない額が!!


「では、予はユリア・アグリッピナ様に賭ける事にしよう。」


え?

それは滑らかなギリシャ語を優雅な佇まいで使い、透き通る様な白い肌と品性溢れる顔をした、モエシア属州のアカイアにある小国王子アラトスだった。


続く

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ